【パブリックコメント】医療DXの推進に関する工程表(骨子案)に関する意見

厚生労働省医政局特定医薬品開発支援・医療情報担当参事官室 御中

2023年4月4日
全国保険医団体連合会
医科政策部長 竹田 智雄
歯科政策部長 池 潤

医療DXの推進に関する工程表(骨子案)に関する御意見の募集について

全国保険医団体連合会として、「医療DXの推進に関する工程表(骨子案)に関する御意見の募集について」(案件番号495220429)に関わり、下記の意見を応募する。

<骨子案への意見>

1.「医療DX」に対する本会の姿勢

①本会は、「医療DX」について、オンライン資格確認整備義務化、健康保険証廃止法案に見られるように、「デジタル化ありき」で医療現場、患者・国民の実情、理解と協力を無視して、医療機関を閉院・廃業に追い込む、患者・国民の医療アクセスに支障を及ぼす形で進められていることに強く抗議する。とりわけ、オンライン資格確認整備義務化をめぐり、心ならずも閉院・廃院を強いられた医療機関に対して、まずもって国は謝罪すべきである。

②ICT化、デジタル化施策は、欧米を見ても、情報公開はじめ政策決定過程の透明性の確保・徹底をベースに、良識と熟議に基づく市民社会の民主的ガバナンスの下、影響を受ける者の実情・意見(代替措置の保障含め)に配慮しつつ進められている。他方、我が国では、患者・国民、事業者への説明責任がまともに果たされず、政府・一部官庁や経済界がIT利権の構築に向けて推進している側面が強いと言わざるをえない。国は、憲法に従い民主主義を強靭化する観点から、デジタル政策に対する政治姿勢を根本から改めるべきである。

③医療DXについては、▽医療費抑制政策により脆弱化されてきた医療提供体制の矛盾を「デジタル化」により糊塗しようとする側面が強い、▽マイナンバーカード利用とビッグデータ構築を通じた医療情報等連携の仕組みは、構築の可否も含め費用対効果上から見て精査が必要である。また、▽健康保険証廃止(マイナンバーカード取得義務化)は監視・統制社会への移行を後押しするもの、▽構築されたビッグデータ(全国医療情報プラットフォーム)が医療費抑制や「成長戦略」が掲げる市場開拓・新規産業創出に利活用される―など個人情報保護の脆弱化に留まらず、民主主義・公的医療保険制度を根底から変質させかねない。

④以上より、医療DXは一旦中止・凍結し、医療現場、患者・国民の意見を十分に踏まえつつ、我が国の医療提供の実情に応じた仕組みが検討されるべきである。少なくとも、医療DXを進めるのであれば、理念・設計・運用において、医療機関等の参加は任意にし、マイナンバーカード利用とは切り離した上、個人のプライバシー保護(自己情報コントロール権の保障)に留意した形に改めるとともに、2次利用は公衆衛生機能の強化など抑制的運用に留める―など医療現場、患者・国民本位のものに抜本的に改善すべきと考える。

 

※上記の意見を踏まえた上、以下、「骨子案」各論に関わって抜本的改善を要する点について意見を述べる。

2.「はじめに」及び「骨子案」全体に関わって

①首相をトップに据えた本部の下で医療DXを推進するとしているが、「骨太の方針2022」におけるオンライン資格確認整備の義務化、デジタル大臣(庁トップは首相)による健康保険証廃止会見を見ても、医療現場の状況を全く無視した方針や発言が、現場に強い軋轢と摩擦を招いている。
少なくとも、医療現場と直接所管する厚生労働省を中心に、現場の状況に鑑みてデジタル化の進捗状況を柔軟に管理できる体制(延期・猶予等リスケジュール含め)に改めるべきである。

②医療DXの到達点に「全国医療情報プラットフォーム」の構築などを掲げているが、政府・経済界のデジタル戦略では、2次利用に関わって、医療・介護等情報に税・年金、教育、更に個人のライフログなども連携させ利用していく狙いがうかがえる。保健・医療・介護情報は機微性が高く、特に医療情報(遺伝情報等)は将来世代・故人・類縁者にも影響を及ぼしうる上、情報漏洩や個人識別に伴う被害は甚大かつ不可逆的であり、他分野での利活用は厳格に制限されるべきである。
個人情報を保護する観点を明記するとともに、2次利用については、利益追求など経済的目的とは切り離して、公衆衛生機能の強化など「医療の質の向上」に留める点を明確にすべきである。

③骨子案は医療のデジタル化推進に関わる「基本的な考え方」を示すものだが、デジタル化に不可避であるシステム障害等リスクの防止・抑制、事故対応(事業継続計画(BCP)など)に対処する視点が欠落している。通信障害に留まらず、医療機関でのランサムウェア被害等が相次ぐとともに、その全容さえも不明瞭である(国への未報告、身代金支払いケースも多いと報道)。システムの冗長性・余剰性を確保することを前提とした上、システムセキュリティ確保やリスクマネジメントを抜本的に強化する施策・観点が記載されるべきである。

④デジタル化による効果として「健康増進」「業務効率化」「人材の有効活用」など様々に強調しているが、デジタル技術の取得・利用などに困難を抱える者への権利保障・政策的配慮の視点が欠落している。国民皆保険制度を採用する下で、デジタル一元化を理由として医療機関、患者・住民が切り捨てられるとなれば国是にもとる。
医療機関、患者・住民における世代・地域・所得(経営)面などに応じたデジタルデバイドに鑑みて、アナログ対応も可能・保全する視点が明記されるべきである。(例えば、カルテ、レセプト請求、各種届出、健康保険証はじめサービス申請・利用など)。

⑤以上を踏まえた上、少なくとも医療 DXを国策として進める以上は、医療・介護事業者等でのシステム整備・運用費用について、自己負担(患者・利用者負担増も含め)とならないように、国が責任を持って対応すべきである。

 

3.「基本的な考え方」に関わって

①医療DXの「定義」に関わって、医療・ケアの前提となる「安全性」「安心」の担保が明記されるべきである。

②同様に、定義に関わって、情報・データの「全体が最適化された基盤」を構築し活用することを通じて、医療関係者等の「業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化」を図り、良質な医療・ケアが受けられるように「社会や生活の形を変えていく」としている。
目的は良質な医療・ケアにある以上、医療関係者等のシステム等の「共通化・標準化」ありきで、個々の患者・利用者の疾患・状態に応じて発揮されるサービスの個別性を否定するような制度設計となれば本末転倒である。当該専門職の個別的判断をシステム上も保障する留意点が明記されるべきである。

③「全体が最適化された基盤」に関わっては、各データを蓄積・管理し、クラウド間で連携した「全国医療情報プラットフォーム」が創設されるが、その基盤とも見込まれるガバメントクラウドにはアマゾンなど米IT大手4社が担う見込みが報道されている。国家の情報システム基盤が外交上の人質(取引カード)に取られ、主権・国益を左右する深刻な事態に至りかねない。
本来、安全保障上、国内企業が担うことが不可欠と考えるが、少なくともデータローカライゼーション規制(サーバーやデータを日本国内に設置・保存)はじめ情報保全に関わる実効的規制が明記されるべきである。

④医療DXにより実現するⅡ①~⑤において情報利活用の効果を強調しているが、前提となる個人情報を保護する観点などが欠落している。例えば、欧州の一般データ保護規則(GDPR)なども参考にして、最低限留意すべき点が各々記載されるべきである。

・Ⅱ①について、▽個人のプライバシー保護に裏打ちされた情報の保全・流通・利用に係るシステム設計(民間のサービス契約に際して、PHR提供拒否による不利益取扱いの防止含め)。
・Ⅱ②について、▽医療施設等のセキュリティ基盤の構築(公的支援強化含め)、▽患者・国民の「同意」の実効性の担保など。
・Ⅱ③について、▽場合によっては、ICT対応に要するスキル、人員が必要になる。
・Ⅱ⑤について、▽2次利用可否に関わる有識者検討会の機能強化(公正性・透明性確保含め)、▽2次利用におけるプロファイリング制約・個人識別禁止や、「利益相反」規定の遵守などの実効的規制。関連して、▽データ基盤等の国内保全など。

 

4.「具体的な施策及び到達点」に関わって

①「マイナンバーカードを健康保険証として利用するオンライン資格確認は、医療DXの基盤」としているが、膨大な個人情報漏洩リスクを抱えるマイナンバーカードを利用する運用はやめるべきである。

②「令和6年秋の健康保険証の廃止を目指す」としているが、医療等現場に混乱を招くものであり、患者・国民、医療・介護・福祉現場の理解と協力も得られておらず、削除すべきである。

③「全国医療情報プラットフォームの構築」ありきではなく、地域の実情に応じて運営される地域医療情報連携ネットワークへの公的支援の強化、及びその横断的接続などを媒介として、保健・医療・介護情報の共有を進める仕組みなども検討されるべきである。
かりに、全国で標準化した仕組みを構築するのであれば、医療機関の自発的な参加とした上で、医療分野に特化(閉域化)させて、健康保険証の券面情報等を活用して医療情報を閲覧する仕組みなどが検討されるべきである。
(現に、健康保険証でもオンライン資格確認は可能であり、救急搬送、災害はじめ緊急時には、基本情報(▽被保険者番号、又は▽氏名・生年月日・住所一部(保険者)等)での照会に対して医療情報の返信を認めている。)

④現時点において、レセプト(手術名、傷病名除く)、処方箋はじめ相当な情報量の共有(閲覧)がされているが、今後、文書情報・電子カルテ情報に拡大された場合、病名(遺伝性疾患、感染症、精神疾患など含め)、検査・投薬結果値、診断画像、一連の転帰はじめ、文字通りカルテ情報が共有される段階に移行する。さらに、介護情報、公費医療や地方単独事業はじめ情報を共有する範囲も拡張されていく。
医療の質の向上に真に資するためには、▽患者のヘルスリテラシーの涵養が急務である、▽患者の「同意」の実効性を確実に担保できる設計とする、▽医療現場、患者・国民の状況に応じて、開示する情報範囲の選定は慎重に進めていく―ことなどが留意点に記載されるべきである。

⑤電子カルテ情報の共有について、「順次、対象となる情報の範囲を拡大していく」としているが、3文書・6情報の運用整理を行っている現段階では時期尚早であり、本記載は削除すべきである。

⑥介護事業者等とも情報を共有できる仕組みを構築していくとしているが、小規模事業所も多い介護現場ではシステム整備・運用は多大な困難が見込まれるとともに、介護事業者における医療情報の閲覧は個人情報保護はじめ課題も多い。
介護現場の理解と協力に基づく自発的な対応を尊重して進めていく点が記載されるべきである。

⑦医療機関における情報共有の拡大に関わって、「自治体システムの標準化の取組と連動しながら」、自治体・介護事業者等が保有する各種情報との共有を進めるとしている。
本骨子案が、情報共有による「良質な医療やケア」の保障を基本理念に掲げる以上、地域で先進的に取り組まれる医療・介護保障施策が「標準化」システムの下でも継続が保障されるよう政策姿勢を示すべきである。

⑧診療報酬改定DXについて、標準化した電子カルテと連携する「共通算定モジュール」を開発するとともに、「デジタル化に対応するため診療報酬点数表におけるルールの簡素化・明確化を図り」としている。
ルールの簡素化と称して、患者の個別性に応じた医学的判断の記載が蔑ろにしないよう留意点を記載すべきである。
また、「診療報酬改定の施行時期」の検討については、影響を直に受ける医療現場の意見を十分に踏まえて検討することを明記すべきである。

⑨医療DXの施策に係る業務を担う主体として、「オンライン資格確認等システムその他既存資産の活用の視点も踏まえ、既存の組織に機能を追加する」として、審査支払機関等が示唆されている。今次国会の法令改正を通じて、審査支払機関が「医療費適正化」を進める組織として変容される以上、疑問が多い。同一組織による各種情報の集中管理はリスクヘッジ上も課題が多い。
審査支払機関に関わる今次法令改正を撤回すべきである。少なくとも、国から独立した公正で透明性が高い組織(監督機関となる個人情報保護委員会の権限や組織の強化など含め)も模索されるべきである。

 

5.「フォローアップ」に関わって

①医療DX推進本部等において進捗状況を確認し、デジタル技術の進歩なども踏まえて見直して、DXを確実に推進するとしている。
デジタル技術の進歩に機械的(強制的)に医療現場をあわせるのではなく、地域医療現場や医療行政を所管する厚生労働省の意見が十分に配慮されることが必要である。