厚生労働大臣
福岡資麿 殿
全国保険医団体連合会
副会長・政策部長 橋本 政宏
OTC類似薬の公的保険外し・給付制限は中止するよう求めます
貴職が国政に果たされます重責に敬意を表します。本会は、全国の医師・歯科医師10万6千人で構成する団体です。政府の「骨太の方針2025」では、「OTC類似薬の保険給付の在り方の見直し」について年末に検討し、早期に実現が可能なものについて2026年度から実行するとしています。
多くの患者に影響、重症患者も使う。軽症維持でも必須
医師が診断に基づき処方する医療用医薬品のうち、販売規制など一定の条件を満たしたものがOTC薬として市販が認められています。市販化された医療用医薬品(OTC類似薬)を保険から外してよいという発想は転倒したものと言わざるを得ません。
保険給付の見直し対象となる品目は、解熱鎮痛剤、咳止め、抗アレルギー薬、ステロイド軟膏、湿布、保湿剤など日常診療で広く使うものであり、現役世代含め全ての世代の患者に影響が出ます。市販薬(OTC薬)は軽度の症状・疾患を対象としているから、似たような医療用医薬品(OTC類似薬)を保険から外しても問題ないといった議論が見られますが、臨床上、OTC類似薬は様々な症状・疾患で使用されています。解熱鎮痛剤一つとっても、肺炎、抗がん剤使用に伴う熱発への対応はじめ重症な患者でも使用されています。ステロイド、保湿剤などは症状が不安定なアトピー性皮膚炎、化学療法の副作用への対処などでは必須です。保湿剤により症状の悪化を防いでいるアトピー患者も少なくありません。
患者負担が大幅に増加。命にかかわる事態も
OTC類似薬が公的保険から外され、薬局やドラッグストアで市販薬として購入する形となれば、患者負担が数十倍に増えるケースも出てきます(例えば、痰切り薬:60円→2,500円、ステロイド含有軟膏:60円→2,000円)。受診先の近くに必要な薬を扱う薬局などがあるとも限りません。生活保護(医療扶助)、指定難病はじめ国の公費負担医療制度なども助成対象外となります。治療・療養に支障を来し、生活の質に影響が出るのみならず、難治性疾患・慢性疾患、難病や医療的ケア児などでは命に関わる事態ともなりかねません。子ども医療費助成制度でも対象外となるなど、かえって子育て世代の負担増になります。
三党合意文書では、子どもや慢性疾患、低所得者の患者負担に配慮するとしていますが、これまで通り保険給付を維持するとは言っていません。これらの患者は通院回数が多くなる上、高額療養費を利用する患者もおり、これ以上の負担増はありえません。
早期発見の遅れ。副作用見落とし・症状の悪化
軽い症状には市販薬で対処する“セルフメディケーション”が強調されますが、軽そうに見える症状でも大きな疾患が隠れていることもあります。市販薬利用によって重い疾患の症状がマスキングされ(例えば、鎮咳薬・解熱剤と肺結核・肺がん、胃腸薬と胃がん、痔疾治療薬と大腸がん)、早期発見が遅れることが危惧されます。受診こそが必要です。
市販薬の漫然とした長期使用は神経・臓器の障害・機能低下など有害事象にも関わってきます。医療機関の4割が市販薬服用で副作用が出たり、重症化して来院した患者を経験しています(※大阪府保険医協会調査)。さらに、OTC類似薬が保険適用外となれば、受診せず自己判断で市販薬を使用して症状悪化や健康被害のリスクが増えることは明らかです。未成年を中心に広がるオーバードーズ(薬物使用の乱用)の拡大も懸念されます。
患者の命と健康を守るため、診断・検査・投薬を一体で保障する公的医療保険制度の運用を堅持すべきです。OTC類似薬の公的保険除外・給付制限は中止するよう求めます。