【要望書】入院医療機関の物価高騰に対する要望書

2025年4月21日

内閣総理大臣 石破 茂 殿
財務大臣 加藤 勝信 殿
厚生労働大臣 福岡 資麿 殿

全国保険医団体連合会
病院・有床診療所対策部
部長 吉中 丈志

このままでは、地域から入院医療機関がなくなる!
国民の命と健康を守ることは国の責務
直ちに財政出動し、診療報酬の大幅引き上げを求める

 

いま、医科・歯科の医療機関は経営危機に瀕しているが、とりわけ入院医療機関は病床利用率が100%を超えても赤字となるなど、このままでは借入金が払えずに経営が破綻し、入院医療機関がなくなる地域が続出してしまう。まさに、医療崩壊の危機が目前に迫っている。
この原因は、医療機関の経営の原資である診療報酬が長年にわたって著しく抑制されてきたことにあり、加えて新型コロナ入院患者を受け入れた場合の支出増と収入減、物価高騰、度重なる患者窓口負担拡大と実質賃金や年金の実質減額等による受診抑制等にある。
特に昨年の診療報酬改定では、2024年に2.5%、2025年に2%のベースアップを実施する「ベースアップ評価料」を新設したものの、2024年の民間企業の賃上げは大企業が5.33%(2024年民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況)であり格差はさらに広がっている。しかも、大幅な物価高騰が予測される中で、診療報酬本体の改定率は0.88%しかなく、ネットではマイナス0.12%であり、収支は大幅に悪化している。

保団連が今年2月に実施した「物価高騰に関する医療機関の緊急影響調査」(4,658の医科・歯科病院・診療所が回答)では、診療報酬改定によって、「収入が下がった」(65.5%)、「光熱費・材料費などが補填できていない」(91.8%)、「人件費が補填できていない」(90.3%)という状況であった。入院医療機関は、これに加えて新型コロナウイルス感染症等の院内感染対策や地域医療構想への対応として改築や医療機器の購入などによる借入金があり、その返済が困難な状況になっている。さらに建て替え時期になっている病院・有床診療所も多いが、その原資がない状況である。
一方、昨年9月に発表された2023年度法人統計によると、企業の内部留保は過去最大の600兆9,857億円(資本金10億円以上の大企業だけで539.3兆円。計上利益は76.3兆円、配当金は32.5兆円と過去最大)となっている。
特に大企業は、研究開発減税、連結納税制度、輸出戻し税など、税を軽減する特権的な措置がいくつも設けられており、利益に対する大企業の実質的な法人税負担率は10%程度しかない。大企業に応分の負担を求めるだけで社会保障費の財源は十分に確保できる。

そもそも国民の命と暮らし、健康を守ることこそ、政府の役割である。社会保障への支出は、消費として終わるのではなく、雇用を確保し日本経済を押し上げる効果を有する。また、社会保障分野の「総波及効果」は公共事業よりも高く主要産業より「雇用誘発効果」が高い。大企業に応分の負担を求めて、崩壊の危機に瀕している医療・介護をはじめとした社会保障に十分な財政投入を行うべきである。

こうしたことから、私たちは次の事項の実現を強く求めるものである。

一、患者・国民の命と健康を守るため、医療従事者・介護従事者の賃金を民間企業と同等水準に引き上げるとともに、医業経営が継続できるよう、次回改定を待たず医科・歯科の診療報酬・介護報酬を10%以上引き上げること。

①診療報酬・介護報酬引き上げと同時に患者負担や利用者負担の軽減を実施すること。
②診療報酬・介護報酬引き上げまでの間は、全額公費により、10%以上の診療報酬・介護報酬引き上げに匹敵する緊急財政措置を実施すること。
③入院時食事療養費及び入院時生活療養費については、物価・人件費の高騰分を患者負担にせず、保険給付分を増額すること。

一、福祉医療機構、日本政策金融公庫、商工中金、民間金融機関等からの借入金について、相当期間の支払い猶予措置を行うこと。

一、新型コロナウイルス感染症及び同等以上の感染対策が求められる患者を受け入れるための感染防止対策物資や空床確保に対する財政措置を実施すること。また、当該患者の入院を受け入れた場合は、感染対策などに係る経費を診療報酬で正当に評価し、大幅に引き上げること。

一、物価高騰対策として消費税を緊急に5%に引き下げること。控除対象外消費税の負担を解消とすること。

一、上記措置に対する財源は、大企業等への適正課税と、防衛費の大幅増額の中止で捻出し、患者・利用者負担を引き下げること。

要望書[PDF:447KB]