日本のジェンダー平等の現状と課題を考える 夏季セミナー講座

東京大学大学院教育学研究科教授
本田 由紀

保団連夏季セミナー・講座3
講演の冒頭に本田由紀氏は、日本社会でコロナ禍が女性に与えた影響を紹介した。
男女共同参画局の研究会報告書によれば、2020年4月には非正規雇用労働者の女性就業者数の減少は男性の約2倍の70万人に及び、10月には女性の自殺者数が、前年同月と比べ8割の増加率となった。さらにエッセンシャルワーカーには女性が多く、コロナ禍で厳しい就労環境に陥った。テレワークの増加による家事、育児の負担増も指摘されている。
本田氏はこの背景には、長期安定雇用と年功賃金を基盤とする戦後日本型循環モデルの中で、性別役割分業が確立したことがあると述べた。さらにこのモデルが破綻した90年代以降も、性別役割分業からは脱却しないまま、女性を非正規などの補助的な労働力として使い続けていると指摘。結果、女性が「仕事も家庭も」担っているのが今の日本社会であるとした。
続いて日本のジェンダー不平等の現状が、国際的なデータを用いて紹介された。2021年のジェンダーギャップ指数は156カ国中120位(22年は146カ国中116位)、女性議員の数、管理職の女性比率、女性医師の割合はOECD諸国で最下位、男女間の賃金格差はOECD諸国で3番目に大きい。さらに男性の無償労働時間(家事、育児等)は先進国で最も少ないが、同時に男性が家事をしないことを女性が不公平と感じていない割合も大きい。
不平等の構造が意識を形成
また本田氏は、ジェンダー問題を考えるには、人々の無意識の部分が重要と述べ、アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)、マイクロアグレッション(無意識に行われる重大な差別)、適応的選考形成(奴隷の幸福)、トクシック・マスキュリニティ(有害な男らしさ)などの概念の理解の必要性を強調した。
日常生活に降り注ぐ「男だから」「女だから」といった言葉が、個々人の進路選択を狭め、男女の賃金格差につながっていると指摘。女性が専業主婦を希望することを否定するものではないが、こうしたミクロの感覚は、ジェンダー不平等の構造から生み出されるものでもあることに注意すべきとした。そして、このことにより女性の可能性が発揮されないことは、日本社会の発展を阻害すると懸念を示した。
最後に、誰もがそれぞれに尊重され、能力を発揮することができ、安心して生きてゆける社会を目指すべきと強調した。
(副会長 斉藤みち子)