加藤勝信厚労大臣は、6月20日の記者会見で10割負担問題について「医療機関において一定の事務負担はお願いするが経済的な負担は発生しないという方向で検討していく。具体的なスキームは基本的考え方に沿って現在医療関係者等と調整中」とし、6月中に具体的な方法を明確にし、関係者に周知していくこととしました。
具体的な枠組み
▽有効な保険証が発行されていることを前提に医療機関等において本人情報を確認し患者自己負担分を受領する
▽レセプト請求(保険医療機関の診療報酬の請求)は「旧保険者のデータでも請求可能な仕組みも活用し実際の請求に支障が生じない仕組みを検討する
マイナカードだけでは被保険者番号、所属保険組合が確認できない -新たな実務負担を懸念
現在、マイナ保険証「無効」等のトラブル/エラーが多発しています。その多くは患者さんの多くは健康保険証を持参されていたため、10割負担という重大なトラブルに発展せずに事なきを得ているのが現状です。その場合でも、医療機関のスタッフが提示された健康保険証に記載された情報(所属保険組合、被保険者番号)などで保険組合などに確認する作業・手間が生じています。
夕方の診療や土日診療の場合は、保険組合への確認が困難となるため、一旦10割負担が発生しやすくなり患者さんとのトラブルが発生するリスクが増加します。
複雑で煩雑、かつミスを発生しやすいシステム障害時モードでの対応を医療機関に強いるのではなく、健康保険証の持参してもらい資格確認する従来の方法が一番合理的です。。
オンライン検索で1億2千万人から唯一の被保険者番号を検索できるか?
厚労省のスキームは、マイナ保険証「無効」となった場合、医療機関に①マイナンバーカードに記載した4情報(氏名・住所・生年月日・性別)を記録させる②事後的に当該患者が所属する保険組合や被保険者番号など保険請求に必要な情報を確認させる③その情報を元に保険請求を行わせるというものです。
通常であれば、オンライン資格確認の検索画面上で11桁の被保険者番号を入力すると当該の被保険者情報が返されます。
ところが、被保険者番号が分らないと途端に困難が伴います。
※医療保険の情報が他人の情報に紐づけられていた「誤登録問題」の発生要因と同じ作業を強いられます。マイナンバー誤紐づけ問題は、各保険組合が被保険者のマイナンバーを紐づける際にマイナンバーの記載がないため、J-LIS(地方公共団体情報システム機構)に4情報で照会を掛ける作業工程でミスが生じました。
厚労省スキームでは、オンライン資格確認(システム障害モード)では、4情報(氏名・性別・生年月日・住所)で検索をかけて完全に一致させて被保険者番号を特定させることが想定されています。
しかし、マイナンバーカードの券面に表記された漢字氏名は住民票氏名(いわゆる外字を含む)です。例えば、「斉藤」さん49種類あります。
住所も住民票住所となります。河野太郎デジタル大臣も日本の住所表記の揺らぎによるデジタル化の問題点を指摘されています。うまく検索・一致されるのでしょうか?
住所もヤバければ、名前もヤバい、マイナカード問題の難しさ|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト (newsweekjapan.jp)
恐らく障害モードによる画面検索では外字は対応していないことが推定されます(確認中)。従って、カナ氏名での検索が求められますが、カナ氏名だと同姓同名の候補者が多く検索されてしまい、別人で請求してしまうかもしれません。
さらに、システム障害時モードマニュアルでは、検索で候補が5つ以上出た場合は表記されません(情報が返されない)。
保険者によっては住民票住所ではなく通信先住所等で管理しているところも珍しくなく、マイナンバーカードの4情報を忠実に入力しても完全に一致しないケースも多く存在します。
従って、住所等の情報を「□□県◎◎市町村」とか部分的に検索をかけて一致する検索を繰り返すことで、候補が絞り込まれます。
1億2千万人の被保険者から4情報で検索をかけて唯一の被保険者番号を探し当てることは、相当な実務負担となり、別人で請求してしまうリスクも負うことになります。
そんな作業を全国の医療機関スタッフに強いるのでしょうか?
無保険でも受診できる仕組み
マイナカードは住民票を有していれば誰でも無料で作成できます。仮に無保険の方でもマイナカードを作成すれば保険診療が受けられることとなります。患者から3割分の一部負担金を徴収できたとしても、医療機関において7割分は未収金となり、重大な経営リスクを抱えることとなります。
医療機関も支払機関(保険者)も煩雑な対応
厚労省スキームでは、現行の「振替調整」を活用としています。これは資格が有効でない保険者に保険医療機関がレセプト請求(保険請求)をした場合に、審査支払機関(保険者間)で真に有効な保険者を確認して、レセプト請求を振り替えてもらう仕組みを活用するものです。しかし、保険医療機関が支払基金にレセプト請求を提出しないと実務上な対応も困難を極めます。
特別な対応を行うのかかなり無理筋です。現在判明しているトラブルの6割強がマイナ保険証「無効」と件数が非常に多く報告されています。非常時の対応を日常的・継続的な対応として行うことが保険医療機関、審査支払機関、各保険組合にも相当な負担を課すこととなります。
追加的な実務負担・経済的負担は必至
加藤厚労大臣は、「追加的経済的負担」はないと言いますが、有効な保険資格確認を確定するために保険医療機関において「追加的実務負担」は伴います。新たなスキームでも限られた情報で保険の資格確認を行う必要があり、実務負担とともに職員の精神的負担・人件費負担となることは間違いありません。「追加的経済的負担はない」は医療現場の実情を顧みない対応と言わざるを得ません。
現行の健康保険証を患者さんに持参いただき、医療機関窓口で目視確認すれば一瞬で解決します。保険請求上も実務負担も未収金も生じません。厚労省は、医療機関に新たな実務負担・経済的負担を生じさせる新たなスキームでの対応ではなく、マイナ保険証の運用を直ちに停止し、「健康保険証を持参ください」と患者・国民に広報することを強く求めていきます。
加藤厚労大臣 6月20日記者会見の質問と答弁
Q(記者):レセプト請求については「旧保険者のデータでも請求可能な仕組みも活用し、実際の請求に支障が生じない仕組みを検討」としているが、例えば医療機関に初診で受診した場合は旧保険者のデータ等はないがその場合はどういった扱いになるか
A(加藤大臣):
- 患者のマイナンバーカードの氏名など必要な情報を医療機関で控える
- 患者本人が保険に加入していないと答えれば10割負担となる
- 患者本人が保険に加入していると答えれば、それを前提に3割負担なり2割1割その方の保険に則って負担いただき、残りを請求する。
請求時は、マイナンバーカードのオンライン資格確認ではそのまま新しいところまでずっと辿っていってそこに支払機関が医療費の負担を請求する仕組みになっている。保険が切り替わっていなければどうするかは今議論している。
Q(記者):自己申告がベースになる、悪気なく入っている保険者の名前を挙げたとしてもそれが正確ではなかった場合どうするか
A(加藤大臣):その場合もありうる。マイナカードの情報で本人確認できる。どこの保険に入っているか、どこの会社に勤めているかなど確認できると仕組みを構築している。
Q(記者):患者さん側の不安の払拭や窓口混乱の解消に繋がるか
A(加藤大臣): 患者さんにも、保険の切り換え時はちょっと注意いただきたい。基本的にはその方が入っている保険に則って処理をされる。医療機関側では本人に健康保険に入っているかどうか確認してほしい。マイナンバーカードの内容についてしっかりと記載してほしい。それ以上の財政的な経済的な負担はかけないよう整理していく。