【要望書】新型コロナウイルス感染症第8波から国民の命と健康を守るための緊急要望書

全国保険医団体連合会では、11月中旬にも新型コロナ感染症の第8波が起こる可能性が極めて高いことを踏まえ、下記の要望書を総理、財務大臣、厚労大臣、ワクチン担当大臣、新型コロナ担当大臣に提出しました。[PDF:401KB]

2022年10月21日
全国保険医団体連合会
会長 住江 憲勇

新型コロナウイルス感染症第8波から国民の命と健康を守るための緊急要望書

7月から始まった新型コロナウイルス感染症の第7波は、かつてない規模の感染拡大を引き起こし、新規感染者数が1日に20万人を超える日も多く、世界保健機構の週報では世界最多をなんども繰り返した。
感染の主流がオミクロン株に置き換わったことや、ワクチン接種の拡大、治療技術・治療体制の拡充、自治体や保健所、治療にあたるスタッフの懸命な努力で、重症化率・重症者数は低下しているものの、死者数は第6波を凌駕している。また、感染の急速な拡大は、コロナ以外の入院や手術の延期など、通常医療の提供にも大きな影響を及ぼした。
この原因は、政府が十分な感染防止対策や医療提供体制の確保、経済的に困窮している人々への救済策をとらないまま、「経済最優先」の施策を続けたことにある。
さらに政府は、新型コロナ陽性患者の発生届が必要な対象者を縮小したことで、在宅で療養している陽性者のフォローが十分にできない状況となっている。
第7波が十分に収束しないまま、感染が再拡大しはじめており、冬にかけて、インフルエンザとのツインデミックによる第8波が起こる可能性は極めて高い。
このまま第8波が来れば、医療崩壊を招き、新型コロナウイルス感染症患者だけでなく、コロナ以外の急性期や慢性期の医療についても十分な対応ができなくなってしまいかねず、医療・介護をはじめ、様々な生活インフラが重大な危機に瀕してしまう。
一部に2類相当から5類相当への引き下げを検討する動きもあるが、新型コロナウイルス感染症の感染・伝播性、毒力及び治療薬の開発状況を鑑みれば、当面の間は、2類相当を維持すべきである。
政府においても10月13日には「新型コロナ・インフル同時流行対策タスクフォース」を設置し、対策に乗り出しているが、不十分である。
当会は、国民の命と健康、そして生活を守るために、次の事項の実現を強く求めるものである。

1.10月13日の第1回タスクフォースに提出された「新型コロナウイルスと季節性インフルエンザの同時流行に備えた対応」について、早急に下記の見直しを行うこと。

(1) 何よりも国民の命と健康、生活を守ることは政府の責任であることを明記し、予防からコロナ後遺症への対応まで、必要な医療の確保及び財政措置を行うこと。
(2) 「新型コロナウイルスと季節性インフルエンザの同時流行に備えた対応」では、重症化リスクが低い患者が、検査キットによる自己検査が陰性でインフルエンザ罹患が疑われる場合は、対面診療だけでなく電話・オンライン診療で臨床診断を行い抗インフルエンザ薬等の処方を行うことが例示されている。しかし、電話・オンライン診療では他の疾患による発熱等の症状が見すごされる危険性がある。基本的には対面診察を原則とすることとし、そのためにはセンター方式による発熱外来の整備を格段に増やすとともに病床及び職員の確保のための財政措置を行い、新型コロナ・インフル対策と通常の医療の確保を両立させること。また、保険医療機関が行う発熱外来については、検査件数に応じた財政措置を行うこと。
(3) 発熱などの体調不良時に備えて購入する検査キットや解熱鎮痛剤の費用は、公費適用とすること。

 

2.2類相当から5類相当への引き下げは慎重に検討すること。

(1) WHOがパンデミック終息宣言を行うとともに、国内においても感染・伝搬性、毒力が相当程度低下し、有効かつ安全性が確保される治療薬が開発・普及されるまでは、2類相当を維持すること。新型コロナ感染症対策の基本であるワクチンを含めた感染対策、検査、治療については、引き続き政府の責任と負担により実施すること。
(2) 行政の責任で、全ての陽性患者に対して、支援及び必要な医療の提供が遅滞なく行えるようにすること。特に「発生届」外であっても医師が必要と認めた患者は届け出ができるようにすること。

 

3.新型コロナ感染症患者に対する医療体制の確保を早急に図ること。

(1) 新型コロナウイルス感染症対策事業及び新型コロナウイルス感染症重点医療機関体制整備事業における病床確保料について、即応病床使用率による減額を行わないこと。
(2) 今年10月末を事業期間としている「新型コロナウイルス感染症患者等入院受入機関緊急支援事業補助金」について11月以降の継続を早急に決定し、通知すること。また、重点医療機関の要件を満たさない一般医療機関の病床確保料の単価増及び、回復期の患者を受け入れる後方支援病床の確保についても設備整備に対する財政措置制度を創設すること。
(3) 今年10月末まで延長された「電話等による診療(新型コロナウイルス感染症・臨時的取扱)147点」「二類感染症患者入院診療加算(外来診療・診療報酬上臨時的取扱)250点」について、11月以降も算定できるようにすること。また、感染拡大期における診療・検査医療機関の負担を考慮し、検査の実施件数に基づく補助を行うこと。
(4) 外来等感染症対策実施加算、入院感染症対策実施加算、乳幼児感染予防策加算を復活すること。また、「感染対策向上加算」についても、対象・要件を緩和すること。。
(5) 施設基準を含めた診療報酬の臨時特例措置を感染収束まで継続すること。。
(6) 保健所の体制を強化すること。。
(7) 急性期病床を中心とする病床削減計画を直ちに中止すること。地域医療構想を前提とした医師・看護師需給計画を抜本的に見直すこと。。
(8) 軽症患者等を対象とするホテル等を借り上げた宿泊・療養施設の十分な整備と、必要な医療スタッフ配置、往診体制の確保に責任をもち、必要な報酬を支払うこと。。
(9) 自宅療養を余儀なくされる人の健康観察やケアの提供に万全を期し、重症化の発見が遅れないようにするとともに、生活を保障する措置を行うこと。
(10) 治療薬の開発及び有効性・安全性の検証・配備に全力を挙ること。
(11) 平時と新興感染症など有事における差額について減収分を補填する「初期流行医療確保措置」を創設し、減収補填がされた場合は以降の局面において補助金と清算(返還)することが議論されているが、新興感染症対応には特別な費用がかかる。従って、過去の診療報酬の収入以上の補償をしないような制度設計は行わず、病床や医療機器の確保、医師・看護師・スタッフの確保の費用について十分な財政措置を行うこと。

4.入院公費28の番号発出の遅れがないよう、早急に対応方法を改善すること。

5.PCR検査等の拡大・徹底を行うこと。

(1) 診療・検査医療機関に限らず、希望する全ての医療機関でPCR検査が公費負担で実施できるようにすること。
(2) PCR検査の診療報酬点数の大幅な引き下げは、検査体制の弱体化につながる危険性がある。検査が赤字とならないよう、検査料・判断料を引き上げること。
(3) 検査の結果が、陰性か陽性かにかかわらず初・再診料、検体採取料、院内トリアージ実施料、二類感染症患者入院診療加算など新型コロナウイルス感染症検査に不可欠な診療費用についても、患者負担が発生することなくすべて公費負担とすること。
(4) 全ての医療機関、介護保険施設・障害者施設等の職員及び入院・入所者については、定期的なPCR検査を全額公費負担により実施できるようにすること。
(5) 教育機関の職員及び園児・児童・生徒・学生についても、定期的なPCR検査を全額公費負担により実施できるようにすること。
(6) 無症状者を含めた希望するすべての人が費用負担なくPCR検査を実施できるよう、検査キットの確保・検査体制の確立に責任を持つこと。

6.ワクチン対策の強化を図ること。

(1) 新型コロナワクチン及び新型インフルエンザワクチンの接種を早急に進めること。また、国としてワクチンの有効性・安全性をしっかりと検証するとともに、有害事象が発生した場合の補償・治療体制を構築すること。
(2) 国が医療機関に支払う新型コロナウイルスワクチンの接種費用を、少なくとも初診料と同額(2,880円)とし、時間外や休日は、初診料の時間外加算(850円)、休日加算(2,500円)と同額を上乗せすること。12歳未満児に対する加算を設けること。訪問診療とは別日に在宅でワクチンを接種する場合は、往診と同額を加算すること。
(3) 歯科医師による新型コロナワクチン接種について、法律上の位置づけを明確にし、法律による適法性を確保すること。

7.新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(いわゆる後遺症)の治療技術・治療体制の構築及び、著しい症状を来す患者への公費負担の適用、必要な生活支援を行うこと。

8.財政措置等を実施すること。

(1) 感染拡大局面において、医療・歯科医療従事者をはじめ、すべてのエッセンシャルワーカーを対象に、改めて慰労金(感染拡大特別手当)を支給すること。また、新型コロナウイルス感染症患者等の診察や治療などに携わる医療従事者に対する特殊勤務手当に係る経費を支給すること。
(2) 感染又は濃厚接触となったスタッフについても給付対象とするよう雇用調整助成金の特例措置の要件を拡大、家賃支援給付金制度を継続すること。持続化給付金は再支給し、事業規模に応じた金額とすること。
(3) 自治体が独自に医療機関への支援策が実施できるよう、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金や地方交付税の増額など行うこと。
(4) 減収著しい診療科への財政措置を強化すること
(5) 医療機関における実質的な減収を補填する財政措置を緊急に行い、少なくとも感染拡大による損失(赤字)が生じないようにすること。
(6) 今後の感染拡大による減収に対して、迅速、簡便な減収補填策として、過去の診療実績をふまえた診療報酬支払時の補填を希望する医療機関に認めること。
(7) 光熱水費の高騰や食材料費の値上げなど、物価の著しい高騰による医療機関・介護事業所・障害福祉事業所の経営困難に対して、必要な財政措置を講じること。また、患者負担を伴わない形で入院時食事療養費・入院時生活療養費を引き上げること。

9.受診抑制をなくすための取り組みを行うこと。

(1) 2022年10月に施行した75歳以上の窓口負担2割化を凍結し、医療・介護等の新たな患者・利用者負担増計画は中止すること。
(2) 生活保護審査を簡素化し保護要件を大幅緩和すること。扶養義務照会をやめること。
(3) 通常の国保証をすべての加入者に届け、国保資格証明書の交付を止めること。
(4) 新型コロナ感染症は未曽有の災害である。国保料・介護保険料の引き上げをやめ、国保法44条減免・77条減免を活用し、低所得者及び収入が減少した世帯については、医療保険・介護保険の保険料・患者負担・利用者負担の徴収を直ちに免除すること。
(5) 妊産婦や子どもの受診抑制をなくすためにも、18歳までの子どもの窓口負担無料制度と、妊産婦の窓口負担無料制度を国の制度として創設すること。
(6) 無保険者をなくすこと。当面無保険者であっても通常の医療が受けられるようにし、受療案内を徹底すること。 

10.感染症拡大防止の徹底を図ること。

(1) 国民の命と健康、生活を守る観点から、社会経済活動を極力損なわないことを前提とした緊急事態宣言の発令等も含め、新型コロナ感染症拡大防止に有効な取り組みを経営や生活困難に対する財政措置とセットで早急に実施すること。
(2) こまめな換気、3密回避、人と会話をするときや混雑する場所での効果的なマスク着用、手洗い、消毒、口腔ケアの重要性など、科学的知見に基づいた感染対策が徹底できるよう、周知すること。また、感染対策が実現できるよう、全ての国民、教育機関、医療機関、福祉施設、高齢者施設、中小企業等に感染防止対策の財政措置を行うこと。
(3) 海外の感染状況を踏まえ機敏に対応するよう、検疫の方針をあらため、体制の強化をはかること。 

11.感染症対策の抜本的強化を図ること。

(1) コロナ禍によって日本の社会保障制度の脆弱性が露呈された。充実した社会保障こそ、感染症対策の基本である。すべての人が必要な医科・歯科医療、介護・福祉サービスを受けられるよう、社会保障を抜本的に拡充すること。
(2) 特に、認知症の方や障害者、要支援者・要介護者、妊婦、小児などの感染防止対策について、丁寧かつ十分な対策を図ること。
(3) 少なくともOECD平均の医師数確保を目指し、公的責任で医師数の養成を行い、医師不足の解消を図ること。看護師をはじめとした医療従事者の養成にも公的責任を果たすこと。
(4) 国の責任でインフラ整備と平時の感染症関連予算を大幅に増やし、流行時には緊急対応・臨時的な増強ができるようにすること。

① 保健所や地方衛生研究所の数・体制・予算を強化し、公衆衛生行政を確立すること。
② 国立感染症研究所の機能強化を行うこと。2025年以降の設置を目指すとしている日本版CDC(疾病予防管理センター)の設置時期を早め、感染症に対応できる仕組みを構築すること。
③ 救急医療体制やICU・HCU、感染症病床の運営補助制度を創設・拡充すること。
④ 一般病院・有床診療所や、介護・障害者施設等において感染対策が図れるよう、機械換気設備、遮断施設、消毒設備設置に対する補助金制度を創設すること。

(5) 新型コロナウイルスに関する科学的な情報提供に努めること。ワクチン接種の有無による差別的な取り扱いや、新型コロナウイルス感染者・家族等に対する誹謗・中傷・差別・偏見の排除に努めること。

以上