【声明】中医協におけるオンライン資格確認の原則義務化をめぐる提案について

中医協におけるオンライン資格確認の原則義務化をめぐる提案について

 8月3日開催の中医協総会において、医療DX対応(その1)が取り上げられ、2023年4月から保険医療機関・薬局においてオンライン資格確認導入を原則義務化するとした「骨太の方針2022」記載の具体化が議題となった。厚生労働省は、「(オンライン資格確認等)システム導入の前提となる院内等の電子化が十分進んでいない」ことから、「現在紙レセプトでの請求が認められている医療機関・薬局を、原則義務化の例外とする」ことについて提案した。

 

地域医療に甚大な支障・影響

当日の中医協資料によれば、全医療機関・薬局のうち、オンライン請求を行う医療機関は約66%に対して、約30%は光ディスク、約4%は紙レセプトで請求している(2022年3月請求状況)。医科診療所では23.7%、歯科診療所では66.8%が光ディスクであり、施設数は各々2万、4.5万と膨大な数にのぼる。紙レセプト請求以外の医療機関にオンライン資格確認導入が義務化されれば、医科診療所で96.5%、歯科診療所で91.4%が対象となり、事実上、完全な義務化に近い形となる。オンライン資格確認の本格運用開始より10月間を経て、カードリーダーを申し込んだ医療機関は全体の6割であり、実際に運用開始した医療機関等は全体の25.8%、とりわけ医科・歯科診療所では2割にも満たない。残り半年足らずで9割超の診療所が義務化対象となれば、地域で対応できない医療機関が相次ぎ、地域医療提供に甚大な支障・影響が出かねない。

 

義務化中身の不明瞭な議論は乱暴

また、厚労省は、義務化の具体的中身に関わって、「療養担当規則等」で明記する方針を示したが、義務化の対象となる医療機関が対応しない場合、公的保険診療が提供できなくなるのかどうかなど具体的な意味・解釈は示されていない。義務化の具体的意味も不明瞭なまま、義務化する医療機関の範囲を決めるよう求めることは無理があり、乱暴な議論と言わざるを得ない。現に、中医協では、日本医師会代表の長島公之委員は、療養担当規則で義務化した場合「どうしてもやむを得ぬ事情により対応できなかった医療機関が、即座に保険医療機関が取り消されるような厳格な意味であれば、地域医療現場に大混乱を来す」と危惧を示している。また、紙レセプト請求を認めている医療機関以外にも、「離島・へき地や回線施設が十分でない場合、ベンダーの対応により対応できない場合などが生じる」など懸念を示し配慮を求めている。

 

先行き不安で義務化議論は非現実的

医療機関への働きかけが強引に推し進められてきた5月下旬以降の進捗ペースから見ても、2023年3月末までに半数弱の医療機関等がオンライン資格確認を運用開始する状況である。医科診療所は3割弱、歯科診療所は4割未満に到達するかどうかのペースであり、実際には、新型コロナウイルス感染状況の行方、半導体市場の逼迫はじめとした機材供給不足やベンダーの対応能力なども考慮すれば、その進捗も不透明と見るのが現実的である。ましてや、来年3月末までに9割を超える診療所での導入義務化などは非現実的な設定・議論というべきである。

 

オンライン請求回線の完全整備は不可能

そもそも、オンライン資格確認を行うにはオンライン請求回線の整備が必要となるが、ここ数年を見ても、オンライン請求を開始する医療機関の増加ペース(支払基金実績)は年2~3%前後である。半年足らずで、現在電子媒体で請求する24%の医科診療所、7割近い歯科診療所が、オンライン請求回線を整備することも非現実的な想定と言わざるを得ない。

当初2023年3月末までに概ね全ての医療機関でオンライン資格確認の導入を目指すと努力目標にしていたにすぎない中、新型コロナウイルス感染症危機が襲う中、少なくともスケジュール工程の延期が検討されてしかるべきところ、逆に2023年3月末までに原則義務化するという本末転倒な政府決定がされたこと自体が問題である。

 

2割近くでトラブル報告

今回の中医協資料では、オンライン資格確認を導入した医療機関のヒアリング(医科・歯科・調剤各2~4施設)を基に医療機関と利用した患者の声がメリットとして強調されている。他方、地域の保険医協会の調べでは、実際に運用を開始した医療機関において、利用者が極めて少ない中でも、2割近くの医療機関から電子カルテやレセコンなどシステム回りの動作の支障はじめ、リーダー操作への患者の無理解・読み取り時の支障や、保険者によるデータ更新の遅れ・不備などトラブルが報告されている。また、オンライン資格確認を導入していない医療機関では「マイナンバーカードで診察してくれ」「保険証は捨てた」といったケースも報告されるなど、国の一方的な宣伝に伴い医療現場に実害も聞かれている。あくまでオンライン資格確認の導入は医療現場の任意(自由)に委ねるのが現実的であり、導入の原則義務化は行きすぎである。

 

厚生労働省は、全国津々浦々に安全・安心な医療提供を保障する重責を担っている。患者・国民が望まず、医療機関においてリスク・負担も抱えるオンライン資格確認について導入の強制を図る政府方針に対して異議を唱えるとともに、危機的状況にある医療提供体制の再建・拡充にこそ力を注ぐべきである。

本会は、改めてオンライン資格確認の導入義務化について撤回を強く求めるとともに、コロナ第7波の下、患者の治療・救済に全力を注ぐ医療機関に対して徒に不安を煽るオンライン資格確認導入に向けた働きかけは即刻中止するよう要望するものである。