【要望書】 オンライン資格確認義務化・経過措置の早急な改善を求める

2023 年 1 月 12 日
厚生労働大臣
加藤 勝信 殿

1 人の閉院・廃業も出さないよう
オンライン資格確認義務化・経過措置の早急な改善を求める

全国保険医団体連合会
会長 住江 憲勇

Ⅰ.オン資義務化、保険証廃止を前提とした経過措置は早急に改善を

12 月 23 日の中医協において、2023 年4月からの医療機関等へのオンライン資格確認の導入原則義務付けに係る経過措置が答申され、2023 年 3 月末時点でやむを得ない事情がある保険医療機関等に対し、6類型の期限付き経過措置等を設けられた。しかし、経過措置対象はオン資義務化・システム整備を前提としたものがほとんどであり、オン資接続が困難など医療機関側の事情による経過措置は限定された。
しかも、対象期間は令和 6 年秋以降の保険証廃止を前提しており、多くが「遅くとも令和 6 年秋まで」と限定された上で、令和 6 年 4 月から運用開始予定の簡易な措置(資格確認限定型)へ移行させる考えも示された。簡易な措置への移行は 9 月 5 日改正省令で義務化が除外された紙レセプトによる保険請求が認められている医療機関も含めた措置である。これらの医療機関においては、9月 5 日改正省令に基づく義務化の除外が事実上反故にされたものと言える。
河野太郎デジタル大臣が、10 月 16 日、2024 年秋に現行の保険証を廃止しマイナ保険証に一体化する方針を記者会見し、患者・国民にマイナカードとマイナ保険証のさらなる普及・推進に向けて、すべての医療機関でマイナ保険証を利用できるシステム整備を求めてきた。
法改正や法案審議も経ずに、単なる3大臣合意で 24 年秋からの保険証廃止方針を決定したことは問題であるが、この方針を前提に厚労大臣が義務化の経過措置を中医協に諮問し、省令改正案を決定したことで矛盾はさらに拡大されている。
保団連調査(回答数 8707 件)では、システム導入を義務付けられた中でもなお、導入しない・できないと回答する医療機関が 15%存在する。その理由は、「情報漏洩、セキュリティ対策が不安」が 63%、「レセコン、電子カルテの改修で多額の費用が発生する」が 61%、「対応できるスタッフがいない、少ない」が 50%、「高齢で数年後に閉院予定」が 45%と回答しており、いずれも患者の医療情報を守る立場から当然の要求である。歯科医療機関(2485 件)の集計では「導入しない・できない」と答えた割合は 60 代で 27%、70 代以上では 46%に達するなど特に困難な状況を抱えている。
こうした困難な医療機関の実態を鑑みず、保険証廃止を前提に期間も対象範囲も限定的な経過措置を決定したことは重大である。24 年秋からの保険証廃止方針を撤回するとともに、地域医療に重大な支障が生じないよう、オンライン資格確認の義務化撤回と経過措置の抜本的な改善を求める。

Ⅱ.各経過措置について

(1)「システム整備中」運用開始わずか3割-猶予期間の大幅延期とトラブル原因究明と解消策の提示を求める

システム整備が遅れている医療機関等への猶予措置として期限を 2023 年3月末から 2023 年 9 月末まで延長された。一方で、答申附帯意見で「再延長は行わない」ことが盛り込まれた。半導体不足や複雑な回線整備に対応するシステムベンダー知識、経験、人材不足や、コロナ禍での多忙等から 12 月 18 日時点で運用を開始した医科診療所は 27.4%、歯科診療所は 30.0%に過ぎない。保団連調査でも 3 月末までの導入見通しが立たない医療機関が半数に及んでおり、わずか半年の延長でシステム整備が完了するという保障は何ら存在しない。また、システム導入済みの医療機関の4割でトラブルが生じており、トラブルの原因究明と解消策が示されるまで義務化実施を大幅に延期すべきである。なお、猶予措置を受けるための申請については、オンライン申請が原則とされたが、オンライン申請が困難な医療機関が相当数存在する。郵送、FAX での申請、代行申請等も柔軟に対応すべきである。

(2)ネットワーク環境事情-多額費用等の回線敷設困難も経過措置の適用を

経過措置「オン資に接続可能な光回線ネットワーク環境が整備されていない保険医療機関・薬局(ネットワーク環境)」について、当該施設にオンライン資格確認に接続可能な光回線ネットワーク環境(IP-VPN 等)が整備されるまで猶予とされた。オン資に接続可能な光回線ネットワークは、テナント開業の医療機関の場合、建物所有者が光回線の敷設工事等を許可しない場合や建物内の医療機関所在スペースまで回線敷設が物理的・経済的に困難な場合、自身が所有する建物等でも施設の老朽化等で回線敷設工事に多額の資金を要する場合など様々な困難ケースが存在する。個々の医療機関の実情に応じて柔軟に経過措置を適用することを求める。

(3)「その他特に困難な事情」-「高齢」と「レセプト件数」は別要件に

その他特に困難な事情による猶予対象とされた医療機関は、限定的な取り扱いとなった。厚労省は、「その他特に困難な事情」の目安として常勤医師等が高齢であって、月平均レセプト件数が 50件以下である場合とし、「高齢」の定義について「一般に 70 歳以上であれば高齢と判断する。65歳から 69 歳は医療機関等の状況等を踏まえて個別に判断する」との考えを示した。
レセプト件数の取り扱いが少ない医療機関について、厚労省が提示した資料では、月平均約 50件以下(1日のレセプト件数が 2~3 件)の対象医療機関数は、全体の 4.5%(医科で 3.4%、歯科で 7.5%、調剤で 3.2%)と極めて限定的である。月平均のレセプト件数が 50 件以下では医院経営が継続できるレベルとは言えない。
そもそも、厚労省が提示した資料には、年齢別のレセプト平均件数が明示されておらず、「年齢」と「レセプト件数」は別要件とすべきである。また、コロナ禍で経営困難を抱える医療機関は年齢に限らず増加している。経営困難を抱える医療機関にとって、新たな設備投資は困難である。個々の経営状況も踏まえて猶予対象を個別に認めるべきである。

(4)数年後の閉院・廃院の計画も受付を

閉院・廃院予定などの医療機関への猶予措置の期間は遅くとも令和 6 年秋までと限定された。これは、政府が令和 6 年秋までに保険証廃止を目指すとした方針を受けたものである。同要件での猶予申請の受付を「令和 6 年秋までの廃止・休止を決めている施設」に限定する運用が想定されているのは極めて不当である。医療現場の現実や実態を踏まえず、オン資で閉院・廃院を検討せざるを得なくなった医療機関に保険証廃止方針を押し付けるものであり、期限を撤回するとともに、「数年後に閉院・廃院の計画」での猶予申請も受け付けるべきである。

以上