【声明】保険証で安心して受診できる国民皆保険制度を守るべき ~「24年秋の保険証廃止を目指す」大臣会見について~

会長名声明【声明】保険証受診できる皆保険制度守れを報道発表しました。
※厚労大臣、デジタル大臣に送付しました。

                         2022年10月14日

全国保険医団体連合会

会長 住江憲勇

 

保険証で安心して受診できる国民皆保険制度を守るべき

~「24年秋の保険証廃止を目指す」大臣会見について~

 

河野太郎デジタル大臣は、10月13日の記者会見において、関係省庁に検討いただいた結果として、「2024年度秋に現在の健康保険証の廃止を目指す」と表明した。6月の政府の「骨太の方針2022」では、マイナンバーカードを保険証利用するオンライン資格確認について「医療機関・薬局に2023年4月から導入を原則として義務付けるとともに、…さらにオンライン資格確認の導入状況等を踏まえ、保険証の原則廃止(※加入者から申請があれば保険証は交付される)を目指す」としていた。今回の大臣の発言は、「24年秋」と具体的に時期を明言した上で、「原則廃止」ではなく「廃止」を目指すと大きく踏み込んだものである。

 

1.混乱招き、あまりに乱暴で稚拙な施策

河野大臣は、現在の保険証を廃止してマイナンバーカードで受診するよう求めているが、「マイナンバーカードがないと医療が受けられなくなるのか」「医療機関でのシステム不具合時はどうなるのか」「(認知症、独居・高齢単身はじめ)マイナンバーカードを管理できない人や、所持したくない人はどうするのか」など困惑・危惧が噴出している。政府は、マイナンバーカードを普及させたいがために、患者・国民、医療現場にいたずらに混乱を持ち込んでいる。保険証の廃止は、税金(マイナポイント)や太鼓(宣伝)でも普及しないマイナンバーカードの保険証利用について、法令で強制(保険証廃止)して進めればよいという、あまりに乱暴で稚拙な施策と言わざるを得ない。

 

2.患者・国民は保険証廃止など望んでいない

政府は税金(マイナポイント)を使いマイナンバーカード取得やその保険証処理化を促進しているが、現在、マイナンバーカードで受診する患者は、平均して週に病院で3人強、診療所(医科、歯科)、薬局では1人にすぎない(8月実績推計。厚労省審議会資料などより)。マイナンバーカードを持っていてもほとんどの患者・国民は保険証で受診している。マイナンバーカード紛失に伴うリスクなどから、自宅等に厳重に保管しているのが現実である。患者・国民は、使い慣れた保険証をわざわざ廃止してマイナンバーカードに一本化してほしいなどとは求めてもいない。患者・国民が望んでいない保険証廃止を強引に押し付けることは国民主権・民主主義にもとるものである。

 

3.命と健康を楯にマイナカード強制は許されない

大臣会見後の質疑でも相次いだが、保険証の廃止は、国民皆保険制度を採用する我が国において、マイナンバーカード取得の事実上の義務化に等しい。マイナンバーカード取得は「任意」とする法令に明らかに抵触するのみならず、プライバシー権や思想・良心の自由など憲法違反の疑いが極めて強いものと言わざるを得ない。命と健康に関わる医療を人質に取って、自身の思想・信条等に反してマイナンバーカードを取得するか、医療を受ける権利を諦めるかの選択を強いるようなことは到底許されるものではない。

 

4.地域医療の疲弊・崩壊に拍車かける

現在、マイナンバーカードで受診(オンライン資格確認)できる医療機関は3割にすぎない(10月2日時点)。2023年3月末までのオンライン資格確認の体制整備の原則義務化をめぐり、各地から、小規模(スタッフが少ないなど)、高齢・閉院予定、離島・へき地や設備投資費用が重い(見積りが高い、建物構造上改修が難しいなど)など様々な事情で体制整備できないといった悲痛な声や、システム整備するメリットが低い・ないと判断する医療機関からは一律義務化は不合理といった声が多く寄せられている。本会を構成する保険医協会の調査では、このまま義務化となれば「閉院・廃院を考える」と回答する医療機関が1割に及び、義務化を契機にして、全国各地から「この機に閉院を検討したい」との相談が日々寄せられている。こうした中、2024年秋までにすべての医療機関でオンライン資格確認を行うことを当然視するがごとき今回の大臣会見は、地域を熟知した医師・歯科医師等の閉院・廃院をさらに後押し、地域医療の疲弊・崩壊に拍車をかけるものである。

 

5.マイナ一本化はリスクヘッジ上も不合理

マイナンバーカードで常時受診となれば、マイナンバーカードが常時携帯されることとなり、院内含め紛失・盗難等のトラブルは各段に増え、個人情報流出や経済的被害などのリスク拡大は図り知れない。医療機関では、常時オンライン接続に伴うセキュリティ対策強化、マイナンバーカード紛失・更新切れ・破損時への対応の負担に留まらず、停電・システム不具合時などには診療に多大な支障が生じかねない。大規模な災害・システム障害ともなれば、医療現場が大混乱することは必至である。これまで同様、保険証は原則交付、マイナンバーカード利用は自由とする形が合理的であり、保険証廃止はリスクヘッジの上でも不合理と言わざるを得ない。

 

6.マイナ受診は任意が簡便・合理的

合わせて、同日、加藤勝信厚生労働大臣は、「保険料を納めている人が保険診療を受ける権利を持つのは当然であり前提だ」と指摘し、認知症など様々な事情でマイナンバーカード取得が難しいケースも考えられるとして「持っていない人が診療を受ける際にどういう手続きをしていくのか、事情を踏まえて考えていく必要がある」と述べ、マイナンバーカードを持っていなくても受診できる措置を取るとしている。国民皆保険制度を国是とする下で当然の措置であるが、そうであれば、保険者や加入者に余計な事務負担を課すのではなく、これまで通り加入者に保険証を交付した上でマイナンバーカードの利用は任意(選択)に委ねる形がもっとも簡便かつ合理的である。

 

本会は、患者・国民の命と健康を守る医師・歯科医師の団体として、政府に対して「2024年秋に保険証廃止を目指す」方針について撤回を求めるとともに、保険証で安心して受診できる国民皆保険制度を守るよう強く要望するものである。