【要望書】医療・介護・福祉サービス体制の拡充を求める要望書―新型コロナウイルス感染症対策の見直しは、慎重に検討を

全国保険医団体連合会では、政府は、季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行させる方針を決定したことを踏まえ、下記の要望書を総理、厚労大臣に提出しました。[PDF:211KB]

2023年2月14日
全国保険医団体連合会
会長 住江 憲勇

医療・介護・福祉サービス体制の拡充を求める要望書~新型コロナウイルス感染症対策の見直しは、慎重に検討を

 

 新型コロナウイルス感染症の位置づけについて政府は、5月8日に季節性インフルエンザと同じ「5類」に移行させる方針を決定した。

 岸田総理は、医療費の公費負担は「期限を区切って継続」し、医療体制とあわせ「3月をめどに具体的な方針を示す」とし、全国民対象に措置していたワクチンも「必要な接種を引き続き、自己負担なく受けられるようにする」と述べている。また、5類移行後は一般医療機関で患者受け入れを段階的に行う方針と報道されている。

 しかし、感染拡大の波が押し寄せるたびに、入院先が確保できない状況が繰り返されており、第8波も例外ではなかった。さらに、重要なことはコロナ感染によって、コロナ以外の医療が大きな影響を受け、必要な手術や治療が受けられない状況が改善されていないことである。国民の命と健康を守るためには、コロナはもちろん、コロナ以外の医科・歯科医療供給体制の確保・充実が不可欠である。

 5類への引き下げの理由として政府は、高齢者も含めて重症化率・死亡率が季節性インフルエンザよりも低下していることや経済への影響などを挙げているが、新型コロナウイルス感染症の感染力は季節性インフルエンザの数倍あり、高齢者施設等でのクラスターが多数発生し、2023年1月の死亡者数は1万人を超えている。今の状況下で、ワクチンや検査、治療への公費負担、コロナ治療にあたる医療機関への財政措置を廃止すれば、国民の命と健康を守ることはできなくなる。

 また、そもそも医療現場は、長年に渡る医療費抑制政策により疲弊しており、十分なゾーニングと人員配置を行って、新型コロナウイルス感染症患者にも対応できる医療機関は限られている。昨年9月に神奈川県保険医協会が実施した調査では、ワクチン接種や電話診療、後遺症患者の診療に多くの医療機関が対応しているものの、PCR検査や発熱外来については動線分離も時間的分離も困難であることなどから実施できないと回答した医療機関が5割を超えている。コロナ禍で露呈したのは、政府の医療費抑制政策による脆弱な保健、医療提供体制であり、コロナから国民の命と健康を守るためには医療費抑制政策からの脱却こそ求められている。コロナ補助金によって赤字から黒字に転じた医療機関も少なくないが、これはそれまでの診療報酬や財政措置の水準が異常に低かったことの証明である。

 今必要なことは、診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス費を大幅に引き上げ、強靭な医療・介護・障害福祉の提供体制を構築することである。また、医療・社会保障の充実による所得再分配機能の強化、安定した正規雇用を基本に据えた労働環境整備、応能負担を徹底した税制改革など、誰もが安心して暮らせる社会の構築に向けて抜本的な政策転換を図るべきである。

 当会は、国民の命と健康に責任を持つ保険医・歯科保険医の立場から、新型コロナウイルス感染症対策について、次の実現を求めるものである。

一.国民の命と健康を守る立場から、新型コロナウイルス感染症に関する下記の財政措置等を継続・拡充すること。

(1) 新型コロナウイルス感染症の治療に対する公費負担と診療報酬上の特例加算
(2) コロナ対応病床(空床確保)への財政措置
(3) 医療機関におけるPCR検査・抗原検査の窓口負担に対する公費負担
なお、包括点数の場合も引き続きPCR検査・抗原検査は別途算定できること。
自己検査キットの自費使用推奨ではなく、医療機関での公費検査・診察を前提とすること
(4) 全額公費によるワクチン接種の継続と接種後の健康被害の調査・研究、補償の充実、治療方法の確立
(5) 新型コロナウイルス後遺症(LongCOVID)に対する調査・研究、著しい症状を来す患者への公費負担の適用、治療方法の確立
(6) 高齢者施設や障害者施設、医科・歯科医療機関における感染対策に対する財政措置
(7) 新型コロナウイルス感染症患者等の受け入れ医療機関等において、看護要員配置をはじめとした基準を満たせない場合に、直ちに施設基準の変更の届出を行わなくても良いとする特例措置

一.高齢者施設や障害者施設入所者の「留め置き死(陽性になっても入院できずに施設療養を求められ、命を落とす)」等の実態調査・分析を行い必要な入院医療の確保を図ること。

一.医科・歯科診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス費を大幅に引き上げ、強靭な医療・介護・障害福祉の提供体制を構築すること。

一.医療・社会保障の充実による所得再分配機能の強化、安定した正規雇用を基本に据えた労働環境整備、応能負担を徹底した税制改革など、誰もが安心して暮らせる社会の構築に向けて抜本的な政策転換を図ること。

一.科学的知見に基づく感染症対策の継続及び国民等への周知を図ること。

以上