オンライン資格確認義務化撤回 医療現場からの声

「導入しない」が最良の策
東京協会 吉田 章

 オンライン資格確認の原則義務化に対して、必要性を感じない、カードの紛失漏洩が心配、セキュリティ対策が不安、費用が高額などの声が寄せられている。原則義務化に反対する会員の声を紹介する。

 

厚労省は9月5日、2023年4月からオンライン資格確認システムの導入を保険医療機関に義務付ける療養担当規則の改正省令を公示した。政府の狙いはオンライン資格確認システムを利用し、医療機関の電子カルテから情報を収集して巨大な「全国医療情報プラットフォーム」を作り、患者の医療情報を営利目的で利活用することにある。この政策は医療上の必要性よりも、経済財政的な必要性から推進されている。
オンライン資格確認システムの導入義務化を療養担当規則に載せること自体からして暴挙であり、意に反して従うことはないと考える。
しかし、療養担当規則が改定された以上、導入しなければ当局の出方によっては保険診療を続けられなくなる事態も考えられる。
現在我々が取れる最良の策は何であろうか。
中医協答申には次の付帯意見が付いている。「令和4年末頃の導入の状況について点検を行い、地域医療に支障を生じる等、やむを得ない場合の必要な対応について、その期限も含め、検討を行うこと」。
導入していない医療機関の割合が多ければ多いほど、保険診療が制限された場合、地域医療に支障が出かねないので期限も含め検討する、すなわち、22年末頃の導入状況によっては実施の見送りもありうるということである。
オンライン資格確認は解決すべき多くの問題を抱えている。このままでは全国民のいのちと健康に重大な影響を及ぼしかねず、十分な時間をかけた幅広い検討が必要である。拙速な導入は我が国100年の計を誤りかねない。問題点が解決するまでは、オンライン資格確認システムは導入をせず、いままでの保険証での確認を続けることが最良の策と考えられる。

「保険証の廃止許さない」国民運動を

現在我が国では国民のマイナンバーカード取得は任意である。しかし、保険証が廃止され、医療機関を受診する際、カードが必須となれば持たざるをえず、カード取得の事実上強制になる。政府は「骨太の方針2022」において、24年度中に保険証発行の選択制を導入し、保険証の原則廃止を明記している。
マイナンバーカードを持ちたくない国民も多い。これらの方々のカード取得強制に我々医療機関が結果的に加担してしまうことにもなりかねない。患者に保険証での受診を呼び掛けると共に、「保険証の廃止を許さない」国民運動を盛り上げていきたい。

トラブルの火種 募る不安
神奈川協会 飯田 啓

“安心・安全で質の高い医療”に本当につながるのか。国民・患者・医療者の幸福につながるのか。当院は「オンライン資格確認はメリットよりリスクが大きい」と判断し、導入を見送ってきた。
オンライン資格確認とは患者の医療情報を危険に晒すこと。そして不安と緊張を強いられるようになることだと思う。院内の機器はネット環境から完全に遮断してきた当院だが、導入すれば常時接続となる。つまりサイバー攻撃のリスクが増える。情報漏洩で困るのは患者で責任を負うのは院長。神経質になるのは当然だ。マイナンバーカード紛失やあらぬ誤解も懸念しており、「始めたくない」との意向に賛意を示す高齢患者は多い。

サイバー対策の負担も

その上、費用を支出するのは院長。我々はサイバーセキュリティのプロではない。患者情報を“人質”に営業活動をされれば業者を信じるしかない。そのため実は不要なセキュリティ更新料などを吊り上げられても気付けないかもしれない。
メリットとされる薬剤・特定健診情報の閲覧はお薬手帳で十分だ。むしろ待合室の機器が情報閲覧を求めたら診療の機微を損ない、かえって警戒されかねない。資格喪失のレセプト返戻は僅かで、そもそも保険証回収は事業主の責務。医療機関を巻き込まずに国と企業が対策を講じるべきだろう。
いま困っていない。にもかかわらず患者を不安にさせるトラブルの火種を押し付けられ、嫌々始めたのに費用は負担させられ、責任は負わされる。癪だ。いっそ診療を辞めようか。けれどもまだ64歳で、診療は生き甲斐だ。続けたい。しかし……。そんな堂々巡りに陥って、最近寝付けないでいる。原則義務化ではなく、今までどおりでいる権利を認めてほしい。

不要なシステム 低調が当然
山形協会 山田修久

 8月10日中医協で9割超の医療機関にオンライン資格確認の原則義務化が答申されたが、9月6日現在で山形県内の運用は病院45件、67・2%、医科診療所183件、25・2%、歯科診療所は136件、27・3%にとどまる。感染拡大が続く中、発熱外来やワクチン接種に大忙しの中でオンライン資格確認に対応している余裕はない。ほとんどメリットがない診療所での普及率は低調だが、あと半年足らずで紙レセプト以外の医療機関で運用開始するのは不可能に近い。
高齢者が多く保険証で十分
患者さんからすれば、マイナンバーカード自体縁遠く、まして高齢者の多い山形県では関心自体薄いのだろう。情報さえ知らない人が多いのではないか。その上、これまでの保険証もそのまま使えるのだから、面倒なことはしたくないのは当然だろう。10月からオンライン資格確認の体制を整備した医療機関に受診すると、被保険者証を使用しようが、マイナ保険証を使おうがいずれも負担増となる。なくすと大変だからカードは大事に家に保管しておけと言われた患者からすると、医療機関へ受診のたびにマイナンバーカードを持参する行為自体気が引けるのは当然である。
医療機関にしてみれば、カードリーダー購入だけに助成をつけられても、それだけでは済まない。レセコンや電カルに保険証情報を読み込ませたり、情報を入手させたりするには多額の費用を要し、昨今のサイバーセキュリティ対策にかなりの費用をかけなくてはならないのでは、二の足を踏むのは当然だ。それにしても、厚労省はマイナンバーカードを普及させたい人たちの使い走りをしたくないのかもしれないが、閣議決定の一声で、原則義務化を決めたのは何故なのか疑問は尽きない。