※保団連は5月23日に厚労省に要望書を提出しました。PDF版はこちら
2022年5月23日
厚生労働大臣 後藤 茂之 様
2022年医科入院診療報酬の不合理是正要求
全国保険医団体連合会
病院・有床診療所対策部会
部長 吉中 丈志
前略 新型コロナウイルス感染症対策に対するご尽力に敬意を表します。
さて、今年4月1日に、コロナ禍の中で2回目となる診療報酬改定が実施されました。
しかし、新たに設定された診療報酬の算定要件や施設基準では、患者が必要な医療を受けられない事態となってしまいかねない問題があります。
また、コロナ禍によって、入院治療を担う病院・有床診療所では、従来以上の人的、物的、経済的な負担が発生しています。
全国保険医団体連合会では、5月に病院・有床診療所対策部会を開催し、今次改定における不合理是正要求について検討し、下記の点の改善を求めることとしました。
入院外の不合理是正要求は、今後改めて提出する予定であるが、入院医療について、早急に下記事項の改善を図られるよう、強く要求するものです。
記
1.入院の全般的事項について
⑴ 施設基準の経過措置期間の延長について
要件が変更となった施設基準については、一定の経過措置期間が設定されているが、これらは新型コロナ感染症拡大による影響を勘案していない。現在、緊急事態宣言及びまん延防止等重点措置は発令されていないものの、感染患者及び重症患者は、高水準を維持し、患者の受診状況及び医療供給体制にも大きな影響を及ぼしている。このため、下記の対応を行うこと。
① 2022年度改定の経過措置期間について、直ちに全ての経過措置を半年延長すること。
② 今後、緊急事態制限及びまん延防止等重点措置が発令された場合は、その期間を勘案して経過措置期間を延長すること。
③ 2022年改定において地方厚生局では診療報酬改定に伴う説明会(改定時集団指導)を実施していない。このため、経過措置期間が終了し、引き続き当該点数を算定するためには施設基準の届出が必要な医療機関に対して、きめ細かく地方厚生局から注意喚起を行うこと。
⑵ 平均在院日数の計算対象から除外する短期滞在手術等基本料1の取り扱いの改善
今次改定で追加した告示別表第二の二十四(別表第十一の一に規定する手術又は検査を行った患者)については、「短期滞在手術等基本料1に規定する手術・検査を日帰りで実施した場合のみ、平均在院日数の分母と分子から除外する」扱いとすること。
(理由)厚労省は、平均在院日数から除外する取扱いについて今次改定で追加した告示別表第二の二十四(別表第十一の一に規定する手術又は検査を行った患者)について、「入院患者が短期滞在手術等基本料1に規定する手術・検査を実施した場合は、平均在院日数の分母から除外するとともに、分子からは当該手術又は検査を実施した日のみ除外する」としている。この扱いでは、長期に入院する患者に、短期滞在手術等基本料1に規定する手術・検査を実施することができない。必要な手術・検査が実施できるよう、「短期滞在手術等基本料1に規定する手術・検査を日帰りで実施した場合のみ、平均在院日数の分母と分子から除外する」扱いとすべきである。
2.重症度、医療・看護必要度及び平均在院日数の計算対象からの除外について
そもそも重症度、医療・看護必要度や平均在院日数要件は、当該病棟での過重平均を判断するために導入されたもののはずだが、度重なる改定によって、測定対象からの除外対象が恣意的に増やされてきた。これでは、過重平均を判断するものとは言えない。少なくとも、下記①~③については、直ちに改善を図るべきである。
① 患者に必要な急性期医療を提供するためには、重症度、医療・看護必要度のA項目から「心電図モニターの管理」を削除すべきではない。A項目の1~4に準じるものとして、直ちに評価対象として復活させること。
(理由)「心電図モニター」は、重症患者の状態を把握するために非常に重要である。削除は、急性期入院医療が必要な患者から入院医療を奪うことになりかねない。
② 重症度、医療・看護必要度の測定にあたっては、短期滞在手術等基本料1及び3を除外しないこと。
(理由)重症度、医療・看護必要度は当該病棟における医学的管理及び看護の必要度を評価するものであり、短期滞在手術等基本料1及び3を除外するべきではない。
③ 平均在院日数の測定にあたっては、短期滞在手術等基本料1及び3を除外しないこと。
(理由)平均在院日数は、当該病棟における入院患者の平均在院日数を把握するものであり、短期滞在手術等基本料1及び3を除外するべきではない。
3.療養病棟入院基本料の包括範囲から、内視鏡下嚥下機能検査を除外すること。
(理由)中心静脈影響を実施している患者(医療区分3)について、摂食・嚥下機能の回復に必要な体制がなければ、医療区分2の点数を算定することとされたが、内視鏡下嚥下機能検査を実施しても、療養病棟入院基本料に包括され、別途算定できない扱いは不合理である。
4.入院基本料等加算について
⑴ 有床診療所においても、下記の入院基本料等加算の届出・算定が可能とすること。
・A231-4摂食障害入院医療管理加算
・A233-2栄養サポートチーム加算
・A236褥瘡ハイリスク患者ケア加算
・A242呼吸ケアチーム加算
・A242-2術後疼痛管理チーム加算
・A247認知症ケア加算
・A247-2せん妄ハイリスク患者ケア加算
(理由)上記の基本料等加算は、それぞれに定められた人員を配置することなどが要件とされているが、有床診療所においても実施が可能である。有床診療所でも届出・算定を可能にすることで地域の医療提供体制の充実が図られることから、有床診療所においても届出・算定を可能とすること。
⑵ 有床診療所及び病棟が1つのみの病院は、医療資源の少ない地域にある保険医療機関に準じ、医師事務作業補助者の配置のみでA207-2医師事務作業補助体制加算(20対1補助体制加算から100対1補助体制加算に限る)の要件を満たすものとすること。
(理由)医療資源の少ない地域にある保険医療機関においては、医師事務作業補助者の配置のみでA207-2医師事務作業補助体制加算の届出・算定が可能である。2024年から本格的に実施される医師の働き方改革に対応するためには、有床診療所及び病棟が1つのみの病院は、医療資源の少ない地域にある保険医療機関に準じて、医師事務作業補助者の配置のみで届出・算定を可能にすべきである。
⑶ 感染対策向上加算及び外来感染対策向上加算について
① 感染対策向上加算と外来感染対策向上加算を併せて届出・算定できるようにすること。
(理由)コロナ特例で算定できていた医科外来等感染症対策実施加算(1回につき5点)、入院感染症対策実施加算(1日につき10点)よりも低い評価であるにもかかわらず、施設基準が非常に厳しい。少なくとも、感染対策向上加算と外来感染対策向上加算を併せて届出・算定できるようにすべきである。
② 施設基準の大幅な緩和と報酬引き上げを行うこと。特に、新興感染症等への対応(感染患者の受け入れ・発熱患者の診療、ゾーニング・導線分離、訓練、協議など)については、感染対策向上加算及び外来感染対策向上加算の施設基準から除外した上で、保健所の機能強化や国庫負担の投入等により対応を図ること。
(理由)多くの医療機関が感染対策を充実させることこそ必要である。また、新興感染症等への対応は、患者負担を伴う診療報酬によって措置すべきものではなく、国の負担によって実施すべきものである。
③ 感染対策向上加算1の施設基準通知の1の⑺において、「⑵のチームにより、保健所及び地域の医師会と連携し、感染対策向上加算2又は3に係る届出を行った医療機関と合同で」カンファレンスを行うこととされているが、コロナ禍が収まるまでは、「保健所及び地域の医師会と連携し、」については、努力規定とすること。
(理由)コロナ禍によって連携体制がとれない保健所や地区医師会が少なくない。当面の間は努力規定とすべきである。
④ 感染対策向上加算1の相互評価については、当面の間、努力規定とすること。
(理由)従来感染防止対策加算1の届出を行っていても、新たに感染対策向上加算1の届出ができない医療機関が非常に多く、相互評価を行うことが困難な場合がある。当面の間は、当該要件について努力規定とすること。
5.特定入院料について
⑴ 回復期リハビリテーション病棟入院料の届出について、入院料1と入院料5の組み合わせを可能とすること。
(理由)入院料1を有する病院が新たに病棟を増やそうとすると、入院料1を入院料2又は4の下方基準にしなければならないのは、大変不合理である。
⑵ 地域包括ケア病棟入院料について
① 新型コロナウイルス感染症患者等を受け入れた保険医療機関等(令和2年8月31日付保険局医療課事務連絡:その26)は、注1、注9,注10、注11、注12の減算規定を適用しないこと。
(理由)新型コロナウイルス感染症を受け入れた病院や、受入病院に職員を派遣した病院及び学校等の臨時休業に伴い、職員の勤務が困難となった病院、新型コロナウイルス感染症に感染し又は濃厚接触者となり出勤ができない職員が在籍する病院、新型コロナウイルスワクチン協力病院等については、これらに対応するために、要件を満たせない状況が発生する。このため、当該減算規定の適用は行わないようにすべきである。
② 地域包括ケア病棟入院料の施設基準通知の⑽の「オ 訪問看護ステーションが当該保険医療機関と同一の敷地内に設置されていること」との要件について、下記の場合も、これに該当する扱いとすること。
ア 当該保険医療機関において訪問看護を実施していること
イ 看護小規模多機能型居宅介護事業所が同一の敷地内に設置されていること
ウ 訪問看護サービスを行う定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業所が同一の敷地内に設置されていること
(理由)訪問看護ステーションの設置については、施設基準通知の⑽は、当該医療機関が地域医療に果たす役割を評価するものであるはずで、訪問看護ステーションの設置だけでなく、訪問看護の実施も要件とすべきである。
③ 医療法の療養病床である地域包括ケア病棟入院料の点数の引き下げを止めること(注1の減算を廃止すること)。
(理由)医療法の療養病床である地域包括ケア病棟入院料の点数が実質的に大幅な削減となったが、これは地域医療に果たしてきた療養病床である地域包括ケア病棟入院料の役割を無視するものである。
6.短期滞在手術等基本料について
⑴ 回復室の勤務について、診療所については一定の要件を満たせば、准看護師の勤務でも可とすること。
(理由)診療所においては、准看護師のみの勤務も少なくない。診療所においては「患者が回復室にいる時間帯に、医師が院内において待機(診療に従事していても良い)しており、かつ、状態に変化がある場合は直ちに医師が診察を行える状況にある場合であって回復室における対応についてマニュアルを定めている場合は、准看護師が常時患者4人に1人の割合で回復室に勤務していることでも良い」こととすること。
⑵ 短期滞在手術等基本料1のイ(2,947点)は、麻酔の種別にかかわらず麻酔を伴う場合に算定できることとすること。
(理由)麻酔を伴う手術を行った場合(2,947点)の算定を、全身麻酔、硬膜外麻酔、脊椎麻酔に限るとの疑義解釈が示されたが、告示及び通知ではそのような制限を読み取ることはできない。告示・通知で読み取れないにもかかわらず、算定点数を低くする扱いを行うべきではない。麻酔の種別にかかわらず、麻酔を伴う場合は、イの2,947点を算定できるようにすること。
7.DPC/PDPSについて
⑴ 短期滞在手術等基本料3に相当する診断群分類は、入院期間Ⅰを1日で固定した点数設定方式Dによる設定をやめること。
(理由)短期滞在手術等基本料3は、医科点数表においては4泊5日以内の点数として設定されている。入院期間Ⅰを1日で固定した場合は、必要以上に入院期間が短縮される可能性がある。少なくとも入院期間Ⅰを1日で固定する設定方式ではなく、患者に対する入院医療の必要性、安全性を考慮した点数設定とすること。
⑵ 診療行為や薬剤料等が包括されている外来診療に係る評価における診療行為等の外来EFファイルへの出力義務化を撤回すること。少なくとも、2023年3月末まで経過措置を延長すること。
(理由)包括点数の中身の出力義務化は、請求になんの関係もなく、病院への過重負担となるもので不合理であり、実施すべきではない。少なくとも経過措置を延長すべきである。
8.診療報酬明細書の「摘要」欄への記載事項について
⑴ 医療機関の負担増となるレセプト請求のコード化による問題を直ちに解消すること。
(理由)コード化によって、医療機関に多大な負担が生じている。次回改定を待たず、簡素化を図るべきである。
⑵ 別表Ⅲ「診療報酬明細書の「摘要」欄への記載事項等一覧(検査値)」の記載義務化を撤回すること。少なくも、2023年3月末まで経過措置を延長するとともに、今後の改定において、DPC病院以外に範囲を広げないこと。
(理由)検査値の記載義務化は、請求になんの関係もなく、病院への過重負担となるもので不合理であり、実施すべきではない。少なくとも経過措置を延長すべきである。また、こうした取り扱いをDPC病院以外にひろげるべきではない、
9.入院時食事療養費、入院時生活療養費を早急に引き上げること。
(理由)入院時の食事は医療の一環として提供されるもので、患者さんの病状にあわせて栄養状態を改善し、疾患の治癒・病状回復の促進に不可欠である。コロナ禍の中で、従来以上に献立や調理にも感染防止対策の強化による負担がかかっている。これらの費用を評価し、次回改定を待たず、早急に引き上げを行うべきである。なお、4月から物価が高騰しているが、コロナ禍やロシアによるウクライナ侵略という特殊事情であることを勘案し、これらの費用については、患者負担とすることなく、医療機関への緊急補助金として対応すべきである。
10.サイバー攻撃を受け、電子カルテや診療報酬請求システム等が損害を受けた場合は、概算請求を認めること。また、データ提出加算を含めた施設基準要件についても特例的な対応を行い、要件を満たすものとすること。
(理由)サイバー攻撃は、自然災害と同様の被害をもたらす。地域住民に必要な医療を継続して実施できるよう、概算請求や施設基準要件の特例を認める必要がある。