【声明】財務省財政審「建議」について

全国保険医団体連合会では、11月28日に発表された財務省財政制度等審議会の2023年度予算編成に向けた「建議」に対し、以下の声明をマスコミ発表しました。

2023年6月13日
全国保険医団体連合会
政策部長(医科) 竹田 智雄
政策部長(歯科) 池 潤

財務省財政審「建議」について(声明)

 財務省の財政制度等審議会(財政制度等分科会)は5月29日、「歴史的転機における財政」と題して春の「建議」を公表した。政府の軍拡路線を追認しつつ、医療・社会保障を切り詰める財政方針であり、本会は強く抗議するものである。

軍拡を免罪し、医療・社会保障を切り詰める

 「建議」では、極度のインフレなど歴史的教訓を形式的には指摘しつつも、防衛費の年8~9兆円への倍増計画について政府の決定であるとして事実上追認している。他方、2024年度の医療・介護・障害福祉のトリプル報酬改定に向けては、コロナ補助金等を引き合いに出し、「(報酬の)引き上げの必要性は慎重に議論を行うべき」などとして、事実上、報酬の引き上げ・改善に背を向けている。少子化対策の財源についても、現役世代にも悪影響が及ぶ社会保障の「歳出改革」を継続するなどで確保するよう求めるなど自己矛盾である。さらに、我が国の社会保障給付規模(対GDP比)はドイツ、フランスなど海外先進諸国の水準に及ばないにも関わらず、「経済成長率も見据えながら、今後、更に給付費用自体の抑制に取り組」むよう求めている。平和主義を掲げ国民の生活保障を規定する憲法を国是とする我が国において、大幅な軍拡路線を免罪し、医療・社会保障を切り詰める財政方針など到底認められるものではない。

コロナ補助金理由に賃上げ支援を拒否

 「建議」では、新型コロナウイルス感染症が5類に移行するとして、コロナ医療特例は早急に解消するよう求めるとともに、「コロナ前を上回るペースで医療費は増大」していると強調した上で、病院には補助金交付により蓄積された純資産を使い、賃金・物価高に対応するよう求めている。しかし、財務省が推計している医療費45.5兆円(2022年度)は、かりに今回のコロナ感染症危機がなく通常通りに伸びていた場合と同じ水準であり、ようやく平時の医療費水準に戻ったにすぎない。そもそも、コロナ以前の民間病院は赤字寸前(2019年度;収益率1.8%)の経営が続き、必要な「内部留保」蓄積も困難な厳しい状況に置かれてきた上、未知の新興感染症により強い疲弊を強いられる中、コロナ補助金によりどうにか雇用を維持し診療を継続してきたにすぎない。民間病院に対して、補助金で得た資産を使い賃金・物価対応に対応しろと求めるのは無責任極まる姿勢と言わざるを得ない。本来、こうした補助金がなくても、安定した収益率が得られ、病院経営が維持できるよう診療報酬上で手当手することこそ財務当局が果たすべき役割である。

医療提供を削減し地域を荒廃させる

 医療提供体制に関わっては、依然、医療費抑制の下で強められてきた医療提供体制の脆弱性には目をつぶり、救急医療の集約化、看護配置を要件とする急性期入院基本料の廃止(患者の重症度、救急受入れ、手術等の「実績」をより反映)、公立病院の「他の病院との連携・再編」、「診療所等のかかりつけ医機能の確保・強化」、医師が「多い」とする区域における「一歩踏み込んだ」開業規制(例えば、診療科別、地域別の保険医定員制)―など重点化・集約化による「効率化」を通じて少子・高齢化などに対応するよう求めている。高齢化が進む中で、地域に住み続けられるためにも、地域で医・食・住を一体確保することが不可欠であり、地域の中小病院や有床診療所が果たす役割への積極的評価こそが必要である。
また、医療DXに関わって、韓国の審査支払機関であるHIRA(健康保険審査評価院)を引き合いに出して、「少ない処方数を高く評価する」など「医療費適正化の観点からの審査」に活用するよう求めている。医療のデジタル化の目的は、あくまで医療の質の向上にあるべきであり、「少ない処方数」への評価は本末転倒である。

リフィル処方しないなら診療報酬削減

 受診回数を間引く「リフィル処方箋」について、当初の医療費削減目標(年間50億円)を達成していないとして、「周知・広報を図る」、「積極的な取組を行う保険者を各種インセンティブ措置により評価する」よう主張するとともに、「薬剤師がリフィル処方箋への切替を処方医に提案する仕組みの評価」、「OTC類似薬は薬剤師の判断でリフィル処方箋に切り替えることを認める」よう求めているが、患者の疾患・心身状態等に鑑みて都度、投薬期間等を決めている医師の専門的判断に介入する越権行為である。医療費適正化の効果が未達成な場合、「年末の診療報酬改定において、その分を差し引く」よう求めている点に至っては、患者の健康確保とは関係ない財政ありきの主張であり、論外である。

手当たり次第に負担増求める

 患者負担・利用者負担に関わって、医療については、75歳以上での「原則2割負担」、マイナンバー活用により「保有資産・金融資産等を勘案」した負担、「薬剤費の一定額までは自己負担とする」などの給付削減、介護については、介護利用料の「原則2割」や3割負担者の対象拡大、65歳以上の「高所得」の保険料負担の引き上げ、要介護1・2の訪問介護・通所介護の地域支援事業への移行(介護給付外し)、介護医療院・老健施設における多床室の室料負担引き上げ、ケアプラン作成の有料化―など手当たり次第に負担増を求めている。75歳以上への窓口負担2割導入に伴い、受診を間引く・生活を切り詰める高齢者が増えている現実を無視した上、今般、後期高齢者の医療保険料負担の引き上げを決めたことすら斟酌せず、只々高齢者に負担増を強いる姿勢は極めて問題である。
また、「生活保護受給者の国保、後期高齢者医療制度への加入」を執拗に求めるなど、国が全面的に財政責任を果たすべき「公的扶助」の制度を抹消しようとする姿勢も看過できない。

 全ての世代が健やかに安心して暮らせるように、財務省は、政府の軍拡方針に問題点を直言するとともに、莫大な内部留保を溜め込み続ける大企業・富裕層に応分な負担を求めて、公正な税財政を再建しつつ、医療・社会保障を拡充することに力を注ぐべきである。

以上