高額療養費制度の限度額引き上げの大臣合意に抗議する

2025年12月24日

2025年12月24日

 

 

高額療養費制度の限度額引き上げの大臣合意に抗議する

 

全国保険医団体連合会

厚労大臣と財務大臣は、12月24日、高額療養費制度の在り方を検討する専門委員会での取りまとめを踏まえ、全所得区分を対象に自己負担限度額を引き上げることに合意しました。

具体的には、多数回該当の据え置きや現役世代への年間上限額の新設、年収200万円未満の所得区分での多数回該当の引き下げなど低所得・長期療養者に配慮する一方、2026年8月に自己負担限度額を一律引き上げた上で2027年8月には、現在の所得区分(4区分)を13区分に細分化し、限度額をさらに引き上げるものです。

今年3月に多くの患者・国民の反対を受けて高額療養費の限度額引き上げを凍結しました。しかし、今般の引き上げ提案を受けて「当事者の声を聞くということだったが、文字通り『聞いた』だけだったのか」と怒りの声がSNSでも急速に広がっており、限度額引き上げ撤回を求めるオンライン署名は17万3千筆に達しました。

 

限度額引き上げは治療断念につながる

物価高騰で実質賃金が低下し、高額療養費制度を利用せざるを得ない重症疾患を持つ患者の家計は医療費負担で逼迫しています。また、高額療養費制度を利用する患者は、病気で事業の休業や就労制限を余儀なくされており、所得の減少の中、貯蓄を取り崩す等で何とか治療費を捻出している状況にあり、金銭的な余裕はまったくありません。

専門委員会でも病気で収入が減少することを考慮した調査や検討は全く行われていません。現行の限度額でも高すぎて利用できない状況にあり、さらなる負担上限引き上げは治療中断に追い込むことになります。

 

現役世代(70歳未満)の8割が負担増に

70歳未満で年1回以上制度を利用した方は、397万人に上ります。大臣合意では、年1回から3回制度を利用する方の限度額引き上げを提案しており、対象人数は約320万人で全利用者(70歳未満)の8割に及びます。また、すべての所得区分で負担増となりますが、年収650万~770万円の所得区分では現行の限度額8万100円から2年後には11万400円と約3万円・37%も増加します。

1回から3回までの限度額が引き上げられると月ごとの医療費が限度額に到達しなくなり、多数回も適用されなくなる患者が生じることが懸念されます。長期療養者にとっても重い負担になります。

 

外来特例は55%値上げ、年間12万円の負担増

70歳以上に適用される外来特例も年収200万円から370万円の所得区分では現行の1万8千円から2万8千円と55%増となり月額1万円の増加、年間では12万円の負担増となります。制度を利用している患者は、腎不全、乳がん、肺がん、アルツハイマー病(認知症)、糖尿病、脳梗塞など重い病気で入通院しています。特に70歳以上で罹患数が増加する乳がん、肺がんなどの外来化学療法を行っている患者に大きな影響が出ます。

 

現役世代のリスクも増大、子育て世代への不安拍車

応能負担は患者負担ではなく税や社会保険料負担にこそ適用されるべきです。重症疾患の患者に応能負担を求めることは治療中断による重症化や生命の危機を招くだけであり、疾病給付や社会保険の概念とも相いれません。

「現役世代の保険料負担軽減」も根拠の一つとしていますが、保険料負担軽減は公費投入で解決すべき課題です。制度の持続可能性を維持することを理由に限度額を引き上げると、大病を患っても実際には利用できない制度となり、むしろ現役世代のリスクが増大することになります。

当会が実施した緊急アンケートには「子ども3人おり出費がかさむ。大学進学の予定だが不安が尽きない」、「抗がん剤で仕事ができず小学生、中学生の子どもを抱え夫が一馬力では負担が増えれば生活が困る」など限度額引き上げによる家計や教育費への心配が数多く寄せられています。子どもを持つがん患者や家族にとって、高額療養費制度が使えなくなることは、不安でしかありません。若い世代に対しても子どもを産み育てることそのものが「リスク」というマイナスのメッセージになります。高額療養費制度の自己負担限度額の一律引き上げや所得区分細分化による限度額引き上げ(外来特例含む)は撤回し、すべての所得区分の限度額引き下げこそ実施すべきです。