医師数「過去最高」でもOECD平均より13万人少ない

医師多数県」の地域枠切り落とし

厚労省は1月29日、「医師養成課程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」の初会合を開きました。2029年頃に医師数は約36万人で不足が解消する(需給均衡)とした「医師の需給推計」(2022年2月)を前提とした上で、「人口減少に伴い将来的には医師需要が減少局面」になると分析しています。

厚労省は、医学部定員数(上限9,420人)の削減に向けて議論を進める狙いです。検討会では、「少子化に伴い、18歳人口の医学部進学(定員数を2024年度で固定すると仮定)が2020年は約123人に1人に対して、50年には約85人に1人になるとして、養成数増は困難、供給過剰で賃金が低下する」と懸念点を示しています。

2026年度の医学部定員数(臨時定員総数)は春頃までに結論を出し、夏以降、「医学部定員増のペースの見直し」を検討するスケジュールです。26年度の定員数をめぐっては、現在958名ある地域枠数(臨時定員)のうち、東京や石川など16の「医師多数県」における地域枠(191名)の扱いが焦点になります。

「提供体制の非効率・医師の散在」など偏在対策については、2025年の夏頃に「中間とりまとめ」が予定されています。

医師不足の深刻化・悪化が懸念

2025年度からの医学部定員数の削減の議論は、コロナ感染拡大を受けて都道府県から異論が噴出し凍結されています。感染収束を機に厚労省は議論を再開しました。保団連は、OECD平均に比べて低く抑えられてきた医師養成数を段階的に増加させること、診療報酬の引き上げで医師の働き方改革を行うことを要求しています。

医師数「過去最高」でもOECD平均より13万人少ない

日本の医師数(臨床医)は人口1,000人当たり2.4人であり、OECD加盟国(単純平均)の同3.5人に遠く及ばず、OECD諸国(36カ国)のうちワースト5位です(OECDヘルスデータ、2019年実績)。日本の医師総数は34万人(2020年)で過去最大と報道されていますが、OECD加盟国(単純平均)より13万人も少ないのが実態です。西欧諸国では、医師数は増加しており、1,000人当たり3人から4人程度が新たな政策目標になる可能性もある。

医師が多すぎる地域は一つもない

都道府県単位で見ても、OECD平均の同3.5人に達する地域は一つもありません。少なすぎる上で都道府県内の偏在も深刻な状況です。厚労省が策定した「医師偏在指標」は、少ない中で地域でのバラツキがどれくらいあるかを示した相対評価にすぎません。その指標で「医師多数県」とレッテルを張り、数少ない医師増員策である「地域枠」を縮減することは愚策でしかありません。また、厚労省が将来の需要と供給(医師数)のバランスを考える推計である「医師需給推計」についても、指標の全体がおかしな点が多数あります。

例えば、時間外労働を年960時間の過労死ラインまで設定し、医師数を指標化しています。過労死全体の働き方を許容し、医師の健康や医療安全を踏まえないもので時代遅れの推計・指標です。

医師増なしで高齢化・需要増加に対応できない

医師を将来的にも増加させないといけない根拠は高齢化に伴う医療需要の増大にあります。日本の高齢化率(65歳以上人口/総人口)は、現在の29.2%(2023年:3,635万人)から、2040年に34.8%(3,929万人)、2050年には37.1%(3,888万人)へと上昇していきます。高齢化社会を迎え、多疾患を併発し、認知症はじめ要介護度が高く、独居・孤立や低所得など社会的困難も抱える高齢患者が増加していくことは避けられません。在宅医療の拡充に伴いかかりうけ医を増やしていくことは喫緊の課題です。24年4月から医師の働き方改革が本格実施され、医師も例外なく時間外労働の規制が適用されます。2次救急医療など地域医療確保と医師の働き方改善に向けて、将来的にも医師養成数の大幅増員と地域枠の拡充は待ったなしの課題です。