新型コロナウイルス感染拡大の第6波が最も早く始まった沖縄県では、患者の激増が通常医療に影響し、医療逼迫といえる状況が生じている。発端となったのは米軍基地でのクラスタ―の発生だ。不平等な日米地位協定が、感染対策の障壁になっている。県内の医療の現状、米軍基地からの感染拡大の経緯などを、会員に報告してもらう。
発熱外来の受診が倍増 ―与那原中央病院 山里将一朗
駐車場があふれ道路まで車が
当院は急性期病床96床、回復期病床44床、療養病床30床を有する病院で、主に周辺地域の方々を対象に医療提供している。発熱外来を9時から17時まで行っているが、オミクロン株が中心の第6波は、明らかにこれまでの流行とは異なっている。
まず受診者の数が圧倒的に多い。これまで当院は発熱外来を受診した患者を全て診察し、第5波までは多い日でも1日30人程度だった。しかし1月2日以降は受診者が急増し、5日には受診者が1日60人に達した。
発熱外来はドライブスルー形式で行っているが、駐車場が検査および診察待ちの車であふれ、病院につながる道路まではみ出すような事態になった。通常外来にも影響がでてきたため、6日以降、発熱外来は1日30人の予約制とした。しかし直接受診する患者は別途対応しているので、1日40人程度となっている。
正月明けは20代から30代が多かったが、家庭や職場などに持ち込まれた影響もあって、中高年や高齢者にも感染者が増え、入院調整を行うケースも出てきている。
職員の欠勤増え業務縮小も危惧
また、職員の欠勤がこれまでの流行より多い。当院の全職員数は400人程度だが、第6波に突入してからは10人程度の職員が欠勤している。この全てがコロナ陽性者や濃厚接触者ではない。1月12日から医療従事者は、濃厚接触者となった場合でも毎日検査を行うことで勤務可能となった。しかし濃厚接触者ではなくても、学校や幼稚園に陽性者が出て休校・休園となり、子供の面倒をみるために休むというケースもある。
欠勤者がこのまま増えた場合には業務縮小の必要があるため、事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)を作成している。具体的には内視鏡部門を閉じることや、急性期病床の縮小(96→88床)を必要に応じて行う予定だ。
オミクロン株はデルタ株と比較すると重症化しにくいとは言われているが、感染者数が増加すれば、それに比例して入院患者や重症者は増えてしまう。また、社会インフラに大きな影響が出ており、「ただの風邪」と侮ることはできない。引き続き一人一人がマスク・手洗い・人混みをなるべく避けるなどの感染対策をしていくことが、自分や周囲の人を守ることにつながると考えている。
地位協定が対策の障壁 ―沖縄協会会長 高嶺朝広
在沖米軍は昨年12月17日、部隊配備計画の一環としてキャンプ・ハンセンに到着した隊員が、新型コロナウイルスに感染するクラスター(集団感染)が発生したと発表した。
その後コロナ感染は在沖米軍全体に急速に広がり、12月15日以降の在沖米軍の感染者は5,000人を超えたと今年1月21日に報道があった。また9月3日から在日米軍が一方的に検疫を緩和し、出入国時の検査を実施していないことも明らかになった。
12月21日に沖縄県は、米軍人・軍属の基地からの外出禁止などを日米両政府に要請していた。しかし、在沖米軍が外出制限を行ったのは1月10日からである。沖縄県内では年明けから新型コロナウイルスの患者が急増し、1月7日には1,000人を超えて1,414人となった。日米両政府の対応があまりにも遅すぎる。
感染者情報の詳細提供されず
2020年7月、沖縄で初めてコロナの大規模なクラスターが発生したのも、米軍関係者である。在沖米軍は基地内の防止策は万全であるとし、感染者の状況について詳細な情報を提供していない。
今回の件で明らかになったのは、感染対策における日本の水際作戦の最大の障壁となっているのは日米地位協定だということだ。沖縄以外でも米軍基地を抱える地域ではいち早くオミクロン株の感染が広がった。
保団連および全国の協会・医会が市民団体や各団体と協力し、日米地位協定を改定させる必要がある。