【声明】後発医薬品が不足する中での薬剤自己負担の見直しに反対する

     2023年11月17日

 全国保険医団体連合会

会長 住江憲勇

 

【声明】後発品不足下で後発品促進の愚策、必要な処方を行う医師の裁量(処方権)を侵害

~薬剤自己負担の見直しに反対する~

 

厚労省は11月9日の社会保障審議会(医療保険部会)に、後発医薬品がある先発医薬品、いわゆる長期収載品の「保険給付の在り方の見直し」について検討を進める方針を示した。「長期収載品について様々な使用実態に応じた評価を行う観点や後発品との薬価差分を踏まえつつ、保険給付の在り方を見直す」方向で年末に向けて議論を詰めていく構えである。医薬品への公的保険給付を削減して、患者に負担を付け替える(負担増)ということである。 

1.後発品不足の中、後発品使用を強制する愚策

厚労省は、長期収載品を使用した場合に患者負担増を求めることで安い後発医薬品への使用を促進する構えだが、後発医薬品等の供給不安が続く中、保険医(以下、医師)として安定的・継続的に処方できる後発医薬品が大幅に限られているのが現状である。後発医薬品が不足し、長期収載品を使わざるを得ない現状もある中、さらに患者負担増を強いられるのは理不尽の極みである。そのため、9日の資料では、「後発医薬品の安定供給との関係」を論点にあげているが、供給不安が恒常化し、供給不安品目も日々変動する現状において、後発医薬品の使用促進を強制することは理解に苦しむ提案であり、率直に見て愚策である。

 

2.必要な処方を判断する医師の裁量(処方権)を尊重すべき

薬剤負担増を求める主張に関わって、患者が新薬を選り好みしているかのような議論が見られるが、そもそも投与する薬剤は患者が選択しているわけではない。薬剤の処方と選択は医師の診察に基づき行われる。医師は、診断の結果、患者の疾患状態や治療上の効能・効果の違いなどに考慮して、先発、長期収載、後発のどれが望ましいかも含めて必要な医薬品を判断し処方している。後発医薬品については先発医薬品と主な成分とその含有量は同じとされるが、特許権の都合などで添加剤や製造工程などが異なっている現状がある。結果、臨床現場から、後発医薬品は先発医薬品に比べて、例えば「血糖値や血圧のコントロールがしにくい」「胃炎や皮膚炎の症状が改善していない」「鎮痛剤・眠剤などで効きが落ちた」「貼付剤がはがれやすい・かぶれやすい」「アレルギー反応が出た」などの声が寄せられている実態がある。この疾患や状態の患者には先発で良い/後発でも大丈夫といった一律的・機械的な線引きは困難である以上、医師が診療に基づき、その患者に適した/望ましいと判断する薬剤を処方・投薬している裁量(いわゆる、処方権)を尊重すべきである。

 

3.「変更に不安」「使用感の違い」など患者の声に配慮を

同様に、患者が「先発医薬品を希望する」ことを問題視する声も聞かれるが、背景には「後発品の効き目や副作用に不安がある」「使い慣れたものがよい」「報道等で後発品の品質、効果等に関してよい情報を聞かない」など、しかるべき事情が多く見られる現状に注意が必要である(2022年度診療報酬改定結果検証調査より)。後発医薬品では先発医薬品の承認の際に要するデータまでは求められておらず、例えば、慢性疾患を抱える患者等では副作用はじめ様々な知見が集積済みの先発医薬品(長期収載品)を求めるケースは少なくない。精神疾患などでは現状の薬剤で安定している状況を変更することに強い不安感を持つ患者は多い。長期連用や小児への使用などでは先発医薬品と後発医薬品の間での質感・使用感の違い(例えば外用剤において液体、ジェル、クリーム、泡状など剤形が異なるケース)は無視できない。

長期収載品を処方すれば患者に負担増を課すことは、患者に必要な医薬品を判断し提供する医師の裁量(処方権)を制限して、患者の治療・療養に不利益を及ぼすものと言わざるを得ない。

 

4.受診抑制増、少子化対策(子ども医療費助成)に水を差す

薬剤負担増は、患者を医療から遠ざける。先進諸国でも高い我が国の窓口3割負担をさらに引き上げて、患者の支払能力によって治療上必要な薬剤を使うことができなくなる事態を招く。臨床現場では効果の同等性を疑問視する声は依然少なくない。そのため、治療上、長期収載品を使わなければならないケースは当然存在し、価格差を患者負担増に転嫁することは受診抑制、治療上の不平等などが起きることになる。普段受診しない被保険者にとっても、窓口負担(1~3割)とは別に追加負担まで徴収されるとなれば、何のために高い保険料を日々支払っているのか釈然としない疑問を抱くといえよう。難病など公費負担医療を利用する患者も薬剤費は給付外として別途負担増が強いられる形になりかねない。さらに、少子化対策にも関わって、子どもの医療費窓口負担を無料にしている自治体が全国に大きく広がる中、薬剤負担増を求めることは少子化対策に水を差すものである。

 

5.創薬開発に患者負担増は筋違い

今回の患者負担増を求める直接的な理由は「創薬力強化」とされている。「骨太の方針2023」では、「医療保険財政の中で、こうした(創薬)イノベーションを推進するため、長期収載品等の自己負担の在り方の見直し、検討を進める」としている。しかし、かりに新薬開発のためであるとしても、なぜ患者に負担増・受診抑制を強いることが正当化されるのかは理解に苦しむ。新薬の恩恵は国民・社会全体に及ぶ以上、かりに財源が必要というのであれば、患者負担ではなく、公費(税金)で検討するのが筋といえよう。

しかも、経済界や保険者出身の委員は、患者負担増で捻出した財源を「イノベーション評価」、要は新薬への高い薬価算定に充てるべきと主張している。負担増や受診抑制により生じた財源を患者の医療アクセスを悪化させる高い薬価の値付けに使うようなことは到底容認できるものではない。

後発医薬品使用により薬剤費全体の抑制を図る点も取りざたされているが、年間10.4兆円の薬剤費のうち後発医薬品が存在する先発医薬品(長期収載品)のシェアは18%にすぎない。1割強の品目数にもかかわらず金額シェアで59%を占める新薬の高薬価を是正する方がはるかに財政抑制上は効果的である。

 

6.蟻の一穴となり、なし崩し的に処方制約・患者負担の拡大へ

薬剤自己負担の導入は蟻の一穴になり、薬剤選択への制限、患者負担が拡大していきかねない。9日の資料では、「医療上の必要性についてどう考えるか」(薬剤変更リスク等を踏まえた医師による処方についてどう考えるか)を論点に上げているが、医療保険部会では、「(差額負担の)対象範囲はできるだけ広くすべき」「経済学的には参照価格制が望ましい。医療上の必要性のあるなしはエビデンスベースで分けるべき」など医師の処方に係る裁量を狭めるよう求める議論も多く出ている。かりに医師の処方権に“配慮”して導入された場合も、「エビデンス」などが様々持ち出され、医師の処方判断に対して制約が強められていくことが危惧される。また、「骨太の方針2023」からも、一旦、薬剤自己負担増が導入されれば、「創薬力強化」を名目に患者負担額が際限なく拡大されていくことは明らかである。

 

7.公的医療保険制度を根底から崩壊させる事態にも

薬剤自己負担増は、我が国の公的医療保険制度を根底から崩壊させかねない。3割負担とは別に追加負担を求めることは、改正健康保険法(2002年)の附則に掲げる「将来にわたり7割給付を維持する」原則を形骸化させることに留まらず、公的保険診療において一体的に提供(給付)してきた医師の診察等と投薬を切り離すことになる。薬剤自己負担増が一旦導入されれば、患者負担がなし崩し的に拡大されていき、いずれ保険診療から治療(投薬)が完全に切り離される事態に至りかねない。医師から疾病等の診断を受けても、保険診療で治療(投薬)が受けられなくなれば、もはや公的医療保険制度とは言い難い。本会は、患者に安全・安心で必要な医療を保障するため、薬剤自己負担の見直しに強く反対するものである。