河野太郎デジタル大臣は2月9日記者会見で「マイナカード不具合時に、マイナポータルから保険資格情報PDFをダウンロードできる機能を始めた」と紹介しました。
病院に置くマイナカードの読み取り機が壊れていたり、カードのICチップが破損したりした場合の対応策とのことです。河野大臣は「念のために持ち歩くといったことを含め紙の保険証を持参する必要がなくなる」と説明しました。
新機能についてデジタル庁に照会した内容はこちらをご覧ください。
【#保険証廃止勝手に決めるな】保険資格のPDFダウンロードでマイナトラブルは解消できるか?
2月9日のデジタル大臣記者会見や一連の報道で「スマホに保存可能になることで健康保険証そのものがデジタルデータ(PDF)として活用できるようになった」との誤解からウェブ上で発信されている方もいます。
また、厚労省はトラブル対策としてマイナ保険証を保有している方に対して保険者から「資格情報のお知らせ」を発行するとしています。デジタル庁の新機能は何なのか? 法令上の取り扱い等の説明もなく医療機関でいきなりスマホを見せられても戸惑うだけですので、保団連は、デジタル庁にPDFダウンロードに法令上の取り扱い等を照会しました。
デジタル庁広報部からの回答
Q(保団連):マイナ保険証トラブル回避の方策として、厚労省は、マイナ保険証保有者に資格情報のお知らせを交付するとしています。資格情報のお知らせは健康保険証と同程度の情報が記載されています。デジタル庁のPDFダウンロードは、厚労省が示している資格情報のお知らせとの関係でどのような機能を果たす役割を持たせようとしていますか?
A(デジタル庁):オンライン資格確認の義務化対象外施設を受診する場合や、マイナンバーカードのICチップが故障したり、医療機関のカードリーダーがトラブルになった場合でも、保存したPDFの医療保険の資格情報を、マイナンバーカードとともに提示することで医療機関の受診が可能となります。今後は、このダウンロード機能を活用することで、念のため持ち歩くといった用途も含め、紙の健康保険証を持参する必要がなくなるため、利用を広く呼び掛けております。マイナ保険証は医療DXの基盤となるものです。マイナ保険証に対する不安を払拭し、マイナ保険証を基本とする仕組みに円滑に移行できるよう、関係省庁と連携しながら引き続き環境整備や周知広報を行ってまいります。
Q(保団連):資格情報のお知らせは健保法その他の法令による被保険者の資格情報として今後法令上も位置付けられるようですが、デジタル庁の保険資格情報のPDFダウンロードは法令上どのように位置付けられますか?
A(デジタル庁):健保法、またその他の法令については厚生労働省にお尋ねください。
Q(保団連):厚労省保険局との調整を踏まえて新サービスを提供されていると認識してよろしいでしょうか?その場合の厚労省担当課についてご教授ください。
A(デジタル庁):厚生労働省にお尋ねください。
ICチップが壊れたらマイナポータルにログインすらできない
マイナカードのICチップが壊れたことに気づく場面は医療機関でマイナ保険証を利用するタイミングです。壊れてマイナポータルすらログインできないのに、なぜデジタル庁は「今後は保険証持参は不要」と言い切れるのか理解に苦しみます。また、法令上の取り扱いも含めて広報・周知がなされない中で、マイナトラブルが発生した患者さんが医療機関でスマホを提示されてもどのように取り扱えばよいのか医療現場は戸惑うばかりです。デジタル庁はあらかじめダウンロードしておけと言いますが、最新の被保険者情報とは言えないのでやはり資格確認の書類としても不十分です。デジタル庁はダウンロード機能の広く活用を促しておきながら、法令上の位置づけは何も説明できませんでした。
デジタル庁PDFダウンロードは法令上の確認書類でない(厚労省が回答)
衆議院の宮本徹事務所を通じて厚労省保険局医療介護連携政策課にマイナポータルにおける資格情報提示について照会し以下の回答がありました。
Q(宮本徹事務所):被保険者情報のPDFが健康保険法のどの法令上の根拠を基に資格確認のツールとして認めたのかについて、根拠となる具体的法令を明示し、文書で説明されたい。
A(厚労省):保険医療機関及び保険医療養担当規則(昭和32年厚生省令第15号)第3条第1項において、保険医療機関は、電子資格確認又は被保険者証等によって療養の給付を受ける資格があることを確認しなければならないとされており、その上で、ただし書きでは、緊急やむを得ない事由によって当該確認を行うことができない患者であって、療養の給付を受ける資格が明らかなものについては、この限りでないとされています。マイナンバーカードによるオンライン資格確認を行うことができない場合におけるマイナポータルの画面提示も、こうした規定に基づき行われるものと考えています。
健康保険証のコピーや写真で十分ではないか
厚労省の法令解釈では、「緊急時のやむを得ない場合」は被保険者の資格を証明する正式な証明方法(被保険者証の提示もしくはマイナ保険証利用によるオンライン資格確認)でなくてもよいと説明しました。また、マイナポータルにログインして被保険者資格PDFをスマホにダウンロードして医療機関受診時に提示させる行為は、健康保険法施行規則第3条第1項に基づく「緊急時のやむを得ない場合」に該当するとの説明でした。
裏を返せば、厚労省が提示した「資格情報のお知らせ」もしくはデジタル庁が広く活用を呼び掛けているマイナポータルでの被保険者情報ダウンロードには、法令上の根拠に基づく正式な書類ではないことを意味します。そうであれば、わざわざマイナポータルにログインしてPDFをダウンロードしたり、A4紙1枚の「資格情報のお知らせ」を携帯しなくてもよいことになりますし、健康保険証の持参に代えて、健康保険証の写真(スマホ等で撮影)でも可能となります。だとすると、何のために健康保険証を廃止するのかますます根拠が薄弱となります。児童・生徒が学校の修学旅行や遠足等で健康保険証のコピーの活用されているのは周知のことかと思います。
マイナトラブルは「緊急時のやむを得ない場合」
健康保険法施行規則第3条第1項では、受給資格の確認について、保険医療機関は、保険証、電子資格確認等の方法で被保険者の資格確認を行わなければならないとしています。例外として「緊急やむを得ない事由によつて当該確認を行うことができない患者であつて、療養の給付を受ける資格が明らかなものについては、この限りでない。」とあります。前述の通り、厚労省は、マイナ保険証を巡る医療現場でのトラブルへの対処方法は「緊急時のやむを得ない場合の対応」との法令解釈を示しました。
協会や保団連の調査でも回答医療機関の半数でマイナトラブルが報告されています。カードリーダーエラー等のエラーも頻発していますが、厚労省の法令上の解釈で言うと「緊急やむを得ない事由」は頻発していることになります。健康保険証が廃止されると「緊急やむを得ない場合」が多発し医療現場が大混乱に陥ることは不可避であり、健康保険証は残すべきです。