高額療養費の見直しに抗議

大臣折衝による高額療養費制度の「見直し」決定に抗議

命綱の制度の改悪は中止を

 2024年12月27日

                   全国保険医団体連合会

会長 竹田 智雄

 

12月25日、政府は患者が支払う医療費負担限度額(高額療養費制度)を来年8月から引き上げる「見直し」を決定しました。所得区分を細分化するとともに、すべての所得区分において、負担上限額(月額)を段階的に引き上げます。加えて、70歳以上の高齢者(年収370万円未満)において外来医療費負担を抑える「外来特例」の負担限度額を大幅に引き上げます。本会は、重篤な疾患の治療・療養を支える高額療養費制度の改悪を国会の審議もなく政府・与党で決定したことに強く抗議するとともに、「見直し」の中止を強く求めます。

 

命綱の制度 改悪は中止を

高額療養費制度は、交通事故やがん治療などで長期の入院が必要な人や、治療のため高額な薬剤を使い続ける人などが、重い医療費負担によって治療・療養の継続、生活や生業などが脅かされないように、月々(及び1年間)に支払う医療費負担を一定額以下に留める制度として、公的医療保険制度において設けられています。今回、重篤な疾患を抱える患者にとってまさに命綱である高額療養費制度の負担上限額を低所得層も含めて大幅に引き上げる「見直し」が政府・与党によって決定されました。がん患者の団体からは「生活が成り立たなくなる、あるいは治療の継続を断念しなければならなくなる患者とその家族が生じる可能性が危惧される」と強い懸念が示されています。患者のいのちまでも脅かす高額療養費制度の改悪は絶対に許されません。

 

高齢者の「外来特例」改悪で受診抑制は不可避

現行の制度では、高齢者(70歳以上)は現役世代(70歳未満)とは別建ての制度とされ、年収370万円未満では、「外来特例」(上限額が月1.8万円又は月8,000円、及び年で14.4万円)はじめ負担限度額が、現役世代よりも相対的に軽減されています。厚労省は、年齢ではなく「負担能力に応じた負担を求める仕組み」が必要として、この「外来特例」について、一定所得以下を除く住民税非課税世帯(低Ⅱ)で1.6倍超、年収200万円以上で1.5倍超という大幅な負担限度額の引き上げを決めました。年金が実質削減され、物価高騰が続く中、ギリギリの生活を強いられている高齢者に大幅な負担増となります。とりわけ、75歳以上で年収200万円以上の人は、2022年10月からの窓口負担1割から2割への引き上げに続き、ダブルパンチです。厚労省の調査でも2割負担導入による受診抑制が明らかになっているもとで、高額療養費制度まで改悪されたら、ますます必要な受診が妨げられ、高齢者のいのち、健康が脅かされます。

 

実質賃金、実質年金額は低下している

厚労省は、負担限度額を引き上げる理由として、大幅な見直しを行った約10年前(2017年)と比べ「賃上げの実現」で世帯収入が増えたことを挙げています。しかし、実質賃金は増えるどころか、2012年の自公政権以降、年額33万6千円も減ったのが実態です。今回の「見直し」で大きな影響を受ける高齢者についても、自公政権のもとで年金額の実質的な削減が繰り返され、約10年間で実質年金額は7%以上の目減りとなっています。異常な物価高騰で生活は厳しさを増しており、制度改悪に正当性はまったくありません。

 

「現役世代の保険料軽減」は上昇する額をわずかに抑制するものにすぎない 実態は国の財源責任の後退

提案では、「全ての世代の被保険者の保険料負担の軽減を図る」として、負担限度額引き上げを正当化していますが、そもそも重篤な疾患の治療・療養を要する患者に負担増を求めることとは何の関係性もありません。強調される被保険者の「保険料負担軽減」も、実際には保険料が上昇する額をわずかに抑制するものにすぎません。一方で示された負担限度額の引き上げによって、国の財源負担(公費)は1100億円削減されると見込んでいます。実態は、保険料負担軽減を口実にした国の財政責任の後退にほかなりません。

ごまかしによる世代間の分断で国の責任を後退させ、患者・国民のくらし、いのちを脅かす高額療養費制度の「見直し」について、改めて中止することを強く求めます。