資格確認書の発行経費 厚労省コスト試算を検証する

資格確認書のコスト試算

厚労省は、8月24日に社会保障審議会医療保険部会を開催し、資格確認書発行に伴うコスト試算を示した。試算は、現行の健康保険証を廃止した場合、被保険者に申請に基づき医療保険者が発行・交付する資格確認書等について、現行の健康保険証の発行・交付の経費と比較してどれくらいの経費が必要となるか示したもの。

保険証発行は必要経費

厚労省は、マイナ保険証と資格確認書を所持割合に応じて2パターンの試算を示しており、医療保険者全体で現行より70億~100億のコストダウンが見込まれると試算している。複数試算の違いは20億程度である。

そもそも、健康保険証は国民皆保険制度の下、所属する保険組合から発行・交付される被保険者としての証明書であり、医療を受診した保険医療機関が審査支払機関に保険請求する際に必要となる保険資格情報が記載されている。1億2千万人が公的医療保険制度を利用する前提となるものであり、公的医療保険制度の必要経費と言える。

2021年度概算医療費は44兆2000億円となる。資格確認書等を発行・交付した場合の厚労省試算に基づく削減額(約100億円)は、医療給付全体のわずか0.023%に過ぎない。

※削減分100億円/44兆2000億円 わずか0.022624%

また、現在の健康保険証の発行経費も235億円であり、医療給付全体だとわずか0.053%に過ぎない。

※235億円/44兆2000億円でわずか0.053167%

健康保険証の発行・交付は万一のケガや病気の際にもいつでもどこでも医療が受けられる大前提となる経費であり、保険証廃止で経費削減になったとしても医療給付が滞る事態を招くことは本末転倒である。

 

国民一人当たり経費額 システム・人件費は含まず

 

厚労省が試算した資格確認書の経費(=健康保険証の経費)は、国保、後期高齢の1人あたり年間469円である。

※印刷代64円+84円+320円=469円

 

国民一人当たりの医療費総額に占める割合ではわずかな経費と言える。「資格確認が困難となり、窓口で10割負担を強いられた」など根幹に関わるトラブルを防ぐには保険証存続しかない。医療保険者の運営経費に占める割合も検証が必要である。これまで60年間やってきた健康保険証の発行を止める意味はどこになるのか、デジタル化に繋がるのかをよく検討した方が良い。

試算対象外としているが、マイナ保険証利用でレセプト返戻・過誤減少などによる削減効果を欄外に記載している。しかし、審査支払基金のレセプト振替調整は保険請求に関わる事項であり、現行の保険証廃止とは関連性はない。9割がレセプト振替機能を利用している

 

システム整備や人手配でコスト増

 

さらに、医療保険者側の問題として、マイナ保険証を持っていない人に資格確認書を正確に発行するためには、システム的な管理(人の手当て含む)が必要である。厚労省試算にはこうした必要経費が含まれていない。

申請によらず資格確認書が一括交付されるのは、移行期間中だけとの報道がされている。3年後以降は申請受付方式になると仮定すると申請・受付の手間も踏まえると、被保険者と保険者双方に多大な負担を課すことになる。

 

0.023%削減のために3兆円投入したのか?

 

マイナ保険証を国民に持たせる初期経費だけでポイント事業を中心に2兆円~3兆円、

の税金が投入された。マイナカードの発行コストは1枚800円。電子証明書の利用(200円)を加えると1枚1000円となる。

何よりも申請不要から毎年申請が必要に激変することとなり一番被害を受けるのは、被保険者本人と家族の負担である。利用施設職員の援助や行政の出張申請というサポートでも社会的コストを増大させることになる。

 

被用者保険の試算がなぞ?

 

被用者保険は現行経費が32億ですが試算だと29億から34億と微増・微減である。5年に1度の資格確認書の交付が必要となり、これまで以上に郵送代だけでも経費増となります。現行では被用者保険は有効期限がないので郵送代は不要となるが、なぜ変化がないのか。検証が必要である。