厚生労働大臣
武見敬三 殿
2024年7月3日
全国保険医団体連合会
医科政策部長 橋本 政宏
「かかりつけ医機能報告制度」施行に向けた要望
貴職が国政に果たされます重責に敬意を表します。
本会は、全国の医師・歯科医師などで構成する全国保険医団体連合会(会長=竹田智雄、会員数10万7千人)です。
厚労省より、かかりつけ医機能報告制度(2025年4月施行)に関わって、夏場の「議論の整理・取りまとめ」に向けて、省令等の具体的内容等の案が示され、検討を進めています(かかりつけ医機能制度施行分科会資料5月24日ほか)。
登録制度・認定制度への運用傾斜を懸念
今回の制度整備(かかりつけ医機能報告、医療情報提供制度の刷新)は、現行のフリーアクセスは前提(維持)した上で、患者への情報提供の充実と地域での自治体や医療機関などの話し合いを通じて、かかりつけ医機能をさらに充実させていく趣旨とは理解しますが、制度・運用の詳細については省令等に委ねられるところも多く、最初の受診先を事前に決めておく「登録制度」、かかりつけ医機能を担う医師の機能を公にチェックする「認定制度」への傾斜・変質の危険性、さらには医療現場の事務負担増などを危惧しております。
受診動線に大きな支障なし、地域医療の確保策の充実を
医療現場では、地方では受診できる医療機関が少なく、受診先を選択する余地がない一方、都市部では、患者は普段かかっている医療機関やネット検索(医療機関HP、口コミサイトなど)して選んだ医療機関にかかり、必要に応じて他の医療機関の紹介を受けるなどしており、現在の受診の仕方において特段の不都合・支障は生じていません。多くの医療機関が自院の機能・特性に応じて、互いに連携して地域を一体的に支えています。
つきましては、今回の報告制度に関わって、患者の受診の仕方・動線に混乱を惹起させないようにするとともに、現在ある地域の医療提供体制の維持を踏まえた上、より充実させていく観点から、報告制度に係る設計・運用に関わって、下記の事項について要望いたします。
(※かかりつけ医機能に係る制度整備に関わる全般的な要望については、「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」案に関する要望(2023年4月27日)にて記載。今回の要望書と合わせて保団連HPに掲載。)
PDFファイル(要望書、2023年4月27日)
【記】
<要望項目>
(報告対象となる医療機関)
1.報告対象となる医療機関(歯科医療機関は除外することが前提)より、閉院予定の医療機関、高齢で零細規模などの医療機関については報告を免除(任意)とすること。または、都道府県において、報告対象となる医療機関の範囲を緩和できる裁量権を認めること。
【要望理由】高齢の開業医は長年、地域に密着して医療提供を担っている中、報告を求めることは事実上、無用な負担となりかねない。オンライン資格確認、オンライン請求、さらに電子カルテの実装・標準化など実務的な負担が増す中、さらに報告を求めることで閉院の後押しにもなりかねない。他方、今回の報告制度において参加(報告)しないことを理由にして、地域の医療連携の枠組みなどから排除されるようなことはありえないし、あってはならない。
(報告を求める内容)
2.かかりつけ医機能に係る報告内容(1号機能)については、「診療領域」に留めること。
【要望理由】「一定以上の症状」(臨床研修の到達目標:35項目)とした場合、想定されうる疾患の
範囲が広くなる結果、有無のチェックのばらつきが大きくなり報告の妥当性を欠くことになる。
他方、患者は、自身の症状と医療機関が標榜する「診療科」を大まかに結び付ける形で判断して
受診しており、特段の問題は生じていない。
3.かかりつけ医機能に係る報告内容(2号機能)について、「ACPの実施状況」については削除すること。
【要望理由】ACP(人生会議)自体が国民に依然周知されていない。また、ACP実施のあり方は、患者や医療現場に応じて様々であり、実施の有無や内容の記載などは、かえって誤解を招く危険性が否めない。
4.全国医療情報プラットフォームの参加・活用状況については、報告対象より除外すること。
【要望理由】患者・国民、医療現場はマイナ保険証の活用を希望していない。マイナ保険証推進は、システムエラーやトラブルはじめ医療現場に無用な混乱を招いている。
(かかりつけ医機能の多様な類型(モデル))
5.かかりつけ医機能を有する(支援する)医療機関などのモデルは、5類型以外も認めること。モデルは定性的な記載に留めるなど「ガイドライン」には慎重に記載すること。
【要望理由】都道府県が参考とする「かかりつけ医機能報告ガイドライン」にモデル(検討会では5つを例示)を記すとしているが、各地域で求められる個別機能(具体的内容の濃淡含め)は様々であり、当該地域ごとにモデルは多様に分岐する。特定のモデルを例示した場合、医療機関間のランキング・優劣などとして独り歩きする懸念が否定できない。
(報告する方法)
6.別途届出・レセプト請求など他のデータベースから得られる情報については、報告に際して提出(用紙記入)を求めないなど医療機関の事務負担を極力軽減すること。
(協議の場での協議)
7.在宅医療、介護連携等の協議を担う市町村に対して、国・都道府県が人的・技術的財政的に全面的な支援を行うこと。
【要望理由】市町村において、PDCAサイクルを回す形で新たな圏域会議を実施することは負担が極めて大きい。
8.協議の場において、医療機関(新規開業含め)に対して、地域で不足する「かかりつけ医機能」の提供を強引に求めるようなことはしないこと。
(かかりつけ医機能に関わる患者への説明)
9.医師等が患者に対して行う説明は、患者の受診実態などに応じて複数の医療機関(医
師・歯科医師)からの説明を否定しないこと。
10.医療機関・患者の状況に応じて、口頭のみでの説明も認めること。
【要望理由】治療計画については、「療養計画(書)を説明する」診療報酬を算定していない場合でも、医師は必要に応じて、患者や家族に説明して、適切な指導・管理を行っている。
(教育・研修、連携体制、情報共有基盤など)
11.医師が実地研修に赴いた際に生じた医療機関(休診等)の減収を国として補償すること。実施研修に赴く場合、医師配置に係る施設基準については満たしているものとみなすこと。
12.連携体制の構築に向けて、支援診・支援病(機能強化型)に加えて、一人医師はじめ小規模な医療機関も対象に診療報酬等で十分に評価すること。
13.かかりつけ医機能に関する研修において、マイナ保険証を前提とした「医療DX」の利用に関する項目は盛り込まないこと。
14.地域の医療機関等で使用される診療情報提供書、民間連携デバイス利用や医療団体等が取り組む地域医療連携情報ネットワークに対して、人的・財政上の公的支援を抜本的に強化すること。
【要望理由】地域において、患者の同意(理解)を得つつ、診療に必要な内容・範囲に応じて医療機関等で連携している取組・仕組みが堅実的であり効果的でもある。「医療DX」に見られる全国一元的に情報管理するデータベース基盤の構築について、患者・国民や医療現場の納得・理解を得られているとは言い難い上、情報が漏洩した場合の被害が甚大な規模に及ぶことになる。システム障害に係る影響の大規模な波及も看過しえない。「医療DX」の推進は、患者にとっても、マイナンバーカード利用に伴う情報漏洩リスクを抱え込む。
15.遠隔医療の整備ありきではなく、医師派遣・巡回診療など対面診療が確保できる手段・体制を国・行政が責任をもって検討し、可能な限り手当すること。
(医療提供体制の抜本的強化などに向けて)
16.地域において患者が求めているニーズや困っている問題について丁寧に調査し、課題
を精査すること。
17.不足する「かかりつけ医機能」の確保が現実的に可能となるよう、診療報酬・補助金、税制等を抜本的に改善すること(要望項目の12とも関連)。特に、医療機関が連携して「かかりつけ医機能」を発揮できるよう抜本的に改善するとともに、医療資源が少ない地域などでは、公的医療機関の確保も含め公的支援を抜本的に強めること。
18.患者の生き方・生活背景も含めた包括的・継続的診療に向けて、医師が患者に余裕をもって向き合えるよう、医療専門職の計画的育成・抜本的増員を図るとともに、患者負担を軽減すること。