【談話】雇用・暮らし守る方策なく、医療・社会保障抑制を続ける 「骨太の方針2025」に抗議する

                    2025年6月18日

全国保険医団体連合会

会長 竹田 智雄

 

雇用・暮らし守る方策なく、医療・社会保障抑制を続ける

「骨太の方針2025」に抗議する

 

政府は6月13日、2025年の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)を閣議決定した。本会は、雇用や暮らしを守る具体的方策を欠き、医療・社会保障抑制を続ける一方、防衛費の倍増路線に固執する「骨太の方針2025」に対して抗議するものである。

 1.雇用・暮らしを守る具体的方策を打ち出すべき

骨太の方針では、「賃上げこそが成長戦略の要」と強調するが、「生産性向上」に取り組む中小企業への後押しに留め、中小企業が求める社会保険料への直接支援には言及していない。最低賃金について、全国平均で1,500円を目指すとしているが、具体策はなく意気込みに留まる。手取り増加の効果が大きい消費税減税にも背を向ける一方、防衛費膨張は当然視されている。防衛費膨張は中止し、社会保険料への直接支援、消費税5%への減税・インボイス廃止や全国一律の最低賃金水準への早期の大幅引き上げなど雇用・暮らしを守る具体的方策を示すべきである。

2.医療・社会保障の抑制方針は撤回すべき

医療機関、介護事業所が経営危機・破綻に瀕する中、社会保障関係費の伸びについて、「高齢化による増加分」だけでなく、「経済・物価動向等を踏まえた対応に相当する増加分」を加算するとしているが、「2027年度までの間、骨太方針2024で示された歳出改革努力を継続」すると前置きしており、社会保障予算(社会保障関係費)の抑制は続ける方針に変わりない。そもそも、「少子化対策」実施に向けて、患者・利用者負担増を盛り込んだ「改革工程に基づく徹底した歳出改革を進めるなど財源確保を図る」としており、2028年度までに社会保障削減で1.1兆円規模の公費削減を図るスキーム自体は変更されていない。医療・社会保障を抑制する方針は完全に撤回すべきである。

 3.医療機関支援の即時実施、基本診療料の大幅引き上げを

診療報酬(公定価格)については、賃上げ、経営安定、人材確保に向けて、「コストカット型からの転換を明確に図る」としている。2026年度診療報酬改定を始めとした対応策について、これまでの改定による処遇改善・経営状況等の実態を把握・検証し、年末までに結論を得て、経営の安定や現場で働く幅広い職種の方々の賃上げに確実につながるよう、「的確な対応」を行うとしている。

中医協資料にも明らかなように、医療法人の経常利益の最頻値は「0.0~1.0%」(2022~23年度)にすぎず、全産業の賃上げ率4.1%(2024 年度)に医療・福祉は2.5%で遠く及ばない。2024年の病院・診療所の倒産は64件、休廃業・解散は722件となり、過去最多である(※帝国データバンク、2025年1月22日)。直近の2025年度でも病院での賃上げ率は2.41%に留まる(四病院団体協議会・緊急調査結果速報、2025年6月6日)。

“皆保険あって医療機関なし”の状況が全国で現実味を帯び始めている。年末までの検証・結論を待たずに、期中改定や補助金を駆使して医療機関への財政措置を即時実施すべきである。賃上げがしやすく、経営安定に最も寄与する基本診療料を中心に診療報酬を抜本的に引き上げる方針を示すべきである。

4.薬の保険外し、市販薬化推進はやめるべき

医療保険制度に関わって、医薬品・検査薬の「更なるスイッチOTC化」(市販薬化)、「薬剤自己負担の見直し」の検討をあげている。さらに、自民党、公明党、日本維新の会の三党合意文書(6月11日)(以下、三党合意文書)を踏まえ、「OTC類似薬の保険給付の在り方の見直し」について年末までに検討し、「早期に実現が可能なもの」は「2026年度から実行する」としている。

市販薬は処方薬に比べて価格が格段に高く、市販化された医薬品が保険適用外とされ、市販薬の購入ともなれば患者負担は大幅に増える。患者団体、関係学会も危惧するように、治療・療養に支障を来し、患者の生活の質(QOL)や日常生活動作(ADL)に影響が出ることは明らかである。難治性疾患・慢性疾患、難病などでは命に関わる事態ともなりかねない。自治体で行う子ども医療費助成制度、国の公費負担医療制度などの助成対象外ともなる。

医療機関からの報告を見ても、市販薬を拡大すれば、患者が自己判断で市販薬を使用して受診控えによる症状悪化や過剰摂取のリスクが増えることは明らかである。未成年を中心に広がるオーバードーズ(薬物使用の乱用)の拡大も懸念される。検査薬(穿刺血など)の市販化にしても、医療安全確保や受検者による検査結果の自己判断などが危惧される。

薬の保険外し、市販薬化の推進は到底認められない。

 5.所得水準に応じた医療格差を懸念 保険外併用療養費の拡大

骨太の方針では、「保険外併用療養費制度の対象範囲の拡大や保険外診療部分を広くカバーし、公的保険を補完する民間保険の開発を促す」としている。目下、再生医療やがん遺伝子パネル検査など最先端医療が想定されているようだが、有効性・安全性が担保されない医療の大幅な拡大や公的保険診療の範囲の抑制が危惧される。所得水準に応じて受けられる医療に大幅な格差も生まれかねない。安易な拡大は中止すべきである。

 6.高額療養費制度の改善を図る方針を示すべき

また、医療保険制度については、「給付と負担の見直し等の総合的な検討」を進めるとしている。具体的に、高額療養費制度に関わって、長期療養患者などの意見を丁寧に聴いた上で、秋までに方針を決定するとしている。

高額療養費制度をめぐっては、相次ぐ負担上限額の引き上げによって、悪性腫瘍、難治性疾患・慢性疾患の患者、バイオ新薬はじめ高額薬剤を使用する患者などは重い負担を強いられている。上限額計算に係る複数レセプト合算上の制限、月を跨ぐ入院の取扱い、複数医療機関を受診した際の現物給付の不徹底など運用上の課題も多い。高額療養費制度については秋までと時間を区切らず、患者の意見、定期的な検証を踏まえながら、負担軽減、運用改善を目指す方針を示すべきである。さらに、患者負担の軽減に向けて、高薬価の是正も必要である。

 7.療養難民を生み出す病床削減はやめるべき 

骨太の方針では、病床数に関わって、2040年を見据えて「病床数の適正化を進め」るとしている。さらに、三党合意文書に従って、2年後の「新たな地域医療構想に向けた病床削減」が追記された。骨太の方針そのものには「約11万床」の数値目標は記載されていないものの、詳細の参照先となる三党合意文書では、約11万床(一般病床・療養病床5.6万床、精神病床5.3万床)の削減を通じて、約1兆円の医療費削減を見込み、「一定規模の入院医療費の削減効果が期待できる」としている。

今の地域医療構想(対象は一般病床、療養病床)によって全国で125万床から119万床に約6万床が削減されている。低い入院診療報酬も相まって、患者は一層早期の退院を強いられる一方、在宅医療・介護サービスは不十分であり、患者・家族は困難を強いられている。重い精神疾患を抱える患者を地域で受け止める支援・体制も不十分である。11万床削減となれば、介護離職はじめ患者・家族の困難が一気に進むことになる。病床数削減ありきの「適正化」や11万床削減はやめるべきである。

 8.電子カルテ強要は地域医療の崩壊を招く 

「医療DX」に関わっては、▽12月以降、「マイナ保険証を基本とする仕組み」に移行、▽全国医療情報プラットフォームの構築、▽標準型電子カルテの普及の促進などを示している。詳細の参照先となる三党合意文書では、▽電子カルテ普及約100%に向けて、「5年以内の実質的な実現」を見据える、▽支払基金に対する医療情報の電磁的提供を実現するなど「医療DX」を加速する方針が示されている。

そもそも、マイナンバーカード取得は任意である以上、マイナ保険証の利用の押し付けは問題である。オンライン資格確認においてマイナ保険証の利用件数は未だに3割未満にすぎない。患者の受療権の保障、医療現場の混乱の回避に向けて、年末以降「マイナ保険証を基本とする仕組み」に移行する方針は中止すべきである。

紙カルテの診療所に電子カルテの実装を強要することは、地域を熟知したベテラン/高齢の医師・歯科医師を地域医療から退出させていくことになる。実質義務化につながりかねない「5年以内の実質的な実現」を見据えた方針は到底容認できるものではない。

9.真に国民が求める歯科医療提供体制の実現を 

歯科医療に関わっては、歯科医療機関・歯科技工所の経営難の深刻化や無歯科医師地区の増加を反映して、「歯科技工所の質の担保」、「歯科医師の不足する地域の分析等を含めた適切な配置の検討」が追記されたが、核心にある経済問題には言及していない。以外は、概ね昨年と同様な記載であるが、「生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)」、「歯科専門職による口腔健康管理の充実」、「歯科医療機関・医歯薬連携などの多職種連携」、「歯科衛生士・歯科技工士の離職対策を含む人材確保」などは全人的な医療にも関わる課題である。高齢化が進みフレイル対策はじめ歯科医療の重要性が年々増す中、真に国民が求める歯科医療となるよう、国民皆歯科健診の推進はじめ歯科医療提供体制の充実、低診療報酬の改善に向けた施策の具体化・実効性こそが求められる。