「わがままな妻」から「子どもがかわいそう」へ
小国香織(「別姓訴訟を支える会」副代表)
世の中には選択的夫婦別姓に反対する声があるが、かつてあった露骨な「改姓を受け入れない妻はわがままだ」というような意見は今は息をひそめ、子どもについての問題に収斂してきた感がある。「子どもの姓を夫婦どちらの姓にするか揉めるのではないか」「別姓の親の下では子どもがかわいそう」等である。
最近の国会質疑では、自民党の議員が「親子が別姓になってしまう」と問題にするようになった。夫婦が別姓を選んだなら、その子どもの姓は夫婦の片方と同じでもう片方とは違うということになる。ただ、それは論理的な帰結であり、別姓希望者は十分に理解している。また、そもそも夫婦が子どもを持つとは限らない。親子別姓が問題だという発想がないので、反対派からそういわれると「は?だから?」というぐらいしか言葉が出ない。
実際のところ、親が事実婚で別姓になっているにしても、法律婚をして改姓している親が旧姓を使用しているにしても、どちらも日常生活上「両親が別姓」に見える点で同じだ。人は戸籍謄本を胸にぶら下げて毎日を送っているわけではないし、父母の名前を学校に出すのは手続き上必要な時のみであり、学校の先生が父母の名字が同じか違うか、結婚か未婚かで子どもについて何か判断することもない。子ども自身から見れば姓は関係なく、お父さん、お母さんと日常的にいい人間関係ができていれば何も問題はない。
すっとんきょうな対案
ただ、反対している国会議員たちにとっては、民法を改正して戸籍上の「夫婦+子は同姓」の形を崩すのは「ダメ。ゼッタイ。」のようだ。日常生活で旧姓使用をして別姓になっていても、戸籍上で同姓であれば家族の絆は保たれ、子どもはかわいそうでないということなのだろうか。戸籍とはそんな家族円満のご利益がある魔法の道具なのだろうか。議員の本心からなのか、議員の票田や献金者から言われているのかは知らないが、反対派議員からは旧姓の「併記」や「通称使用」の拡大、法制化という言葉ですっとんきょうな案が生み出されてくる。
①旧姓を戸籍姓に併記する、②戸籍に改姓前後の姓を両方載せて旧姓を「法定旧姓」という新概念で認め、戸籍姓・旧姓どちらも使えるようにする、③旧姓使用の希望者には旧姓を「呼称上の氏」として認めそれだけの使用を認める、という自民党3案である。①と②は個人の日常の名前の使い勝手として実効性があるか不明で、③はほとんど別姓を認めたに同じだ(でも戸籍上同姓は崩してない!)。当事者の求めるシンプルな案を実現すると死んでしまう!と反対派は思っているのだろうか。
(全国保険医新聞2025年4月25日号掲載)
(おぐに・かおり)
「別姓訴訟を支える会」副代表。行政書士。2006年に夫の姓を夫婦の姓として法律婚をして今に至る。旧姓を職名として使うことが認められている国家資格のため法律婚を維持し旧姓使用中。第一次別姓訴訟の原告。