医療法人の25%が赤字―報酬引き下げで約1万医療機関がさらに経営困難に
医療経済実態調査によると医科診療所(医療法人)の損益差額が0円~500万円未満の医療機関が16.9%と最頻区分であることがわかりました。一方で損益差額が0円から500万未満の赤字法人が12.9%、500万円以上の赤字の法人が13.4%と赤字法人だけで医療法人の約25%を占めています。医療法人の施設数約4万のうち1万件が赤字経営を迫られています。財務省の「診療所の経営状況は極めて良好」との主張は全く現実と乖離しています。
医療現場から苦境の訴え相次ぐ
「昨今の物価高、人手不足による人件費の高騰分を価格転嫁出来ないため経営環境が厳しい」「今後医療機器価格も値上がりする。最低賃金を上げるのなら、診療報酬の診察料を大幅に上げるべきです」
「現在の医療の質を守るためには引上げは不可欠です。医療費を抑制しようとする日本政府の姿勢は世界の流れに逆行しています。国民の生命が優先です」「最低賃金が上がる、物価も上がる等、経営的にもますます苦しい状況になりました。このままいけば、人員を減らす必要があり、医療の質の低下を招く現状です」「まずは医療業界の雇用を守って頂き、医療崩壊を防ぎ、国民全員が健康で仕事をして、経済を活性化して欲しいと願います。経済が潤えば、少子化や高齢化も解決していくのではないでしょうか?」-これが地域医療を支える医師・歯科医師から寄せられた声です。
財務省が医科診療所を狙い撃ち ―報酬単価5.5%引き下げを主張
財務省は、財政審「建議」において、医科診療所(医療法人)の事業報告書を基に、コロナ補助金等を含んだ「経常利益率」が2020年度の3.0%から8.8%に伸びているとした上で、全産業やサービス産業(経常利益率3.1~3.4%)と同水準になるよう診療所の報酬単価を5.5%程度引き下げるべきとしています。
コロナ禍で一番収入が落ち込んだ2020年を起点に比べること自体に悪意を感じるが、診療所の経常利益率が伸びたのは、休日夜間返上でコロナ予防接種や発熱外来などに対応してきた結果です。
感染拡大の中、コロナ対応に奮闘した結果、収支が伸びたから削るというのは不条理極まります。
コロナ特例の影響を除けばむしろ経営環境は悪化
しかも、コロナ危機の下、診療本体に関わる医業利益率(2020~22年度の平均)ではコロナ特例の影響を除くと3.3%で中小企業と同水準です(日本医師会、11月22日会見)。
むしろ、コロナ特例が大幅に縮減された一方、物価高騰によるコスト増で経営環境の悪化も見込まれます。診療所の診療報酬引き下げる余地はありません。
狙いは国庫負担削減 ―財政審建議
財政審建議は、診療所の経営利益率を5.5%程度引き下げるべきと主張し、初再診を中心に医科診療所を狙いうちにしています。診療報酬本体の引き下げ、国民の負担軽減や医療従事者の処遇改善も実現できると主張しました。しかし、国民の保険料負担減は年間2,400億円程度(現役世代・労使合計)で現役世代の保険料率で0.1%相当で、年収500万円の人の場合、年2,500円相当(月200円程度)の軽減にすぎません。現役世代の負担軽減を口実とした体のいい国庫負担の削減(約1,200億円)です。
全国一律で定められている診療報酬を引き下げることは地域医療崩壊を招きます。病院・診療所が一体となり地域医療を支えてきました。コロナ禍で疲弊した地域医療を再建させるため、物価高騰、医療従事者の処遇改善を行うためには診療報酬の大幅引き下げは不可避です。