2022 年7月 29 日
内閣総理大臣 岸田 文雄 様
財務大臣 鈴木 俊一 様
厚生労働大臣 後藤 茂之 様
ワクチン接種推進担当大臣 松野 博一 様
新型コロナ対策・健康危機管理担当大臣 山際 大志郎 様
全国保険医団体連合会
会長 住江 憲勇
【要望書】新型コロナウイルス感染症対策に関する緊急要望書
新型コロナウイルス感染症は1日に20万人もの新規感染者が確認され、先週の新規感染者数は世界最多となるなど、これまでにない規模の感染拡大となっています。
ここまで感染が急拡大した原因はオミクロン株「BA.5」への置き換わりにありますが、国内での感染急拡大をもたらした要因の一つには、政府が十分な感染防止策をとらないで6月から入国制限と空港検疫を大幅に緩和したことも影響しています。また、医療提供体制の確保に対する措置も全く不十分で、このままでは医療崩壊となってしまいます。
全国保険医団体連合会では、こうした状況が起きる可能性が非常に高いことから5月23日の政府への要望書では、①4回目のワクチン接種対象者に、医療従事者や介護・障害者施設等の従事者を含めること、②PCR検査の拡大・徹底を行うこと、③保健所の体制を強化するとともに、公立・公的病院など病床削減計画を見直すこと、④中等症以上及び重症化リスクのある軽症患者が入院治療を受けられるよう、コロナ対応病床の確保及び当該医療機関に必要な報酬を支払うこと、⑤医科・歯科医療機関の感染対策を支援するため、外来等感染症対策実施加算、入院感染症対策実施加算、乳幼児感染予防策加算を復活すること、⑥施設基準を含めた診療報酬の臨時特例措置を感染収束まで継続すること、⑦感染症対策の抜本的強化を図ることなどを求めました。
7月下旬になってようやく政府は医療従事者等へのワクチン接種を開始するとともに、7月までとしていた電話等による診療147点及び二類感染症患者入院診療加算の特例措置が9月まで延長されましたが、そのほかの要望は必要・不可欠であるにもかかわらず、ほとんど対応されていません。
政府は、オミクロン株への感染急拡大が予想されたにもかかわらず、十分な対応をせず、感染が拡大すると濃厚接触者の把握・管理をも投げ出し、そのつけを医療機関と患者・国民におしつけようとしています。
このままでは医療崩壊を招き、新型コロナウイルス感染症患者だけでなく、コロナ以外の急性期や慢性期の医療についても十分な対応ができなくなってしまいかねません。これまでにない感染拡大により、新型コロナへの感染や濃厚接触が広がり、医療・介護をはじめ、様々な生活インフラが重大な危機に瀕しています。
当会は、国民の命と健康、そして生活を守るために、次の事項の実現を強く求めるものです。
記
1.感染症拡大防止の徹底
⑴ 国民の命と健康、生活を守る観点から、社会経済活動を極力損なわないことを前提とした緊急事態宣言の発令等も含め、新型コロナ感染症拡大防止に有効な取り組みを経営や生活困難に対する財政措置とセットで早急に実施すること。
⑵ こまめな換気、3密回避、人と会話をするときや混雑する場所での効果的なマスク着用、手洗い、消毒、口腔ケアの重要性など、科学的知見に基づいた感染対策が徹底できるよう、周知すること。また、感染対策が実現できるよう、全ての国民、教育機関、医療機関、福祉施設、高齢者施設、中小企業等に感染防止対策の財政措置を行うこと。
⑶ 海外の感染状況を踏まえ機敏に対応するよう、検疫の方針をあらため、体制の強化をはかること。
2.新型コロナ感染症患者に対する医療体制の確保を早急に図ること
⑴ 今年9月末を事業期間としている「新型コロナウイルス感染症患者等入院受入機関緊急支援事業補助金」について10月以降の継続を早急に決定し、通知すること。また、重点医療機関の要件を満たさない一般医療機関の病床確保料の単価増及び、回復期の患者を受け入れる後方支援病床の確保についても設備整備に対する財政措置制度を創設すること。
⑵ 今年9月末まで延長された「電話等による診療(新型コロナウイルス感染症・臨時的取扱)147点」「二類感染症患者入院診療加算(外来診療・診療報酬上臨時的取扱)250点」について、10月以降も算定できるようにすること。また、感染拡大期における診療・検査医療機関の負担を考慮し、検査の実施件数に基づく補助を行うこと。
⑶ 外来等感染症対策実施加算、入院感染症対策実施加算、乳幼児感染予防策加算を復活すること。また、「感染対策向上加算」についても、対象・要件を緩和すること。
⑷ 施設基準を含めた診療報酬の臨時特例措置を感染収束まで継続すること。
⑸ 保健所の体制を強化するとともに、公立・公的病院など病床削減計画を見直すこと。
⑹ 軽症患者等を対象とするホテル等を借り上げた宿泊・療養施設の十分な整備と、必要な医療スタッフ配置、往診体制の確保に責任をもち、必要な報酬を支払うこと。
⑺ 自宅療養を余儀なくされる人の健康観察やケアの提供に万全を期し、重症化の発見が遅れないようにするとともに、生活を保障する措置を行うこと。
⑻ 治療薬の開発及び有効性・安全性の検証・配備に全力を挙ること。
3.PCR検査の拡大・徹底を行うこと
⑴ PCR検査の診療報酬点数の大幅な引き下げは、検査体制の弱体化につながる危険性がある。検査が赤字とならないよう、検査料・判断料を引き上げること。
⑵ 診療・検査医療機関に限らず、希望する全ての医療機関でPCR検査が公費負担で実施できるようにすること。
⑶ 検査の結果が、陰性か陽性かにかかわらず初・再診料、検体採取料、院内トリアージ実施料、二類感染症患者入院診療加算など新型コロナウイルス感染症検査に不可欠な診療費用についても、患者負担が発生することなくすべて公費負担とすること。
⑷ 全ての医療機関、介護保険施設・障害者施設等の職員及び入院・入所者については、定期的なPCR検査を全額公費負担により実施できるようにすること。
⑸ 教育機関の職員及び園児・児童・生徒・学生についても、定期的なPCR検査を全額公費負担により実施できるようにすること。
⑹ 無症状者を含めた希望するすべての人が費用負担なくPCR検査を実施できるよう、検査キットの確保・検査体制の確立に責任を持つこと。
4.ワクチン対策の強化
⑴ 医療従事者やエッセンシャルワーカーへのワクチン接種を早急に進めること。
⑵ いま使用されている新型コロナウイルスワクチンはオミクロン株には効果が限定的であると言われている。一日も早く変異株にも効果が高く、安全性が高い新たなワクチンの開発に、企業間、国家間の垣根を越えて、全力を挙げること。
⑶ 国が医療機関に支払う新型コロナウイルスワクチンの接種費用を、少なくとも初診料と同額(2,880円)とし、時間外や休日は、初診料の時間外加算(850円)、休日加算(2,500円)と同額を上乗せすること。12歳未満児に対する加算を設けること。訪問診療とは別日に在宅でワクチンを接種する場合は、往診と同額を加算すること。
⑷ 国としてワクチンの有効性・安全性をしっかりと検証するとともに、有害事象が発生した場合の補償・治療体制を構築すること。
⑸ 歯科医師による新型コロナワクチン接種について、法律上の位置づけを明確にし、法律による適法性を確保すること。
5.2類相当から5類相当への引き下げは慎重に検討すること。新型コロナ感染症対策の基本であるワクチンを含めた感染対策、検査、治療については、引き続き政府の責任と負担により実施すること
6.下記の財政措置等を実施すること
⑴ 感染拡大局面において、医療・歯科医療従事者をはじめ、すべてのエッセンシャルワーカーを対象に、改めて慰労金(感染拡大特別手当)を支給すること。また、新型コロナウイルス感染症患者等の診察や治療などに携わる医療従事者に対する特殊勤務手当に係る経費を支給すること。
⑵ 感染又は濃厚接触となったスタッフについても給付対象とするよう雇用調整助成金の特例措置の要件を拡大、家賃支援給付金制度を継続すること。持続化給付金は再支給し、事業規模に応じた金額とすること。
⑶ 自治体が独自に医療機関への支援策が実施できるよう、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金や地方交付税の増額など行うこと。
⑷ 減収著しい専門科への財政措置を強化すること
⑸ 医療機関における実質的な減収を補填する財政措置を緊急に行い、少なくとも感染拡大による損失(赤字)が生じないようにすること。
⑹ 今後の感染拡大による減収に対して、迅速、簡便な減収補填策として、過去の診療実績をふまえた診療報酬支払時の補填を希望する医療機関に認めること。
⑺ 光熱水費の高騰や食材料費の値上げなど、物価の著しい高騰による医療機関・介護事業所・障害福祉事業所の経営困難に対して、必要な財政措置を講じること。また、患者負担を伴わない形で入院時食事療養費・入院時生活療養費を引き上げること。
7.受診抑制をなくすために、次の対策を行うこと。
⑴ 2022年10月に予定されている75歳以上の窓口負担2割化を止めること。
⑵ 生活保護審査を簡素化し保護要件を大幅緩和すること。扶養義務照会をやめること。
⑶ 通常の国保証をすべての加入者に届け、国保資格証明書の交付を止めること。
⑷ 新型コロナ感染症は未曽有の災害である。国保料・介護保険料の引き上げをやめ、国保法44条減免・77条減免を活用し、低所得者及び収入が減少した世帯については、医療保険・介護保険の保険料・患者負担・利用者負担の徴収を直ちに免除すること。
⑸ 妊産婦や子どもの受診抑制をなくすためにも、18歳までの子どもの窓口負担無料制度と、妊産婦の窓口負担無料制度を国の制度として創設すること。
⑹ 無保険者をなくすこと。当面無保険者であっても通常の医療が受けられるようにし、受療案内を徹底すること。
8.感染症対策の抜本的強化を図ること。
⑴ コロナ禍によって日本の社会保障制度の脆弱性が露呈された。充実した社会保障こそ、感染症対策の基本である。すべての人が必要な医科・歯科医療、介護・福祉サービスを受けられるよう、社会保障を抜本的に拡充すること。
⑵ 特に、認知症の方や障害者、要支援者・要介護者、妊婦、小児などの感染防止対策について、丁寧かつ十分な対策を図ること。
⑶ 少なくともOECD平均の医師数確保を目指し、公的責任で医師数の養成を行い、医師不足の解消を図ること。看護師をはじめとした医療従事者の養成にも公的責任を果たすこと。
⑷ 国の責任でインフラ整備と平時の感染症関連予算を大幅に増やし、流行時には緊急対応・臨時的な増強ができるようにすること。
① 保健所や地方衛生研究所の数・体制・予算を強化し、公衆衛生行政を確立すること。
② 国立感染症研究所の機能強化を行うこと。日本版CDC(疾病予防管理センター)を創設し、感染症に対応できる仕組みを構築すること。
③ 救急医療体制やICU・HCU、感染症病床の運営補助制度を創設・拡充すること。
④ 一般病院・有床診療所や、介護・障害者施設等において感染対策が図れるよう、機械換気設備、遮断施設、消毒設備設置に対する補助金制度を創設すること。
⑸ 新型コロナウイルスに関する科学的な情報提供に努めること。ワクチン接種の有無による差別的な取り扱いや、新型コロナウイルス感染者・家族等に対する誹謗・中傷・差別・偏見の排除に努めること。