埼玉県が複数人訪問
診療経費など補助へ
在宅医射殺事件から1年
埼玉県ふじみ野市で在宅医が患者の家族に射殺された事件から1年。埼玉県では、複数人での訪問経費や、通話録音装置購入費の補助など、独自の在宅医療・介護従事者の安全確保対策に取り組み始めた。これまでに、訪問介護の複数人訪問経費補助については兵庫県などで先行事例があるが、埼玉県では訪問診療も対象とする方向で調整が進んでいる。
「包丁で威圧」「監禁された」
事件は昨年1月27日、80代の母親が死亡した翌日に、60代息子の求めに応じて弔問した医師が至近距離から散弾銃で撃たれた。これを受けて埼玉県が行ったアンケートでは、在宅医療・介護に携わる医師・看護師ら665人のうち、半数以上の337人が患者や家族から暴力・脅迫などを受けたという。中には「包丁をもって威圧された」「玄関に鍵をかけられ監禁された」といったケースもあり、11・3%が「生命の危険を感じたことがある」と回答している。
埼玉協会の会員への聞き取りでは、「医師は1人で回ることが多い」といった現状や、看護師が1人で訪問する場合にセクハラやパワハラを受けているため、男性事務職員が同行するなどして対応している事例が複数報告された。
診療報酬加算額の9割を補助
同県は9月補正予算で在宅医療・介護従事者の安全確保対策事業費として約2億円を盛り込んだが、調整に難航していた。同協会は11月、県に対し、事業の早期開始と次年度以降の継続、歯科の複数人訪問を対象に含めるよう求めたほか、訪問する職種を問わず複数人の訪問時に適用するよう要請した。
同事業では、複数人での訪問について、患者の同意が得られない等の理由で診療・介護報酬の対象にならない場合に、報酬加算相当額の10分の9が支給される。訪問介護・看護については事前申請が必要で1月からスタート。原則として介護報酬の加算を算定できる訪問看護師・介護員が対象だが、やむを得ないと認められる場合は職種を問わない。訪問診療についてはこれに準ずる形で11月分以降を対象に、1月中には申請受付を開始する計画という。
また、在宅医療を担う医療機関(歯科を含む)に通話録音装置の購入費等が補助されるほか、県在宅医療暴力・ハラスメント相談センターが設置され、患者・家族への対応方法や警察への通報などについて相談を受け付けている。