全国保険医団体連合会では、12月16日に下記の要望書をマスコミ各社に発表しました。[PDF:261KB]
2022年12月16日
全国保険医団体連合会
会長 住江 憲勇
「電子処方箋」の2023年1月運用開始の延期等を求める要望
~患者に安全・安心な薬物療法を保証するために~
オンライン資格確認など医療DX(デジタルトランスフォーメーション)に関わって、2023年1月より「電子処方箋」の運用が開始される予定である。しかし、電子処方箋に関わっては、医療機関における準備・運用面などで懸念点も多い。医療現場への混乱を避け、患者に安全・安心な薬物療法が保証されるよう、運用開始の延期はじめ医療現場への十分な説明、補助金改善などを強く求めるものである。
ほとんどの診療所が未導入
電子処方箋は、医療機関・薬局ではオンライン資格確認を導入した上で追加で任意に実装する仕組みだが、前提となるオンライン資格確認を運用開始した医療機関は依然4割、診療所では3割程度にすぎない。少なくとも23年1月時点では殆どの医療機関が電子処方箋に対応していないことは明らかである。マイナ保険証開始時と同様、電子処方箋を推奨する宣伝がされると、医療現場に無用な混乱が生じかねない。
調剤受けられない事態も
医療機関における電子処方箋の運用手順は煩雑であり、患者への確認・説明、サーバー登録(電子署名等)、紙(控え)の交付や、事実上全ての処方箋のサーバー登録など相当な事務負担等がかかる。重複投薬等チェックにしても、院内処方等は対象外である上、電子処方箋が普及しない段階ではチェックは十分に機能せず、患者へ聞き取りを通じた処方薬把握は依然必要である。とりわけ、電子処方箋を交付された場合、電子処方箋に対応していない薬局では調剤できず、患者が調剤を受けられなくなる事態(12月現在オンライン資格確認を開始した薬局は6割強)や、医療機関では患者から「紙の処方箋」の再発行を求められる追加の手間なども危惧される。しかし、国からは電子処方箋のメリットが強調され、実装は任意であることはじめ問題点や懸念点などが医療機関に十分に説明・周知されているとは到底言い難い。
トラブル危惧、病院団体から混乱懸念
電子処方箋の運用開始に向けた医療機関での実証期間は実質2月間(11~12月)足らずであり、モデル事業も4地域(100施設)程度である。オンライン資格確認の開始時と同様に、またこの間の顔認証付きカードリーダーの相次ぐ起動不全に見られるように、システムトラブルが頻発する事態も懸念される。
本格運用開始に向けて準備不足が明らかな中、病院団体からは「補助金が整備費用に全く見合っていない」との指摘も加え、来年1月からの運用開始は現場が混乱すると危惧する声が相次いでいる。あまりに性急なオンライン資格確認整備の原則義務化はじめ、医療現場の実情や理解を無視したスケジュールありきの医療DXの弊害以外の何ものでもない。
以上を踏まえ、本会は、医療現場への無用な混乱を避け、患者に安全・安心な薬物療法が保証されるよう、電子処方箋の運用開始の延期含め、以下の措置が行われるよう強く要望するものである。
記
1. | 2023年1月からの電子処方箋の運用開始について、一定期間延期すること。 |
2. | 国は、医療機関に対して、電子処方箋の導入はあくまで任意(自由)であり、義務化されていないことについて十分に説明・周知すること。 |
3. | 国、ベンダーは、電子処方箋を導入した場合、医療機関において相当の事務負担が生じることなどについて十分に説明・周知すること。 |
4. | 医療機関の錯誤に基づく整備契約を避けるため、国、ベンダー業者(国による指導含め)は、以下の点を医療機関に丁寧に説明すること。 オンライン資格確認に関わって義務化される範囲は、一部負担割合等に関わる資格確認であり、電子処方箋、レセプト・特定健診等情報閲覧の実装は任意であること。 |
5. | 見積額・内容の適正化に向けて、国は、ベンダー業者に対して、以下の点はじめ強く指導すること。 見積内容、契約条件に関わって、オンライン資格確認と電子処方箋等をパッケージ導入する内容(事実上の電子処方箋の導入強制)に限定しないこと。 |
6. | 医療現場に混乱・負担が生じないよう、国は、患者・国民に電子処方箋の利用を推奨・誘導するような宣伝は行わないこと。 |
7. | システム整備に関わって、医療機関に持ち出しが発生しないよう、電子処方箋に関わる補助金上限などについて手当てすること。 |
※オンライン資格確認導入の原則義務化の撤回はじめ全般的な要望は「全ての医療機関が診療継続できる実効性ある措置を オンライン資格確認義務化の除外・経過措置を求める」(2022年11月15日)を参照されたい。
以上