コロナシフト後に 病院存続の危機

青森県弘前市の健生病院では、コロナ補助金の急な減額により病院経営の困難さが増しているという。泉谷雅人事務局長は9月7日、保団連のインタビューに応じ、「このまま物価上昇と人件費増が続けば病院存続の危機になる。早急に診療報酬引き上げとコロナ補助金の継続、引き上げをしてほしい」と訴えた。

コロナ対応終了で深刻化

当院はコロナ患者を引き受けてきたが、コロナ禍の影響で外来を中心に患者が減り、コロナ以外の入院患者の制限も行った。コロナ補助金で何とか黒字にはなっていたが、逆に言えば、補助金なしでは成り立たない経営構造への変換を余儀なくされていたということ。今年5月から補助金が半減され、その通知は3月に出されたが、コロナ患者が入院しているためコロナ病床を通常病床に転換するわけにもいかず、経営構造を元に戻すこともできずに経営は一気に悪化した。
コロナ前、病院改築のために大きな借り入れを行い、返済計画もまとめた。コロナ禍で、患者受診動向や医療供給体制が変わり、コロナ治療にシフトチェンジしたことで経営構造も変わった。そこへ突然の補助金減で、返済目標にまったく届かない状況になってしまった。

病床使用率98%でも赤字

現在は病床使用率98%で運用し、病棟再編に着手するなど、あらゆる手立てを取っている。しかし、とりわけウクライナ戦争の影響もあって物価高騰とエネルギー価格の高騰が大きな負担となっている。現在の診療報酬では使用率98%の運用でも必要な利益まで数億円足りず、この状況が2~3年間続けば資金ショートする深刻な状況だ。全国の多くの病院は、病床削減やマイナ保険証対応など収益減・コスト増となる国の政策で、危機的状況に陥っているところが増えている。

診療報酬は公定価格

原材料費や輸送費が上昇する中、企業は商品価格に転嫁する余地がある。実際に帝国データバンクによれば、2022年に値上げされたのは2万5768品目、23年は7月12日までに分かっているだけで累計3万9品目に上っている。
しかし、医療機関では診療報酬が国で決められており、価格転嫁することはできない。現場の深刻さに見向きもせず、財務省は次回改定に向けて、すでに診療報酬引き上げに「慎重な議論」を求めている。

経営破綻は目の前に

 

ここまで深刻になった要因は、コロナ禍で人手不足が加速する中、補助金で人員確保したことも大きい。5月にコロナ補助金が半減し、9月末には終了が検討されている。しかしコロナ自体は終わっていないため、現段階で人を減らすことができるわけがない。5月から青森県によるコロナ指定病床という位置付けになった。他の病院が指定病床数を一気に減らされる中、当院では積極的に受け入れてきたことが評価され、以前の20床からは半減したが、現在も12床の指定を維持している。これまでの実績が評価されたことはありがたいが、コロナの補助金が半額となり、指定病床も半分程度になってしまったため、収入は実質4分の1まで減らされた形だ。

 

市民は「陸の孤島」に置き去り

患者への療養環境提供のために、病院では水道光熱費や入院給食が欠かせず、病棟の看護職員の人件費も大きい。消費者物価指数は3%以上も上がっており、最低賃金も全国加重平均で1千円に上がったばかりだ。 従業員の生活のために賃上げを実施したが、十分とは言えないだろう。さらなる賃上げに応じたいが、診療報酬が上がらない限り対応できないのが実情だ。 医療事務も外来部門で20人程度を外部委託しているが、委託費の負担が大きい。人件費や水道光熱費に係る部分は入院基本料でまかなっている部分が大きいため、入院基本料などの増額やコロナ特例の点数の延長を求めたい。
病院業界の新聞や学会でも、全国的に「この診療報酬では成り立たない」という声が上がっている。保険医協会や保団連でも声は出ている。
病院団体でも政府に請願書を出すなど、運動を起こす状況になっている。政府・厚労省は人件費や物価水準に見合った診療報酬引き上げと、補助金の継続・引き上げを今すぐにでも行ってほしい。当院がつぶれたら、弘前市住民は「陸の孤島」に置き去りとなってしまう。