COVID-19と唾液腺 保団連研究・学術交流会

COVID- 19と唾液腺
ドライマウスとコロナ対策から偶然生まれた革新的な口腔ケア用品の開発
大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能治療学教室教授
阪井 丘芳 氏

新型コロナウイルスは、ACE2を介して細胞に結合して感染する。AC
E2の発現量は肺よりも唾液腺、特に唾液腺の導管上皮細胞に集中することから、「ウイルスが唾液腺に感染し、その唾液が飛沫としてヒトからヒトへ移行して感染する」「感染した唾液が不顕性誤嚥により呼吸器へ移行して重症化する」という仮説をたて論文発表した。この仮説は2021年3月のNature Medicineで米国の研究チームによる論文でも立証された。そこで、ウイルス量を減少もしくは不活化させる含嗽や口腔ケアが新型コロナウイルスの感染予防に有効と考え、口腔ケアの重要性を啓蒙する必要性に思い至った。
口腔ケアが要介護高齢者の誤嚥性肺炎を抑制することは以前からよく知られていることであるが、かねてより、薬学部やベンチャー企業と効果的な口腔ケア用品開発に取り組んできた結果、MA︱Tを含んだ口腔ケアジェルを開発することができた。MA︱T(Matching Transformation system®)とは要時生成型亜塩素酸イオン水溶液で、菌やウイルスを不活化する活性種を必要な時に必要な量だけ生成するという性質を持ち、15年に大阪大学で水性ラジカル生成機構が解明されている。
MA︱Tは、酸化力を高めていくことで、口腔ケアジェルのような消毒液以外にも食品添加物や抗がん剤等の医薬品、メタノール等の燃料などに変化していくという大きな可能性を持ち、今後さらなる研究が期待される物質である。
このMA︱Tは他の消毒剤と比較しても優れた性質を持つのと広範な細菌に効果を示す(図)のに加え、20年5月にはSARS-CoV-2を不活化できることも明らかになった。
また、舌苔やバイオフィルムへの浸透性が高く口腔内の汚れが取れやすい、無味・無臭・無刺激等、優れた口腔ケアジェルといえる。周術期や介護の口腔ケアだけでなくカンジダの影響を受けやすいドライマウス患者のケアにも有用である。
また、MA︱Tを使ったマウスウォッシュが、新型コロナウイルスの感染対策になりうる可能性についても、今後の検証に期待するものである。
MA︱Tに関しては、日本MA︱T工業会のホームページを参照いただきたい。
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講演当日、阪井教授は出張のためビデオでの講演だったため、質問に後日回答いただいた。
問)広範囲の細菌やウイルスに対する効果を持つ薬剤を頻回に使用し、それが長期間続くことにより口腔内常在菌叢のバランスが崩れる心配はないのか。
答)MA︱Tは口腔内全体に広く効果を示すが、MA︱T作用後ほぼ30分から1時間で常在菌は元の状態に戻るので、問題はない。アルコールが広く消毒に使われるのと同様のイメージで考えてほしい。
(理事 横堀育子)