【連載③】財政制度等審議会「社会保障」 看護職員等の賃金カット・抑制を促す不条理

2025年11月26日

診療所院長の年収(最頻値)は1千万~1,500万円、勤務医との比較は困難

財務省の財政制度等審議会(財政制度分科会)は、「診療所院長の所得は病院勤務医と比べて高い」として、2022年度の診療所(医療法人)の院長給与(平均値・約2,653万円)を示しているが、中央値では2,160万円と平均値より約500万円低い。最頻値では1,000~1,500万円であり平均値の半分程度となる(※)。ばらつきが大きく、平均値への注目は実態を正確に反映していない。
また、診療所院長は診療に加え、雇用管理、レセプト請求管理、設備保全、さらに行政・地域への対応はじめ経営全般を担っているため、勤務医と比較することは困難である。
個人立の院長(約3,200万円)についても問題視しているが、個人年収には所得税負担、建物・設備に係る更新費用なども含むため、3,200万円との記載は不適切である。
(※)中医協総会資料(2023年11月29日)

看護師など医療職種の賃上げを値切る

医療現場の賃上げについて、「職種別の賃金水準の格差を十分に考慮した」上で対応すべきとして、看護師の平均賃金(月収41.6万円)が全産業(同38.6万円)よりも高いとしている。その他の医療関係職種(医師、歯科医師、薬剤師、看護職員除く)についても月収34.1 万円であり、対人サービス産業(宿泊、飲食、娯楽など)の水準(月収29.6万円)よりも高いとしている。事実上、医療現場の賃上げは不要ではないかと示唆している。)

看護労働の実態を無視した比較

賃金には、「時間外勤務、休日出勤等超過労働給与」も含んでいる。看護師(病棟)は夜勤が多くなるため賃金水準が上がるのは当然である。過酷な夜勤を担う看護労働の実態を無視した形での賃金水準の比較は疑問である。
しかも、看護職員(准看護師含む)について、夜勤手当相当分を除外すると、2024年度は、月収38.0万円であり、全産業平均(38.6万円)を下回ることになる(※1)。
現に、看護職員の夜勤手当(夜勤1回あたり・割増賃金を除く金額)は2010年代以降、全く上がっていない。例えば、大半を占める2交代制において、2011年は11,276円のところ、2020年でも11,286円である(※2)。
(※1)「地域の医療・看護を守り抜くために医療機関等への財政支援を」(日本看護協会HP、2025年10月8日)
(※2)中医協入院・外来医療等の調査・評価分科会資料(2025年9月11日)

コメディカルの給与が低すぎる

その他の医療関係職種(医師、歯科医師、薬剤師、看護職員除く)にしても、月収は34.1万円であり、物価高騰の中、子育て費用、家計を支えるには厳しい水準に代わりない。そもそも、比較されている対人サービス産業(宿泊、飲食、娯楽など)の水準(月収29.6万円)が低すぎることが問題である。
医療・福祉関係職の賃上げ状況も世間の相場に追いついていない。賃上げ状況(2023年、2024年)では、産業全体が各々4.1%、3.2%に対して、医療・福祉従事者は1.7%、2.5%と半分の水準に留まっている。かえって、2022年度以降、給与格差は拡大している(※)。
医療現場からの人材流出を食い止めるため、医療現場の賃金引上げに向けて、診療報酬の大幅な引き上げは急務である。
(※)社会保障審議会医療保険部会資料(厚労省、2025年10月23日)