【医科談話】医療提供の縮小・地盤沈下、医療機関の存続問われる事態に ~第25回医療経済実態調査結果について~

2025年12月5日

保団連は12月3日、下記の談話を発表しました。

 

11月26日の中医協に第25回医療経済実態調査の結果が報告された。有効回答数は、病院:1,167、医科診療所:2,232、歯科診療所:532、保険薬局:1,057で、有効回答率は各々50.2%、54.9%、52.5%、55.4%で50%を超えた(前回調査より、有効回答数は病院で+28、医科診療所で-40、歯科診療所で-55、薬局は+21)。
悉皆調査ではなく、サンプル数が限られ、比較的経営状況が良い医療機関が回答する傾向に注意が必要だが、先に示された「医療法人経営情報データベース」(MCDB)に基づく分析結果と同様、今回の実態調査結果からも、医療提供体制が縮小し、医療機関の存続も問われる深刻な実態があらためて浮き彫りになっている。

一般病院で7割近く、民間病院で5割強が赤字

2024年度の損益率(医業・介護の収入に占める利益の割合)(平均値)は、一般病院(精神科病院を除く病院)では-7.3%、うち医療法人(民間病院)でも-1.0%となり、23年度の各々-7.5%、-1.1%より微増に留まり、ほとんど改善していない。
一般病院において、新型コロナ関連補助金等も含めた総損益率(2024年度)は-3.9%で-2.4%(2023年度)より低下しており、新型コロナ関連補助金がなくなった影響がうかがえる。一般病院では、増収と同様に費用が増加し、赤字基調が改善していない。一般病院で68%が赤字状況にある。全国で約7千ある一般病院のうち、4,800近くで赤字となっている。
一般病院のうち、医療法人(民間病院)の損益率(2024年度)は平均値-1.0%に対して、中央値は-0.9%とほぼ一致しており、赤字の民間病院は55%と過半数に及ぶ。赤字の割合も23年度より2ポイント近く増加している。地域では、給与の削減・未払い、設備更新の繰り延べ、さらには倒産が相次ぐなど極めて深刻な状況に置かれている。
職種別給与(平均値)については、ほとんどの職種で上昇しているが、一般病院では、病院長と歯科技工士の給与が下がり、うち医療法人(民間病院)では病院長、医師の給与が下がっている。医師の働き方改革を謳う一方、低い診療報酬の下で医師へのしわ寄せが行われている。

医科診療所(医療法人)の4割近くで赤字 24年度改定の影響大きく

医科診療所では、同損益率は、医療法人で4.8%、個人立で28.8%(※)であり、23年度より各々3.5、3.2ポイント低下した。同様に、医科診療所(無床・個人立)では、29.1%であり、23年度より3.2ポイント低下した。総じて、減収した一方、費用が増加して、損益率が圧縮されている。2024年度診療報酬改定における特定疾患療養管理料をはじめとした医学管理などの改悪の影響は明白である(※個人立の損益率には開設者の報酬、設備維持費用などを含むため、医療法人と比較できない)。
医科診療所(医療法人)の損益率は平均値4.8%に対して、中央値は2.7%と乖離しており、赤字の医科診療所(医療法人)が全体の37%に及ぶ。赤字割合は23年度より10ポイントも増えており、全国で4万8千ある医科診療所(医療法人)のうち、1万6千近くが赤字に陥っている。医科診療所についても、病院と同様に医療提供の存続が問われる事態にある(※個人立の場合、損益差額の部分が開設者報酬、設備維持費用などで構成されるため、損益率が0%未満のみを赤字の診療所とカウントすることはできない)。

平均値では測れない 院長給与

医科診療所(医療法人)の院長給与については、平均値は2,898万円のところ、中央値は2,280万円と約700万円も低く、2,000万円以下で約4割を占める。ばらつきが大きい。
同様に、医師も同様であり、平均値1,099万円のところ、最頻値は500万円以下であり、1,000万円以下が43%を占めている。ばらつきが大きいことから、実態を正確に把握するには、中央値と最頻値を重視すべきである。
とりわけ、財務省が問題視する医科診療所(個人立・無床)の院長給与に関連しては、損益差額(平均値)は2,584万円となっているが、損益差額には院長報酬のほか設備維持費用(さらに所得税支払額)なども含むものである。また、損益差額の中央値は2,051万円で平均値より500万円以上低く、1,500万円未満(赤字含む)で4割近くを占めている。平均値にのみ注目した指摘は過大視と言わざるを得ない。

 

今回の医療経済実態調査結果からも、人件費・物価の上昇が続く中、診療報酬が低く据え置かれる下、医療提供基盤が縮小・地盤沈下し、医療機関の存続自体が問われる危機的事態にあることがあらためて浮き彫りになった。
さらに診療報酬の引き下げとなれば、全国で4,800以上の病院、1万6千以上の医科診療所(医療法人)をはじめ、地域の医療機関に大打撃を及ぼす形となる。診療報酬10%水準の大幅な引き上げが不可欠である。