【2024年診療報酬改定医科答申談話】医療の質の維持・向上に背を向けた2024年改定 わずかな改定財源も「医療DX」推進に

医療の質の維持・向上に背を向けた2024年改定

わずかな改定財源も「医療DX」推進に

 

2024年2月20日

全国保険医団体連合会

副会長 井上 美佐

 

 1.改定全体の特徴

ネットマイナス継続 僅かな「賃上げ」対応に留まる

2024年度診療報酬改定の答申が2月14日行われた。

改定率は、診療報酬本体について「看護職員、病院薬剤師その他の医療関係職種」のベア引上げ対応に+0.61%、「入院時の食費基準額引き上げ」に+0.06%、個別項目以外の改定分を+0.46%とした(合わせて1.13%)。一方、「生活習慣病を中心とした管理料、処方箋料等の再編等の効率化・適正化」を-0.25%とし、合わせて診療報酬は+0.88%となる。

薬価で-0.97%、材料価格で-0.02%の改定(計-1.00%)も含めて、ネット(全体)での改定率は差し引き-0.12%となる。なお、上記改定分+0.46%のうち、+0.28%は勤務する40歳未満の医師・歯科医師・薬局薬剤師、事務職員、委託先の歯科技工士等の賃上げに充てるため、中医協の答申に委ねられた本体財源はわずか+0.18%とされた。

以上から薬価改定財源の本体報酬への充当を反故にした6回連続のネットマイナス改定である(2014年度は消費税対応を除き実質ネットマイナス)。

医療の質の維持・向上を度外視

さらに、異常な物価高騰が続く下、新型コロナウイルス感染拡大の打撃からの医療の再建に加えて、新興感染症対策、在宅医療の拡充や「かかりつけ医」機能の充実、新規技術の導入など多くの課題も抱える中、本体財源が僅か+0.18%とは、事実上、医療の質の維持・向上に背を向けたものと言わざるを得ない。

本体財源の原資(1.13%)の大半0.89%は、医療従事者の賃上げ・ベア対応に使用されるが、一般産業平均水準への改善には程遠い上、未就業者の復職支援などもなく人手不足解消にはつながらない。入院食の基準額引き上げ(+0.06%)に至っては、患者負担増である。

コロナ危機で現場は疲弊し、異常な物価高騰が進み医療経営の基盤が揺らぐ中、「賃上げ」とは名ばかりの対応しか行わないこととされた。

地域医療の切り捨てとも言える対象除外、高齢者の入院締め出し

僅かな本体財源(+0.18%)についても、診療所を中心に特定疾患療養管理料(特定疾患処方管理加算)から算定の9割強を占める糖尿病、高血圧、脂質異常症(以下、3疾患)を対象疾患より除外するなどで-0.25%分を捻出する一方、成果目標も課して「医療DX」推進に協力する医療機関には初診・再診料を上乗せ(加算)するというものである。「地域完結型」の医療・介護提供体制の構築を強調するが、実態は、高齢者入院を標的に急性期入院医療(2次救急含め)を大幅に絞り込みつつ、現役患者よりも手薄な看護体制で救急入院する高齢者を診るよう求めている。急性期医療に留まらず、回復期リハビリ病棟におけるアウトカム評価の強化、療養病棟における「医療処置」への傾斜評価(状態・看護の評価は後景)など、治療・改善の効果が見込みにくく手間を要する高齢者はさらに入院医療から遠ざけられていく。

受け皿となる「かかりつけ医」機能はじめ在宅医療では、「効率化」と称して高い施設基準を満たした医療機関のみを評価する。在宅医療の両輪となる訪問介護においても基本報酬を大幅に引き下げる。ヘルパーの高齢化が進み人手不足が著しい訪問介護の報酬切り下げにより、在宅医療の破綻が危惧される。

外来・在宅・入院の全体を通して、口腔管理、栄養管理とリハビリの一体的な推進を謳うが、若干の加算を設けたところで配置コストはほとんど賄えない上、肝心のコメディカル確保・育成に向けた計画の見通しもない。入院高齢者に対して早期のリハビリ集中・強化で早期退院を促進するが、地域でのリハビリの受け皿(介護保険)は不十分である上、介護予防訪問リハ等では報酬を引き下げる。状態が悪化した高齢者が病院に戻ってくるだけである。

今次の改定は、地域医療の最前線に立ち長年貢献してきた病院、診療所の経営、地域に密着した介護事業所の経営は先細り、地域医療に留まらず、地域のコミュニティの疲弊を進めるものと言わざるを得ない。

 

2.主要改定項目の特徴

地域医療の維持・充実に背を向けた賃上げ対応

目玉とされる医療従事者の賃上げ対応(税制活用も含め)は、コメディカルにおいて+2.5%(2024年度)、+2.0%(2025年度)のベアを目指すこととされている。答申では、基本診療料での対応をベースに、①賃金増率が1.2%に達しない医療機関を対象とした追加の評価(8区分)を新設、②点数の増加分が実際に賃上げに使われているかを担保するため、計画と実績の報告も求めるとした。

そもそも医療関係職種(医師・歯科医師・薬剤師・看護師を除く)の月給与平均は32.7万円と全産業平均36.1万円を10%近く下回っている。看護補助者に至っては同25.5万円と全産業平均を30%も下回る(中医協資料、12月8日)。コロナ禍の負荷も重なり、医療関係職種の入職超過率が0.0%にまで低下する中このような対応方針は、国として医療従事者をきちんと確保する責任に背を向けたと言わざるを得ない。また一般事務職員が評価対象から外されたことも問題である。このような方策ではなく、診療報酬の大幅引き上げと患者負担軽減、人材確保、賃上げの必要性に応じて別途対応を検討するべきである。

特定疾患療養管理料から糖尿病など3疾患の除外は地域医療の切り捨て

特定疾患療養管理料と生活習慣病管理料の対象疾患が「重複」しているとして、「高血圧、糖尿病、脂質異常症」を特定疾患療養管理料、特定疾患処方管理加算の対象疾患から削除し、生活習慣病管理料(Ⅱ)で算定するよう促す方針である。しかし医科診療所(無床)において、再診回数に占める特定疾患療養管理料の算定回数割合は、内科で67.4%、外科で44.6%、小児科で36.2%、泌尿器科で24.1%など、日常診療で大きなシェアを占めている(社会医療診療行為別統計2022年6月審査分)。この3疾患が算定できないとなると、地域医療に大きな影響を及ぼす。

特定疾患療養管理料は「厚生労働大臣が定め」た疾患を主病とする患者に対して治療するものとされており、より疾患治療と療養上の管理に特化した点数である。そのため、これまで点数表上の評価が求められる疾患をこの特定疾患療養管理料に追加するよう求める要望を行ってきた。一方生活習慣病管理料は、「療養計画書」を患者合意の下で作成するが、疾病治療にとどまらず、患者の服薬、運動、休養、栄養、喫煙、家庭での体重や血圧の測定、飲酒なども含めた問題点について、生活習慣全般の総合的な治療管理を行うこととされており、「療養計画書」自体も生活習慣全般のチェック項目も含まれる詳細なもので、4月に1回以上交付することが求められている。そのため570点~720点の高い点数設定となっている。そもそも点数の成り立ちや点数表上の位置づけが異なるのである。同じ生活習慣病でも、年齢・進行具合や合併症の有無など症状・程度は異なるため、両方が評価されてしかるべきである。それを3疾患が「重複」していると言って、特定疾患療養管理料の対象から除外するのは乱暴である。また移行先とされる生活習慣病管理料(Ⅱ)の設定は、生活習慣全般の治療管理を求めるのに333点と低いのは道理に合わない。医療費削減ありきで設定したものと言わざるを得ない。特定疾患療養管理料から糖尿病など3疾患の除外は止めるべきである。

前代未聞の「医療DX」推進加算は実施撤回を

新たに初診料に「医療DX推進体制整備加算」を新設し、在宅では「在宅医療DX情報活用加算」を新設(訪問診療料Ⅰ・Ⅱ、在がん算定患者対象)する。オンライン資格確認体制、オンライン請求実施前提であり、さらに今後の「電子処方箋、電子カルテ情報共有サービスを導入し、医療DX に対応する体制を確保している場合」を評価する。体制も確立していない段階から「整備」目的で点数化するなど、およそ療養の給付とは無縁であり、前代未聞のマイナ推進策にわずかな財源を振り分けた。

トラブルが多発し、メリットもなく、使い慣れて安心できる現行の健康保険証を使い続けたいという国民の選択がマイナ保険証の利用率4%に表れている。このような状況で、補助金に加え診療報酬で医療機関をマイナ保険証推進に誘導するやり方は言語道断である。対応困難な医療機関を置き去りにし、終わらないトラブル解決をなおざりにしたまま、医療機関に多大な負担を押し付ける「医療DX」推進加算は実施を撤回するべきである。

在宅医療 高齢者の入院先絞り込み懸念

在宅医療については、多数回、高頻度の訪問診療実施医療機関について、①訪問診療料に回数上限超の減算導入、②在医総管等に新たに10人以上の3区分設定で評価切下げなど、評価をこれまで以上に細分化する。さらに単発往診が多数回に上る事業者等を問題視し、小児往診の適正化のため往診料に差を設ける。

強化型も含めた在支診・在支病は「介護保険施設入所者への緊急往診や入院対応が不十分」とし「協力医療機関となる」努力義務が課されるとともに、介護保険施設の入所者に往診した場合の加算が新設された。なお、介護保険では特養・老健・介護医療院は3年の経過措置を経て、協力医療機関の設定が義務化される方針である。従って、3年後は医療機関についても努力義務が義務化され、加算も廃止される可能性が高い。これにより介護保険施設入所者の入院先を一定絞り込み、「緩やかなフリーアクセス制限」をかける方針である。全体として高齢者の急性期医療へのアクセスを絞り込む意図が明確であり問題である。

 急性期7対1は中小病院の2割を振り落とす

入院医療については、これまでに高齢者の救急搬送先を急性期から締め出す方針であり、急性期7対1の平均在院日数が2日短縮され、医療等必要度「救急搬送後入院」の評価基準は5日から2日に変更、看護必要度の評価基準のうちB項目(「患者の状態」)は廃止される。これら必要度に該当する患者割合は「A:3点、C:1点以上」で20%、「A:2点、C:1点以上」で27%と2通りに分けられた。中医協で出された見直し案4に近い内容であり、急性期7対1を算定する中小病院(200床未満)では、2割前後が基準を満たさなくなり、病院・患者ともども大きな影響を受ける。

代わりの受け皿として、10対1相当の「地域包括医療病棟入院料」が新設された。届出対象病棟は急性期一般2~5だが、既に地ケア病棟、回リハ病棟を届け出ているところも多いため、10対1の病院は新たな選択肢を迫られるとともに、患者の受け入れにも大きな転換となる。

また有床診療所は、地域包括ケアシステムの中で役割発揮を求められているにもかかわらず、努力に見合う評価がされなかったことは問題である。

 後発品のある先発品(長期収載品)の保険外しはやめよ

 答申では、10月より開始が予定される長期収載品の保険外し(選定療養費化)を明記した。▽後発品の販売後5年以上経過したもの又は後発品の置換率が50%以上となったもので、▽後発品の最高価格帯との価格差の4分の1を患者負担増(4分の3までを保険給付の対象)とする、▽銘柄名の処方で患者希望により長期収載品を処方・調剤した場合、一般名処方の場合で患者が長期収載品を使用した場合について患者負担増とする(他方、医師が医療上で必要と判断して名柄名処方した場合、在庫不足など後発品の提供が困難な場合は、全て保険給付の対象とする)などとしている。加えて、▽「医療上必要性がある」か、「患者希望」かのチェック欄を処方箋に設ける、▽特別の料金その他の必要な事項について、院内の見やすい場所に掲示する―などと示した。バイオ医薬品等一部を除きほぼ全ての長期収載品が選定療養(差額負担)の対象となる。また、選定療養に関わる処方箋を受け付ける側の薬局では、患者負担増等に関わって患者に説明を要した場合、加算(服薬管理指導料に追加)を付与するなど、医療の質の向上を図る診療報酬のあり方としても極めて問題である。治療(投薬)の保険外しにつながる長期収載品の給付見直しは中止すべきである。

 

 

医科分野の主な汎用点数の増減及び変更等

項目旧点数新点数増減
初・再診料
医科初診料288 点291 点+3 点
医科再診料73 点75 点+2 点
地域包括診療加算1
地域包括診療加算2
認知症地域包括診療加算1、2も同様
25 点
18 点
28 点
21 点
+3 点
+3 点
外来診療料74 点76 点+2 点
医学管理等
特定疾患療養管理料から脂質異常症、高血圧症、糖尿病の3疾患を対象除外
生活習慣病管理料(Ⅱ)の新設【新設】333 点
慢性腎臓病透析予防指導管理料 1年以内
               1年超
【新設】300 点
250 点
小児科外来診療料は院内、院外処方の場合とも初診時+5 点、再診時+4 点とされた。
小児かかりつけ診療料1、2とも初診時+11 点、再診時+10 点とされた。
薬剤情報提供料10 点4 点-6 点
在宅医療
在宅がん患者緊急時医療情報連携指導料【新設】200 点
在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料(情報通信機器を用いた場合)【新設】218 点
検査、投薬、注射
血液化学検査 10 項目以上106 点103 点-3 点
SARS-CoV-2 抗原検出(定性)
SARS-CoV-2・インフルエンザウイルス抗原同時検出(定性)
300 点
420 点
150 点
225 点
-150 点
-195 点
排泄せつ物、滲しん出物又は分泌物の細菌顕微鏡検査
3 その他のもの
64 点67 点+3 点
細菌培養同定検査の1,2,4,5は+10 点、3は+5 点
細菌薬剤感受性検査の1は+5 点、2は+10 点、3は+20 点
採血料 静脈
    乳幼児加算
    動脈
    乳幼児加算
37 点
30 点
55 点
30 点
40 点
35 点
60 点
35 点
+3 点
+5 点
+5 点
+5 点
処方料及び処方箋料の特定疾患処方管理加算1を廃止、点数引き下げ66 点56 点-10 点
皮内、皮下及び筋肉内注射
       静脈内注射
       乳幼児加算
22 点
34 点
48 点
25 点
37 点
52 点
+3 点
+3 点
+4 点
点滴注射(乳幼児加算含む)が 2~4 点の引上げ
トリガーポイント注射80 点70 点-10 点
リハビリテーション、精神科専門療法
疾患別リハビリテーション料について、実施した職種ごとの区分を新設
通院・在宅精神療法の 60 分以上の引上げ、30 分未満の引下げ等
処置、手術
熱傷処置3,4,5の引上げ
爪甲除去(麻酔を要しないもの)60 点70 点+10 点
人工腎臓 慢性維持透析を行った場合1~3のイロハすべて一律9点引下げ
鼓室処置55 点62 点+7 点
デブリードマン 100 平方センチメートル未満1410 点1620点+210 点
入院
①入院基本料の基本点数は賃上げ対応として引上げ。
②高齢者の救急患者等の受け入れのため「地域包括医療病棟入院料」(1日につき) 3,050 点を新設
③介護保険施設等の協力保険医療機関が施設入所者を受け入れた場合の協力対象施設入所者入院加算が新設
④地域包括ケア病棟入院料の在宅復帰率要件厳格化、地域包括ケア病棟入院料の評価について、入院期間に応じた評価に見直し(41 日以上は 100 点前後の引下げ)
⑤リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算(1日につき)120 点の新設
⑥療養病棟入院基本料が疾患・状態や処置等9つの医療区分と3つの ADL 区分に基づく 27 分類及びスモンに関する3分類の合計 30 分類の評価に見直し
⑦一般病棟用の重症度、医療・看護必要度の評価項目の見直し、厳格化
⑧短期滞在手術等基本料1、3の評価見直し、引き下げ
⑨回復期リハビリテーション病棟入院料の要件厳格化と賃上げ対応による引上げ
⑩院内感染防止等の観点から感染対策が特に必要となる感染症の入院患者について、必要な感染管理及び個室管理を評価する特定感染症入院医療管理加算が新設
⑪入院時食事療養(Ⅰ)(Ⅱ)の費用の額及び入院時生活療養(Ⅰ)(Ⅱ)の食事療養費の額を、それぞれ1食当たり 30 円引き上げ
⑫精神疾患を有する者の地域移行・地域定着に向けた重点的な支援を提供する精神病棟の評価と
して、精神科地域包括ケア病棟入院料(1,535 点)を新設