
医療従事者の賃上げ 全産業の半分
医療従事者の賃上げは2024年度、25年度の2年間でわずか3.4%だったことが分かりました。全産業平均は7.3%(24年度3.56%、25年度3.70%)で、医療従事者はこの半分にも満たない水準です。
1年間に3%を超える物価上昇が続く中、賃上げしたくても、保険医療の値段は国が定める「診療報酬」で決まっており、医療機関の判断で値上げすることはできません。すべての医療従事者の賃金を上げ、地域医療を守るために、基本診療料の引き上げが不可欠です。
「ベースアップ評価料」政府目標も下回る
厚労省は8月21日、中央社会保険医療協議会(中医協)の入院・外来医療等の調査・評価分科会で「ベースアップ評価料」(※1)届出医療機関の対象職員の賃上げ率を報告しました。それによると、24年度の賃上げ率は2.71%、25年度はわずか0.72ポイント増で、2年間で3.43%にとどまりました。政府は「2年間で4.5%」の賃上げ目標を設定していましたが、それすら1%以上下回る結果になりました。
事務職員は対象外
そもそも、ベア評価料は医療機関で働く全ての職員の賃上げを保障する仕組みではありません。事務職員などは「医療に従事する職員ではない」として、賃上げ対象として想定していないのです。医療機関を運営する上で不可欠なスタッフであるにもかかわらず、政府の賃上げ政策によって差別が持ち込まれています。
今年度は最低賃金引き上げ6.0%、人事院勧告3.6%など賃上げに関する指標が高水準で示されています。特に最低賃金はベースアップ評価料の対象として含まれない医療従事者に大きく影響します。ベア評価料の改善が必要なのはもちろんですが、それだけでは医療従事者の賃上げを達成することは困難です。
病院・診療所がなくなる前に――
医療従事者に、対象職種の差別なく十分な賃上げを行うには、医療機関の経営状況そのものを安定させる必要があります。
現在、日本の病院の約7割が赤字状態です。診療材料費や水光熱費などにかかる物価の上昇を医業収益の改善でカバーできなくなっており、病院団体は「このままではある日突然、病院がなくなる」と警鐘を鳴らしています。
帝国データバンクの調査によると、2024年の医療機関の倒産は64件で過去最多を更新しました。中でも診療所と歯科医院の倒産が過去最多となり全体を押し上げています。調査では、材料費(検査キットなど)や設備機器費の増大、人材確保・維持のための賃上げの支出増加などが事業環境を悪化させたと指摘しています。
このような状況では十分な賃上げは不可能です。
診療報酬には、初診・再診・入院の診療にかかる基本的な費用を保障し、医療機関経営の基盤となる「基本診療料」という項目があります。全ての医療従事者の賃上げを実現し、地域医療を守り充実させるためには、この基本診療料を大幅に引き上げ、医療機関の経営安定させることが不可欠です。
※1 ベースアップ評価料は、医療従事者の賃上げを目指して2024年度に診療報酬(医療機関が受け取る医療行為の対価)に新設された項目。
■中医協第9回入院・外来医療等の調査評価分科会(2025年8月21日)資料(スライド7)
最善尽くすも他産業に見劣り、医療現場が悩む「賃上げ対応」(日経メディカル)