【政策解説】薬剤自己負担の見直しを巡る問題について

薬剤自己負担の見直しをめぐる問題について

 

後発品差額負担(参照価格制度)の検討か 日経新聞

「骨太の方針2023」は、「医療保険財政の中で、こうした(創薬)イノベーションを推進するため、長期収載品等の自己負担の在り方の見直し、検討を進める」としている。高薬価維持のため患者負担増を求めるものである。9月27日の社会保障審議会(医療保険部会)には、薬剤定額一部負担、薬剤の種類に応じた自己負担の設定、市販品類似の医薬品の保険給付の在り方の見直し、長期収載品の自己負担の在り方の見直しの4案が提示され検討を進めている。

こうした中、日本経済新聞は10月28日、厚労省は後発薬のある薬の自己負担を引き上げる見通しとなったとして、「薬の値段の1〜3割にあたる患者負担分に後発薬との差額の一部を上乗せする案を軸にする」などと報道した。概ね数円から数百円ほどの負担増になる見通しとして、2024年以降の実施を目指す。後発品の使用促進により「100億円規模の財源を捻出できる可能性」があり、後発品がある薬の負担引き上げであれば、選定療養の仕組みを活用する形で「法改正を伴わずにできると判断した」としている。

 

公的医療保険制度の根幹を崩す「差額負担」

詳細は定かではないが、報道の範囲では、いわゆる先発品と後発品との薬価差を患者負担に上乗せする‟参照価格制度”の一種と言える。薬価差を全額負担する場合、先発品1,500円で後発品500円(参照価格)で1,000円が患者負担増となる。安全・安心な薬物療法の保障に向けて、薬剤自己負担増(以下、参照価格制度を念頭)には多くの問題があり、到底認められるものではない。

①後発品使用を促すというが、医薬品の供給不安が続く中、処方自体が不可能になる本末転倒な事態が強く危惧される。まずもって、現状においてあまりにも非現実的な提案と言わざるを得ない。

②薬剤自己負担増は、国際的にも高い窓口3割負担をさらに引き上げるものであり、患者の支払能力によって治療上必要な薬剤を使うことができない事態を招くものである。治療上、参照価格を上回る価格の薬剤を使わなければならないケースは当然想定され、差額を患者負担に転嫁することは受診制限、治療上の不平等などが起きることになる。

③受診制限に至らなくても、薬剤費が自己負担となる医療費負担を敬遠して、疑似市販薬購入により安易な自己対処を後押ししかねない。間違った臨床判断により、適切な治療が遅れ重症化する事態が強く危惧されるとともに、市販薬では医師・薬剤師による服薬指導が受けられず、薬剤使用に伴う副作用・有害事象等の認識が遅れ、患者が不利益を被ることも懸念される。

④参照価格制度の導入は、改正健保法(2003年)の附則における「7割給付の維持」を形骸化させるに留まらない。「選定療養」活用の検討からも明らかなように、参照価格制度の導入は、実質的に「混合診療」を認める運用であり、わが国の公的医療保険制度の根幹を揺るがすことになる。いずれ将来的にはわが国が原則とする現物給付の否定という事態にもつながりかねない。

⑤さらに、海外の事例では、短期的な薬剤費削減効果はあるが、長期的には削減できていないとも指摘されるなど、政策的合理性そのものも疑わしいものである。