【談話】コロナ禍や新興感染症に十分対応できる体制確保のためにも 診療報酬の抜本的な底上げ、改善を

※全国保険医団体連合会は、2月9日に答申された2022年度医科診療報酬改定について、下記の談話をマスコミ各社に送付いたしました(PDF版はこちら[PDF:302KB])

2022年2月15日
全国保険医団体連合会
副会長 武村 義人

 新型コロナ感染拡大のもと、疲弊した医療現場の立て直しは喫緊の課題である。それにも関わらず、昨年(2021年)12月22日に発表された診療報酬の改定率は、本体+0.43%、ネット(全体)での改定率では-0.94%であった。本体+0.43%は、新型コロナウイルス感染症到来前の2020年度の本体+0.55%よりも低くなっている。さらに中身を見ると、「看護の処遇改善」で+0.20%、「不妊治療の保険適用」+0.20%が含まれている。「リフィル処方箋(反復利用できる処方箋)の導入・活用促進」で-0.10%、「小児の感染防止対策に係る加算措置(医科分)の期限到来(算定できる期限は2022年3月末日まで)」-0.10%を差し引いた、医療全体に活用できるいわゆる「真水」の部分は+ 0.23%に過ぎない。

補助金を含めても医療機関全体がコロナ前の経営水準に戻っていないことは、昨年11月の医療経済実態調査結果で明確に示されている。このような改定率では、コロナ以前の医療水準への回復も困難であり、疲弊した医療現場の抜本的改善には程遠いものである。
また、今次の診療報酬改定の基本方針では、コロナ感染対応を重点課題として位置付けているにも関らず、感染防止対策に係る特例廃止、PCR検査等の評価の引き下げが行われた。小児の感染防止対策に係る特例も3月に廃止される予定である。これまでの医療費抑制政策を引き継ぎ、患者、国民への安心、安全の医療に背を向けたものだと言わざるを得ない。感染防止対策のために、抜本的な診療報酬の上積みが今こそ必要である。保団連は現段階の感染状況や、今後の変異株への対応、新興感染症に十分対応可能な診療報酬の抜本的引き上げを求めるものである。

なおこの間一貫して、極端に短い周知期間は大変異常であること、社会的にみても非常識だと訴えてきたが、そのことは前回改定以降のレセプト請求コード化をめぐる医療機関の混乱と負担増を見れば明らかである。また今回も前回同様のコロナ禍の中の改定であり、医療界は一致して要件強化を伴うような大幅な改定は避けるべきだと訴えてきた。この点でも政治の責任が問われる。 少なくとも 改定後の混乱が生じないように対応することを強く要求する。

改定の主な内容

感染対策は全ての医療機関を正当に評価すべき-発熱外来体制確保評価も限定的

コロナ感染拡大を踏まえ、地域で診療所や中小病院が大病院と連携し、院内の感染防止対策を強化した場合を新たに評価することとして、医科診療所に外来感染対策向上加算(6点)が新設される。初・再診料など19項目の点数に加算(患者1人につき月1回)となる。 ただし、新興感染症の発生時などに、都道府県等の要請を受けて発熱外来等(ホームページで公表)を実施するとともに、院内に感染防止対策部門を設置し、医師・看護師等の専任の感染対策責任者は感染防止に係る日常業務を実施しつつ、職員研修を実施する。併せて、責任者は地域の病院や医師会が主宰するカンファレンスや感染症発生想定時の訓練への参加が求められる。入院医療機関を対象に新設された感染対策向上加算3も発熱外来の体制確保などを求めている。 しかし動線分離が難しく、かつ人員が限られる一般診療所にはハードルが高い。医療機関は全ての患者について感染疑いを前提に対応している。全ての医療機関を正当に評価し、余裕をもって感染対策にあたれるようにするべきである。

受診抑制ありきの「リフィル処方箋」導入

外来医療では「リフィル処方箋」が導入される。これは中医協を飛び越えて、大臣折衝で一方的に決められたものであり審議会軽視も甚だしいものである。コロナ禍による受診控えに伴う症状悪化や疾病重症化も見られる中、「再診の効率化」を理由に、安全性を置き去りに経済性を前面にしたものであり、外来受診の抑制を狙うものである。長期処方の在り方が問われる。診療を薬剤師によるモニタリングに置き換える点も問題である。
「かかりつけ医」機能強化に向け、機能強化加算の算定医療機関に直近1年間の地域包括診療加算2等の算定実績要件を導入、これまでの算定要件緩和路線から転換する。これに「情報提供の徹底」や「病歴・受診歴・処方歴の確認」等の要件を追加する。また外来医療の機能分化・強化の一環として、紹介状なし受診患者の定額負担徴収について、対象病院の拡大を図るとともに、一定額(医科病院の初診で2,000円、再診で500円)を保険給付範囲から控除し、代わりに同額以上に定額負担の額を引き上げて、患者より徴収する。これは患者の一部負担について「将来にわたり100分の70を維持する」とした国会決議に反する疑いがあり、さらに実質的に初診・再診料を保険から外す保険免責制の導入となるため撤回を要求する。

初診からのオンライン診療の解禁は撤回せよ

過去に受診歴のない患者に対する「初診からのオンライン診療」が解禁される。この間あくまでも「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的、特例的な取扱い」(4月10日事務連絡)において認められているのみである。にもかかわらず、現状は、デジタル化への集中投資として医療のマーケット化を画策する視点から、「初診からのオンライン診療」の恒久化の議論が進められた。このような推進ありきの議論は看過できない。そもそも保険診療上のルール、医療は対面が原則、ということからすれば、離島や僻地などへの患者の医療アクセス維持のため等の、医療機関へのアクセスが制限される解決困難な場合に行うべきであって、営利目的での拡大は医療の否定につながることを認識すべきであり、撤回するべきである。さらに通常のオンライン診療は点数が引き上げられる。それによる誘導や対象疾患拡大が図られるとともに、外来診療割合や時間・距離要件の撤廃などのハードルが取り払われるなど算定拡大を狙うものである。在宅時医学総合管理料等にオンライン診療を併用した場合の点数を新たに設定するが、単一建物診療患者の人数による評価の差の問題がさらに広がり、複雑さが増すこととなるのは問題である。

国の責任で医薬品の安定供給の実現を

後発医薬品の供給停止は、現在はおよそ3100品目にまで上っていると報道されている(12/12朝日新聞)。このような中で医療機関や薬局に行渡りにくくなっており、解消には2年かかるとの指摘もある。この状態の一刻も早い解消が求められる中、依然として後発医薬品の使用促進強化のため、後発医薬品使用体制加算及び外来後発医薬品使用体制加算について、後発医薬品の使用数量割合の基準が引き上げられる。安定供給は政府国の責任である。まず一刻も早い安定供給を実現するべきである。また原薬の生産を海外に依存するのではなく、国内自給を高めるための対策も検討するべきである。
湿布薬の保険給付上限枚数が70枚から63枚にカットされる。日本には腰痛症にかかる人は厚労省の調べで2800万人とも言われており、痛みの範囲によっては1日に複数枚貼るケースもある。このような保険外しは患者を医療から遠ざけるものであり、一律に給付枚数を制限するべきではない。不妊治療の保険適用では、全額公費から国負担が4分の1で済む公的医療保険財政に移行される。これにより以前よりも多い患者負担が発生することとなれば本末転倒である。その点は厳重に指摘しておきたい。また疾患別リハビリテーション料の算定日数超の場合でリハビリを継続する場合、機能的自立度評価法(FIM)測定が要件化される。これにより医療保険のリハビリ継続がこれまで以上に限定され、「リハビリ難民」が生まれかねないことを危惧する。そもそもリハビリテーションは、医師が指示するPT、OT、ST等の専門職種による医療行為である。必要なリハビリは全て医療保険で実施できるようにするべきである。

マイナンバー制度の推進に反対する

オンライン資格確認システムを活用して、患者の薬剤情報等を取得・活用した場合の評価として、電子的保健医療情報活用加算(初診料+7点、再診料+4点)が新設された。政府はマイナンバーカードによるオンライン資格確認をマイナンバーカード普及策のため強引に進めてきた。そのシステムを使った医療情報の取得・活用を診療報酬で評価することは、医療費を使ってマイナンバー制度の普及・定着を推し進めようとするものであり、容認できない。保団連は、待合室でのマイナンバーカードの使用は個人番号漏洩のリスクを高めるとして、マイナンバーカードを用いた資格確認に反対してきた。オンラインでの資格確認や情報活用のシステム整備は、個人番号制度とは切り離して進めるべきであり、マイナンバーカードありきのシステム使用の評価は凍結すべきである。
以上のように、今次改定もオンライン診療の初診解禁、紹介状なし病院受診時定額負担増と保険給付外し、マイナンバーカード普及誘導のための加算の新設、外来、在宅、リハビリなどのデータ提出加算の新設、後発医薬品の使用促進など、患者・国民の健康悪化をよそに政策推進ありきの改定が目立つ。

ACP要件化で一層在宅での看取り推進など負担しわ寄せ-単一建物評価は温存

在宅医療においては、支援診以外の診療所の在宅参入を促すとして、継続診療加算を在宅療養移行加算と名称変更し、24時間体制について、地域の医師会・市町村の当番医制等に加入して確保した場合でも算定可能とした「2」を新設、緩和することは評価できる。しかしその一方で、支援診・支援病の施設基準に「人生の最終段階における適切な意思決定支援」(ACP)として、指針を定めることを要件化する。これにより在宅での「看取り」の推進を図る狙いだが、在宅医療への一層の負担のしわ寄せである。保団連は「患者の看取り数(死亡数)」を実績要件として施設基準を満たすことは不適切であり、全ての支援診療所等の要件から撤廃すべきであると要求している。ACPについては施設基準とするのではなく、患者の立場に立った安心した医療実現のための十分な対応が可能となるよう訪問診療料、訪問看護・指導料等の基本的な評価を引き上げて実現を図るべきである。

重症度、医療・看護必要度の厳格化は中止を

入院では重症度、医療・看護必要度の内容が厳格化(心電図モニターの管理の削除等)される。コロナ禍が収束していないことや、新興感染症に備える医療体制構築の議論が不十分な中で、基準の厳格化の実施は止めるべきである。これでは基準を満たせない病院が立ち行かなくなり、再び医療崩壊の事態を招きかねない。さらに地域包括ケア病棟における自院内転棟の患者が多い場合の減算拡大、入退院支援加算の届出有無での評価区別、地域包括ケアの療養病棟の評価引き下げ、回復期リハ病棟入院料の要件厳格化、療養病棟における中心静脈栄養実施の医療区分3の厳格化、25対1病床(現在経過措置)の廃止を前提とした点数引き下げとFIM測定の導入など、現場への締め付けはさらに厳しくなる。コロナ禍で奮闘する医療機関にとって、非常に過酷な改定だと言わざるを得ない。
また短期滞在手術等基本料3の大幅な対象追加により、平均在院日数及び重症度、医療・看護必要度を満たすことが困難となる。短期滞在3は、短期入院(4泊5日以内)で実施する手術等を包括した点数で、どの病棟に入院していても、これが該当すれば短期滞在3で算定しなければならず、平均在院日数や重症度、医療・看護必要度の計算から除外される。
「看護の処遇改善」については、2月~9月までは補助金で実施された上で、10月より診療報酬での評価となるが、算定できるのは救急搬送件数200件/年以上又は救命救急センターに限られる。処遇改善は、全ての医療機関において、全ての職員に必要であり、そのためには診療報酬の大幅な底上げこそ必要である。また医師の働き方改革を迫るも、加算に偏重の上、クラーク(経験年数評価導入)、代替人員の手当なき「特定行為」研修推進、看護補助者も看護職員による研修(負担)を求めるなど、中小病院への手当には程遠い改定である。
評価できる内容もある。6歳未満の乳幼児に対して耳鼻咽喉科の医師が一定の複数の処置を実施することを評価する、「耳鼻咽喉科乳幼児処置加算」が新設される。また、汎用点数である静脈血採取料、皮下・皮内・筋肉内注射料、静脈内注射料等が2点引き上げ、鼻腔・咽頭拭い液採取が20点引き上げられる等の改善があった。今後出される取扱い通知上でもこの間の不合理是正を含めた算定要件の改善がされることを要望したい。