電子処方箋の導入は慎重に

電子処方箋の導入は慎重に

医師の事務負担増える 来年1月に運用開始予定

 2023年1月から電子処方箋の運用が開始される。重複投薬がチェックできるなどメリットがうたわれる一方で、処方箋の発行形態の確認、処方内容のサーバー登録など事務負担が増加する。システム導入は任意であり慎重な検討が必要だ。

医療機関での導入は任意

電子処方箋は2023年1月から運用開始予定だが、導入はあくまで医療機関の任意(自由)である。電子処方箋は、オンライン資格確認の整備が前提となるが、仮にオン資整備が自院に義務付けられた場合であっても、電子処方箋の導入は義務ではなく任意であることに注意が必要だ。
現在、政府は25年3月にオンライン資格確認を整備した概ね全ての医療機関等で電子処方箋導入を目指すとしている。ベンダーから補助金(22年度に導入完了した診療所は上限19・4万円)とセットで電子処方箋導入が勧誘されることが予想され、慎重な見極めが必要だ。
電子処方箋は、支払基金が管理する「電子処方箋管理サービス」を通して、医師・歯科医師と薬局・薬剤師間で処方箋をやり取りする仕組みである。同サービスに蓄積された処方内容・調剤結果の提供(閲覧)を通じて、医療機関は、患者への処方に際して重複投薬・併用禁忌をチェックするサービスを受けられるとメリットをうたうが、導入・運用に伴う懸念・課題も多い。

HPKI使い登録

電子処方箋の実装はオンライン資格確認導入が前提であり、システムトラブルの不安に加え、自院にマイナンバーカードが持ち込まれる環境をつくることになる。電子処方箋を導入した場合、顔認証付きカードリーダー上のタッチパネルに「処方箋の発行方法」が追加される。患者はマイナンバーカードで受診した場合、「電子処方箋」か「紙の処方箋」のいずれかを選択する。いずれにしても、医師等は同サービスが提供する重複投薬などのチェックを行い処方内容を確定する。
電子処方箋が選択された場合、医師等は三師会が発行するHPKIカードを専用の読取用カードリーダーに読み取らせて、同サービスにアクセスし、処方内容を登録する。登録した処方データが電子処方箋となり、合わせて同サービスから発行された引換番号(6桁)を患者に渡す。患者は電子処方箋に対応した薬局に調剤を依頼する。薬局は同サービスに登録された電子処方箋を取り込み、重複投薬などのチェックや疑義照会などを行い調剤し、調剤結果を同サービスに登録する。

全ての処方箋の登録が必要

電子処方箋を利用するには、HPKIカード取得(日医非会員は発行手数料5500円)と専用の読み取りリーダーの購入・設定が必要となる。HPKIカード取得には3~4カ月を要し得る。
電子処方箋は、患者が保険証で受診した場合も利用できる運用とされている。保険証で受診した患者について、医療機関では処方箋の発行方法について、電子・紙のいずれかを確認することが必要となる。口頭・問診票・再来受付機、診察時など医療機関で定めた方法で良いが、事務負担などが加わる形となる。マイナンバーカード受診でのリーダー操作時の患者からの問い合わせに加え、職員が説明に追われる事態が懸念される。
また、電子処方箋を導入した医療機関では、医師等は紙の処方箋を出した場合も同サービスに登録する(HPKI認証は不要)ことが必要である。事実上、全ての処方箋の登録が必要となる。

紙の控え交付、患者に説明必要

引換番号のみでは処方内容が分からないため、当面、医療機関では、引換番号に加えて処方内容を記載した紙媒体の「処方内容(控え)」を患者に渡す。患者が希望すれば、メールやファクスなど紙以外の媒体でも良いとしているが、実際上、ペーパーレスにはならない形だ。電子処方箋を登録後、患者から紙の処方箋への変更を希望された場合、取消処理をした上で、紙の処方箋を発行する(逆も同様)。

未対応の薬局では調剤できず

処方内容(控え)は原本ではなく、あくまで「控え」であり、電子処方箋に対応していない薬局に「控え」が持ち込まれた場合、調剤できない。患者は、電子処方箋に対応した薬局で調剤を受けるか、調剤を諦めるか、医療機関に「紙の処方箋」を発行してもらうかとなる。診察終了間際や休憩時間帯などに患者が紙の処方箋の発行を求め戻ってきた場合、トラブルになりかねない。そのため、医療機関では、厚労省が配布するポスター(電子処方箋に対応した薬局へのリンク掲載)を掲示するとともに、患者に対して電子処方箋対応の薬局に行く必要性や機器トラブル等で同サービスが機能しない場合、紙の処方箋に切り替える必要が出てくることなどを説明することが求められる。二重調剤など不正利用を防ぐとして、同サービスの停止や災害時などでも「控え」のみに基づく調剤は認められず、紙の処方箋の発行が求められる。

慎重な検討が必要

重複投薬などのチェックにしても、電子処方箋が普及しない段階ではチェックは十分に機能せず、患者への聞き取りを通じた処方薬把握が必要である。電子処方箋は院外処方が対象であり、当面、院内処方や退院時処方、リフィル処方箋、分割調剤(医師の指示)は対象外である。自院における電子処方箋導入についてメリット・デメリットを精査し、他医療機関での運用状況も注視しつつ、慎重に検討する必要がある。