「医師の働き方改革」の財政措置、体制確保の実施を求める緊急要望書

全国保険医団体連合会では、2024年4月に実施される「医師の働き方改革」に伴い、昨年10月12日付で要望書を提出しましたが、今回改めて厚生労働大臣及びマスコミ各社に提出しました。

2023年4月19日
全国保険医団体連合会
会長 住江 憲勇

2024年4月実施の「医師の働き方改革」を全ての医療機関で実施できるよう

政府の責任で財政措置、体制確保の実施を求める緊急要望書

 

 前略 国民医療の確保に対するご尽力に敬意を表します。

 さて、2024年4月には「医師の働き方改革」が開始されます。

 当会も医師等の労働環境の改善は、医療安全など患者へのより良い医療の提供のためにも不可欠であると考え、2022年10月12日付で「2024年4月実施の『医師の働き方改革で、全ての医療機関で労働条件改善を実現するための緊急要望書を提出したところです。

 10月12日に要望した項目は医師の働き方改革を実現するためにはいずれも、不可欠な内容であるにもかかわらず、政府のその後の対策は全く不十分であり、医師の働き方改革を医療機関と医療従事者にのみ押し付け、政府の役割を発揮しようとしてはいません。国立大学病院長会議の横手幸太郎会長も3月3日の記者会見で「働き方改革への対応、体制の維持には多額の費用負担が発生する」ことを指摘し、「継続的な財政支援」を要望していますが、全ての医療機関に対する財政措置が必要です。

 医師の絶対的な不足や地域・診療科偏在を解決しないまま、不十分な診療報酬や財政措置の改善を放置し、さらには新型コロナに対する政府の施策が不十分なため、2024年4月から全ての医療機関で要件を満たすことは困難です。

 長時間労働は、心身に大きな影響を及ぼし、それは仕事にも悪影響を及ぼします。しっかりとした休日・休暇をとってリフレッシュした上で診療に臨むことは重要です。しかし、そのためには、欧米諸国と比べて少ない医師数の養成・確保が必要です。

 政府が果たすべきことは、時間外・休日労働時間がクリアできない病院にペナルティをかけて地域医療を崩壊させるのではなく、医師の絶対数不足や地域・診療科偏在を認め、医師の養成・確保に責任を果たすとともに、個別指導や適時調査を簡素化して「患者の診療や研修」以外の時間的、肉体的・精神的負担をなくすことです。

 保団連では、医師の働き方改革に対する準備状況及び政府への要望を把握するため昨年9月に調査を実施し、回答総数(736病院)のうち、時間外・休日労働時間の上限を全ての勤務医が満たせている病院は76.77%(565病院)であり、特に「連携B水準、B水準、C水準の指定を予定している病院(101病院)」に占める割合は39.6%(40病院)と低いことがわかりました。

 「連携B水準、B水準、C水準の指定を予定している病院」は、救急医療等に力を注ぐいわば地域の中核病院です。こうした病院で時間外・休日労働時間がクリアできなくなれば、入院や救急受け入れを含めた診療機能の縮小せざるを得なくなる恐れがあり、そうなれば地域医療に計り知れないダメージを被ってしまいます。

 「医師の働き方改革を実現するために、必要なことはなんですか」(複数回答)との問いについては、「診療報酬の引き上げ」(64.27%)、「新型コロナウイルス感染症の収束」(51.09%)、「医療法や診療報酬の委員会、職員研修等の運営の緩和・合理化」(49.73%)、「一層のタスクシフトやタスクシェアリング」(36.55%)、「処遇改善のための補助金の創設」(35.60%)、「個別指導や適時調査などの簡素化」(34.51%)、「国による医師養成数の増加や授業料への補助」(31.25%)との回答でした。

 調査結果を踏まえて当会は、全ての医療機関が医師の働き方改革が実現できるよう、医師の絶対数不足の解決をはじめとした次の事項を政府の責任と負担で実現することを強く求めるものです。

 なお、調査結果のまとめと、調査結果の集計表、調査票などはこちらに掲載しておりますのでご参照ください。

一、 医師の絶対数不足の解決のため、医師養成数の増加及び養成に対する必要な財政措置を、国の責任で実施すること。また、特に医師の少ない地域や診療科に着目し、これらの解決に向けた取り組みを早急に強化すること。
一、 医師・歯科医師及びコ・メディカル、事務職員等の労働条件・労働環境改善の原資である診療報酬を大幅に引き上げること。
一、 職場の労働環境改善に対する財政措置を充実すること。
一、 医療法や診療報酬で定められた委員会、職員研修等の運営の緩和・合理化を行うこと。
一、 新型コロナウイルス感染症及び新興感染症対策を更に強化し、医療逼迫を招かないようにすること。
一、 医師・歯科医師に過剰な負担を強いることのないよう、個別指導や適時調査などの簡素化・合理化を一層図ること。
一、 職業紹介事業者が不当な利益、不当な勧誘を行わないよう規制強化を行うこと。
一、 コロナへの対応及び救急対応等が実施できるよう、現実的な宿直許可基準にすること。
一、 診療時間内の受診を労働者の権利として保障すること。少なくとも就業時間中の通院を認めた事業所については、何らかの補填を行うこと。
一、 国と自治体の責任と負担で、救急医療体制の継続・構築を図ること。

以上