【声明】健康保険証廃止法案の廃案を強く求める ~医療情報誤登録はじめトラブルの全容解明こそ~

    2023年5月23日

全国保険医団体連合会

会長 住江憲勇

 

健康保険証廃止法案の廃案を強く求める

~医療情報誤登録はじめトラブルの全容解明こそ~

 

国会審議中の健康保険証廃止を含むマイナンバー制度関連法案をめぐり、制度の根幹を揺るがす事態が発生している。コンビニでの証明書交付サービスにおける他人の住民票の誤発行や印鑑登録証明書での古い証明書の誤交付、公金受取口座の誤登録に加え、他人の医療情報を誤って開示するなどシステムの根幹を揺るがす事態が続々と明らかになっている。事態の全容解明がされないままの法案採決などもってのほかであり、本会はマイナンバー制度関連法案は廃案とするよう強く求めるものである。

 

重大医療事故にも直結、機微情報の漏洩リスク顕在化

 

他人の医療情報の誤登録に関わっては、国会審議では、医療機関を受診した際、表示された投薬履歴(別人の処方歴)などに疑問を覚えた薬剤師が患者に再三確認して取り違えの発覚に至ったと指摘されている。投薬・治療情報の取り違えは、疾病の急性増悪、アナフィラキシーはじめ重大な医療事故につながりかねない問題である。誤登録の解消が見込まれない限り、マイナ保険証の受診の都度、医療現場にストレス・負担も重なることとなる。

また、今回の問題は、マイナポータルを確認すれば、他人(例えば同性・同名・同年齢などから特定も可能)の健康・医療情報が閲覧可能な上、データの外部流出も可能な状況にあったということである。現に兵庫県職員共済組合では、マイナポータルを確認した際、自身のものでない健康保険証情報が表示されたことを契機に、誤登録が発覚している。機微性が高い個人情報が丸ごと外部流出する危険にさらされる事態であり、絶対にあってはならない問題である。

 

 

点検結果出るまで医療情報閲覧の中止を

 

厚労省は、今回の誤登録データについて、協会けんぽを中心に7,279件(2021年12月~2022年11月末)と報告しているが、2021年以前や23年以降に至る期間は不明であるが、事実上、保険者の自主的チェックに委ねており、全容は不明瞭である。今回の誤登録データの状況にしても2月に関係審議会に報告されていたにもかかわらず、その間、全容解明に向けて実効的な対応策を取ってこなかったこと自体が怠慢であるとのそしりは免れない。各種メディアで報道が相次ぐ中、「読売新聞」も社説(5月18日)にて、「あえて(保険証を)廃止する意味があるのか。トラブルが続出している以上、政府は一度立ち止まって考えることも必要ではないか」と警鐘を鳴らしている。

結局、国会審議を受けて、加藤勝信厚労大臣は23日、全国の健康保険組合(約3400)などに登録データを点検し、7月末までに結果を報告するよう求めるとしている。8月以降に結果を公表する方針とされるが、そうであれば、今国会での法案採決はありえないというべきである。少なくとも、全ての保険者で全件点検が実施されるとともに、一旦、医療情報閲覧(マイナポータル含め)の運用も中止すべきである。誤登録による医療事故が発生してからでは遅いのである。

 

オン資で「無効」返信のエラー常態化、保険証廃止で「10割負担」

 

同様にオンライン資格確認をめぐっては、2022年時と同様に、「明らかに有効な保険証が『無効』と返信される」などシステムトラブルが医療機関の半数以上で常態化している。報道ステーション(TV朝日、5月22日)では、埼玉・大阪・福岡など9都府県で805件と各保険医協会が実施した調査を紹介している。データ更新遅れなどの人的ミスやシステム的な問題でトラブルが多発しているが、調査結果は氷山の一角であり、マイナ保険証の利用が増えるにつれて事態が更に悪化することは明らかである。現在は、持参している健康保険証の記載情報を優先して確認する運用が認められているが、健康保険証券面の廃止となれば、一旦は「無保険」扱いとなり10割負担を取る形となる。患者との間で深刻なトラブルとなり、全国の医療機関で診療が停滞・中断する事態に発展しかねない。

 

与党からも資格確認書の申請運用は再考の声

 

更に、健康保険証の廃止をめぐり、地方創生・デジタル特別委員会(参議院、5月17日)の参考人質疑では、本会副会長の竹田智雄、障害者団体代表の家平悟氏から「本人の申請に基づく資格確認書は無保険扱いとなる人の発生が避けられない。保険者に交付義務のある健康保険証を存続してほしい」との要望が出された。与党参考人(石井夏生利・中央大学教授)からも「資格確認書の申請主義を改める手当てができないか」といった発言が出るなど、参考人全員が「現物給付を保障するため、少なくとも『資格確認書』は交付運用とすべき」と求めている。参考人質疑を受けて、19日の同委員会質疑でも、与党議員からも「当面、資格確認書は自動交付してはどうか」との声も出ている。言うまでもなく、これまで同様に、健康保険証を存続し、全ての被保険者に交付すれば済むものである。地域で独居高齢者、軽度含め認知障害を罹患する人が大幅に増加することが見込まれる中、健康保険証を廃止して、本人の申請に委ねるなど医療からの切り捨て以外の何物でもない。

 

トラブル事態の全容解明こそ

 

誤った他人の医療情報の開示、「無保険」扱いの大量発生など安全・安心な医療への信頼を根底から揺るがし、公的医療保険制度を崩壊させかねない問題が明らかになりつつある。患者・国民、医療現場からの危惧・不安が渦巻く中、国会の場(現状は会期末6月21日)において、マイナ保険証をめぐる一連のトラブルの全容解明など審議が真摯に尽くされるべきである。欠陥だらけのマイナ保険証が明らかになる中、本会は健康保険証廃止を含むマイナンバー制度関連法案について徹底審議の上、改めて廃案とするよう強く求めるものである。