2023年5月15日
全国保険医団体連合会
会長 住江憲勇
5月12日の参議院本会議で、後期高齢者医療制度の保険料引き上げを含む健康保険法等「改正」案が自民党、公明党、国民民主党などの賛成多数で可決され、成立した。
国会審議では、物価高騰の下で困窮する高齢者の生活実態から鑑みてさらなる保険料引き上げは耐えられないのではないか、少なくとも昨年実施された窓口負担「2割化」の影響を把握すべきではないか、などの問題点が指摘された。しかし、これらの懸念には答えないまま法案は可決された。高齢者の生活、健康を脅かす後期高齢者医療制度の保険料引き上げに強く抗議する。
国費削減の一方で後期高齢者4割に負担増
今回の法「改正」では、後期高齢者の保険料について、出産育児一時金増額の財源負担に加え、後期高齢者と現役世代の支援金の伸び率(1人当たり)が同じになるように見直した上、高齢者内の「能力に応じた負担を強化する」として所得割の比率を引き上げる。年収153万円以上から保険料負担増となり、後期高齢者の4割が該当する。
全体の制度改定を通じて、後期高齢者1人当たり平均で保険料は年5,200円増(2025年度)と試算される。別途、高齢化等に伴う保険料・年4,300円増(2024・25年度)の上乗せが予定されるため、1人当たり・計1万円近い負担増となる。
一方で、国庫負担は今回の法「改正」全体で910億円も削減される。国庫負担削減で国民皆保険制度における国の財政責任を後退させながら、低年金・低所得者が多い後期高齢者には過酷な負担増を強いる法案となっている。しかし、国民生活が厳しさを増す今こそ、国庫負担を増やすこと、大企業、富裕層への課税強化による抜本的な所得再分配機能の改善・強化こそが求められている。
「2割化」の影響ですでに受診控え さらに保険料引き上げは言語同断
当会が行ったアンケート調査では、「経済的理由による受診控え」が「あった」との回答が、75歳以上で医療費窓口負担2割の人で17.2%あった。昨年10月に強行された「2割化」の影響による「受診控え」がすでに起きていると考えられる。アンケートには「老人は早く死ねということか」「(2割負担になり)歯科受診をやめた」など悲痛な声が寄せられた。年金が目減りし、物価高騰などによって高齢者が生活費を極限まで切り詰める中、窓口負担増、保険料増で、受診抑制を強いる国の姿勢には憤りを禁じえない。また、国会附帯決議(参議院厚生労働委員会採択)で求めた2割化が高齢者の受診に与える影響の把握すらしないままに、後期高齢者医療制度の保険料を引き上げるなど言語道断である。
政府の医療・介護の負担増はこれに留まらず、後期高齢者の窓口負担原則2割化、介護の利用者負担2割の対象拡大など、今後も大幅な負担増が狙われている。あらためて後期高齢者医療制度の保険料引き上げを含む健康保険法等「改正」案の可決に強く抗議するとともに、国として早急に「2割化」の受診への影響把握した上で1割負担へ戻すこと、後期高齢者の保険料引き上げを中止すること、介護の利用者負担増などさらなる医療・介護の負担増を行わないことを求める。