「不安払拭」なら保険証を残して
資格確認書申請なしで交付?
岸田首相は8月4日に記者会見し、マイナ保険証を保有していない人に申請なしで資格確認書を交付すると宣言した。国民の不安払拭につながるか政府の見解を検証する。
岸田文雄首相は、8月4日の記者会見で「マイナ保険証を保有していない人に申請によらず資格確認書を交付する」と宣言し、マイナ保険証を持たない人に対し発行する資格確認書の取り扱いについて▽当分の間、申請によらず交付▽マイナ保険証の利用登録の解除を可能にする▽有効期限を最長1年から最長5年に延長する―と説明した。
改正法上の位置づけは
改正健康保険法等では「被保険者が電子資格確認(マイナ保険証による資格確認)を受けることができない状況にあるとき、被保険者は保険者に資格確認書の交付を求めることができる」としている。あくまで被保険者の申請が必要だ。
一方で、改正法附則15条「職権交付」では、「保険者が必要があると認めた時は、当分の間、職権で被保険者に対して資格確認書を提供することができる」と規定されている。
「申請不要」はいつまでか
附則15条に基づく職権交付は法律上「当分の間」としている。しかし、職権交付がどの範囲を対象にするか、いつまで対応するのかは保険者の判断(裁量)となる。申請によらず資格確認書を交付する特別対応はいつまで有効かについて疑問が残る。
厚労省は「現行の保険証からマイナ保険証への移行期において、円滑な移行を図るため、当分の間」の措置と説明している。
「申請不要」の措置はあくまで移行期だけの対応であり、移行期が終了すれば元の申請主義に戻ることが懸念されている。厚労省も記者会見などで「保険者の職権交付による対応」と説明しており、医療保険者の判断(裁量)で決められる事項となる。
「移行期」は2025年秋まで
政府は、2024年秋の健康保険証を廃止に固執し、25年秋までの1年間は経過措置としている。「移行期」は最大でも25年秋までである。それ以降、更新を迎えた資格確認書は申請が必要となる可能性がある。
政府の責任放棄に等しい
岸田首相は、「不安払拭」を強調している。しかし、そうであれば、政府側の曖昧かつ誤解を招くような説明に留めるのではなく、国会審議や記者会見等で国民に対し、法的根拠に基づく対応を明確に説明すべきだ。
すべての国民は、公的医療保険制度を利用する権利を有している。医療保険制度を円滑・スムーズに運営するためには、健康保険証の発行・交付は欠かせない。いつでもどこでも安心して医療が受けられる状態にすることは国の責任である。何も問題なく機能している健康保険証を廃止して、患者・国民、保険者に新たな負担を課してまで資格確認書を発行することは、政府として責任放棄に等しい。
マイナトラブルが続出し、総点検を実施する中でも、77万件の未登録、窓口負担の相違など新たなマイナトラブルが続出している。岸田政権は保険証廃止方針を撤回し、健康保険証を残す政治決断をすべきだ。