徴税強化狙いのインボイス

中小事業者が苦境に

 保団連理事会は8月7日、顧問税理士の平石共子氏(写真)を講師に、2023年10月から実施が狙われている消費税のインボイス制度の学習会を行った。平石氏はインボイス制度の概要や狙い、影響について解説。現在の免税事業者や簡易課税対象者への徴税強化が狙われていると指摘した。講演の要旨を紹介する。

仕入税額控除に必要

インボイスは、正式には「適格請求書等」のことをいう。「等」には領収書、納品書、レシートなどが含まれる。請求書等を発行する事業者の登録番号や、適用税率、税額など、法定6項目を記載した請求書等が「適格請求書等」である。この「適格請求書等」(以下「インボイス」)の保存が、消費税の仕入税額控除の要件となるということが、インボイス制度のポイントだ。
では、仕入税額控除とは何か。消費税は、事業者がモノやサービス提供の対価として受け取った売上に課税する。ただし、事業者は仕入れ(経費支出含む)を行っており、その際に消費税分を支出している。そのため、事業者が納税する消費税の額は、「売り上げにかかる消費税額(課税売上高×10%)」から、「仕入れにかかる消費税額(課税仕入高×10%)」を控除して計算する。これが仕入税額控除である。

免税事業者は発行できず

インボイス制度が実施されると、仕入税額控除を行うためにインボイスを保存しておかなければならない。取引相手にはインボイスの発行を求めることになる。
発行を求められた相手方はどうしたらいいか。
消費税の課税事業者で、申告納税している事業者は、インボイスの発行義務がある。納税地の所轄税務署長に発行事業者となるための登録を申請し、発行された登録番号を請求書等に記載すればよい。
免税事業者は、インボイスを発行する法的な義務はないが、登録申請をして適格請求書発行事業者となり、インボイスを発行することは可能だ。ただし、登録を受けることができるのは課税事業者に限られているため、免税事業者のままで登録を申請することはできない。言い方を変えれば、免税事業者がインボイスを発行しようとすれば、課税事業者となって、申告納税をしなければならないということである。
このことが免税事業者、つまり課税売上高1000万円以下の中小の事業者を苦境に立たせている。
2023年10月のインボイス制度実施を前に、免税事業者の取り得る選択肢は3つと言われている。①インボイスの発行事業者=課税事業者となって消費税を納税する。②免税事業者のままで取引を継続する。③消費税分を値引きして取引を継続する。ただし、②の選択をした場合は、そのままでは取引を打ち切られる可能性がある。

簡易課税の縮小も

なぜインボイス制度を導入するのか。
「複数税率のもとで適正な課税を行うため」というのが財務省の説明だ。しかし、実務の現場で、今のやり方(区分記載請求書等保存方式)で消費税の申告に支障があるという話は出ていない。インボイス制度が導入されても、今と異なるのは「登録番号」の記載の有無にすぎない。
むしろインボイス制度の真の狙いは、消費税の仕組みを厳しくし、免税事業者への課税を強化することにあるといってよい。仕入税額控除の要件を厳しくして、免税事業者の余地を許さない状況を作り、消費税の徴税強化を図ろうとするものだ。
簡易課税制度への影響もある。簡易課税制度は実額ではなく、「見なし仕入れ率」での仕入税額控除を認める制度だ。売上高が5000万円以下の事業者に認められている。消費税納税義務者の4割(約120万社)が簡易課税を選択していると言われている。簡易課税の適用を受けるとインボイスを保存する必要はない。フランスではインボイス制度の障害になるという理由で簡易課税制度は廃止され、ドイツでも大幅に縮小された。日本でもその方向に進むのではないかが危惧される。

物価上昇など暮らしにも影響

インボイス制度導入は、消費税のトータルの納税額を増やす。免税事業者が課税事業者になることで消費税納税義務が生じるし、免税事業者のままでいればその取引相手が仕入税額を控除できないからだ。このことがモノやサービスの価格に反映し、物価が上がる。国民の暮らしや経済への影響も大きい。
インボイス制度の内容とその狙いは、まだ十分に国民に知られているとはいえない。与党議員の中にも私たちが開く集会や学習会に来て、問題点を初めて知るような議員も多い。
インボイス制度の実施は来年の10月からであり、今からでも中止させることは可能だ。12月には政府・与党の税制改正大綱が出される。ここを視野に入れて、あらゆる業種の方々とともに、広く問題点を知らせていきたい。ぜひご理解とご協力をいただきたい。