1億6000万件の総点検 11月末までは不可能 

 

厚労省は、医療保険に関するマイナンバーの紐づけ誤り問題を巡り、1億6000万件分の被保険者情報を総点検する方針を示しました。現在、約3400の健康保険組合が被保険者情報を医療保険者向け中間サーバーにマイナンバーを含む被保険者情報を登録しています。サーバーの管理者は社会保険診療報酬支払基金(支払基金)。被保険者総数は約1億2000万人です。しかし、厚労省は、当該被保険者の過去の医療情報等が閲覧可能であることを踏まえて1億6000万人件の総点検を行うと説明しました。つまり、4000万件の有効だが重複した被保険者情報が中間サーバー上に登録されていることになり、かつ閲覧が可能な状態になっていることが分りました。

政府のマイナンバー情報総点検本部は医療保険を含む紐づけ情報の点検・チェックを11月末までに完了させるとの方針を示しています。しかし、今般、厚労省が示した突合作業は住民基本台帳(住民記録)と医療保険の5情報での「不一致」を11月末までに明らかにし、医療保険者、事業所もしくは被保険者にその後の確認作業を丸投げする形となります。現時点で件数が不明なため作業工程や作業労力など数量的なことは不透明なままです。

参考:マイナンバー登録済みデータ(1億6000万件)の謎 住民記録と医療保険はこんなに違う! 

 

J-LIS照会の5情報と医療保険5情報を突合

住基ネットやマイナンバーを統括管理している地方公共団体情報システム機構(J-LIS)に5情報(生年月日、性別、カナ氏名・漢字氏名、住所)の照会を掛けて、抽出したデータと中間サーバー内にある5情報を「突合」します。「突合」は支払基金が対応することになりますが、機械的な「突合」の結果、5情報で不一致があった被保険者情報について、支払基金では確認が困難なので、不一致となった被保険者が所属する健康保険組合や所属事業所に不一致の確認を依頼して最終的には支払基金に確認内容を戻すことが想定されています。必要に応じて被保険者本人に郵送等で確認依頼して本人情報であることを確認する作業も行うとされています。文字通りの総点検と言えますが、膨大な作業量と期間、関係者の労力が必要となります。

医療情報・資格確認の閲覧解除も

厚労省は、被用者保険では、▽住民基本台帳上の情報によることを要件とせず、本人からの届出に基づいて加入者の登録を行っている▽同一人物であっても、住民基本台帳上の情報との不一致が生じる場合があると説明しました。具体的には、▽名前に関する外国籍者の表記方法や外字が含まれるケース▽「住所」データの未登録。居所の登録、マンション・アパート名の表記録等を例示しました。5情報での突合により他人のマイナンバーへの誤登録とまではいかないが、J-LISデータと不一致となることがあるとしました。「不一致」の内容に応じて、▽資格情報や医療情報の閲覧を一時的に停止する▽保険者や事業主において既に確認済のもの、その他、確認可能なものは点検した上で、必要に応じ本人に確認を求める▽本人の情報であることが確認できた場合に、閲覧停止を解除する―との方針を示しました。

閲覧停止の「不一致」とは

①生年月日、性別のどちらかに不一致がある場合には、別人のリスクがあるため、資格情報および医療情報閲覧を停止する

②漢字氏名、カナ氏名の両方に不一致がある場合、表記方法の違いなどが多いことから、念のために、医療情報の閲覧のみ停止する。漢字氏名、カナ氏名のどちらかに不一致がある場合について、住所も不一致であれば、医療情報の閲覧を停止する。住所が一致していれば、閲覧停止はしない。

③住所のみ不一致がある場合は、複数の有効な資格がある場合について、医療情報の閲覧を停止する。

複数の有効な資格がある場合とは

複数の有効な資格がある場合とは。保険者を異動した際、誤登録が起こり、別人の個人番号で紐づけされた事例です。結果として、一つ個人番号に複数の有効な資格が登録され閲覧可能な状態となっています。複数の有効な資格重複がある場合には、医療情報閲覧を停止します。ただし、過去情報の不一致について本人確認を求める作業は保険者の事務負担が大きく、他人に送付するリスク等も存在します。そのため不一致が生じている場合には、医療情報閲覧を停止します。当該被保険者に対しては、マイナポータル上で、住民基本台帳データとの突合を踏まえた作業により、過去の医療情報等が掲載されていない場合があることが周知されます。

総点検の工程・スケジュール

厚労省は、1億6000万件の総点検の工程・スケジュールについて▽支払基金が5情報に基づくJ-LIS照会と中間サーバー上の5情報を突合する作業を行い11月までに完了させる。▽平行して「不一致」内容に基づく、医療情報・資格情報の閲覧を停止する▽平行して作業のやり方の確認等ため、数万人規模の試行的な確認作業を行う―としました。その後、優先度に応じて段階的に保険者、事業主で確認を行った上で、必要に応じて被保険者本人に確認を依頼します。全項目が一致する場合には、2024年5月以降に、資格情報のお知らせ等で通知されます。

11月末までは不可能

本人確認は終了期限の見通しが立たない

○今回示された登録済みデータ(1億6000万件)の全件チェックは、これまで医療保険者の自主的な点検とは異なり、文字通り全件チェックと言えます。

○しかし、マイナンバーの登録・更新を運用し続ける中での点検・チェックとなるため、支払基金がJ-LIS照会して抽出した時点の5情報での突合となりどうしても限界が出てきます。

○支払基金は、今後、登録済みマイナンバーを元に1億6000万件のJ-LIS照会を行い、「突合」作業に入ります。J-LISから情報を抜き出すだけでも1~2カ月かかるとされています。5情報の項目毎の「不一致」の件数がどれくらいの規模になるかは実施しないと不明な部分が多く、「不一致」を割り出し、項目別に整理する作業だけでも膨大な作業量となります。11月末までに作業が終了するのか誰も保障できません。

○所属の保険組合事業所、被保険者が「不一致」事案を本人確認する作業はさらに時間を要します。

24年秋の健康保険証廃止までにすべての作業が完了する見通しは立たないのが実際のところです。

○保険組合・事業所の事務負担と本人から返信等を督促する作業は膨大な事務コストが伴います。費用弁償など具体的なスキームはどうなるのか関係者は不安・懸念ばかりです。

 

 

全件チェックの費用は国負担で 

9月7日の医療保険部会で出された保険組合の意見を紹介します。

佐野雅宏・健康保険組合連合会副会長

登録済みデータのチェックについて、対応スケジュールが示されているが、事務負担ができるだけ軽減されるように、事象に即した合理的な方法で実施を求める。また今回のこの全体チェックは、国主体で実施するものなので、費用についても全額国で負担を求める。関連して、オンライン資格確認等システムまた、マイナンバーと保険証の一体化等については種々のコストがかかるため必要な財政支援が必要。

安藤伸樹・全国健康保険協会理事長

全体のチェックについて。表記揺れによる不一致の発生も考慮すると、確認・作業にかかる保険者の負担は相当なものになると予想される。加入者、事業主との照会を巡るトラブルも多発しかねない。正確かつ効率的な確認作業が行えるよう、我々保険者の声をよく聞きながら、詳細の設計をお願いしたい。なお、前回、資格確認書や資格情報のお知らせ、令和6年秋に予定されている一体化の際の業務移行のあり方等の詳細について、早急に方針の整備や調整を行っていただくようお願いしたが、今回の資料にはそうした点について、特段記載がない。例えば具体化に当たっての前提となる資格確認書の職権交付には、支払基金から保険者に対して、マイナ保険証を保有していない加入者一覧が定期的に共有されることが必要不可欠である。この点が固まらない状況では職権交付に向けたシステム改修を進めることができない。令和6年秋の制度施行に間に合わない可能性もあるため、早急に具体的な方針の提示を求める。