マイナ保険証 利用率低迷の責任を医療機関に押し付けないで

健康保険証の新規発行が停止される12月2日まであと3カ月。武見厚労大臣は、8月30日の記者会見で、低迷を続けるマイナ保険証利用率の向上に向けて、「利用実績が低い医療機関・薬局に対して個別アプローチ」を行うと述べました。

7月のマイナ保険証利用率が11.3%と低迷しているとの記者の指摘に対して武見氏は「利用率は約11%と上昇傾向にあるものの、更なる利用促進の取組が必要」と認識を示しました。政府は5月から7月にかけてマイナ保険証利用促進月間になりふり構わない取り組みを医療機関・薬局にごり押ししてきましたが、結果としてマイナ保険証利用率は月間の3カ月間で5月7.73%⇒6月9.9%⇒7月11.3%と増加したものの3.57%の伸びにとどまりました。これで医療機関・薬局に対して多額の補助金を投入してのキャンペーンはこれで終了となります。

低利用率の医療機関に個別指導まがい

8月30日の医療保険部会では、残り3カ月のさらなる利用促進の取組として、マイナ保険証の利用実績が著しく低い医療機関・薬局に対して「患者がマイナ保険証を使う機会を奪っているものも考えられ、その場合には、療養担当規則違反となるおそれがある」、「マイナ保険証の利用促進に当たり困っている場合の支援や地方厚生局が個別に事情を確認する等の働きかけを実施。また、働きかけの対象となることについて、メール等で個別に医療機関・薬局に対して事前に周知」と個別対策を打ち出しました。補助金が尽きたので今度は零細医療機関・薬局に対し個別指導まがいの仕打ちです。

「マイナ保険証利用率向上」は義務でも何でもない

そもそもマイナ保険証利用促進はあくまで医療機関・薬局の任意の協力の下、実施されてきました。患者が利用するかは自由意思によります。マイナ保険証のPRも含めてすべて任意の協力でしかありません。「利用実績が低い医療機関」をターゲットに個別に確認を受ける必要性も法令上の根拠もありません。また、利用率低迷の責任を医療機関に求めることも筋違いです。マイナ保険証は1割しか選ばれておらず、残りの9割が健康保険証を選択しているのが実態です。キャンペーンの失敗を認めて保険証廃止を即刻撤回すべきです。

 

参考:8/30医療保険部会提案資料

① マイナ保険証の利用実績が低い医療機関・薬局に対する個別アプローチ

• マイナ保険証の利用実績が著しく低い医療機関・薬局の中には、患者がマイナ保険証を使う機会を奪っているものも考えられ、その場合には、療養担当規則違反となるおそれがある。
• マイナ保険証の利用実績が著しく低い医療機関・薬局に対しては、マイナ保険証の利用促進に当たり困っている場合の支援や地方厚生局が個別に事情を確認する等の働きかけを実施。また、働きかけの対象となることについて、メール等で個別に医療機関・薬局に対して事前に周知。
• 加えて、10 月から医療DX推進体制整備加算の最低利用率が適用されることも踏まえ、窓口でのマイナ保険証の声かけ等の更なる利用促進の取組を改めて呼びかけていく。

参考:8月30日厚労大臣記者会見

武見大臣会見概要 |令和6年8月30日|大臣記者会見|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

記者:マイナ保険証についてお伺いします。現行の健康保険証が12月2日に廃止されるまで残り3か月ほどとなりました。厚労省はマイナ保険証の普及の呼びかけを進めていますが、7月時点の利用率は約11%と低迷が続いています。大臣の現状に対する受け止めと、マイナ保険証一本化に向けた今後3か月の取組、また国民への呼びかけがあればお聞かせください。

武見厚労大臣:
本年5月から7月まで「マイナ保険証利用促進集中取組月間」と位置付け、集中的な広報展開や医療機関等への一時金による支援などを行ってきました。直近7月のマイナ保険証の利用件数は約2,281万件、利用率は約11%と上昇傾向にあるものの、更なる利用促進の取組が必要です。このため、医療機関等に対して医療DX推進体制整備加算の見直しも踏まえた取組を改めて呼びかけるほか、本日の医療保険部会において、利用実績が低い医療機関等に対する個別の働きかけ、そしてこれまでの周知メッセージに、より国民の不安の解消に繋がるような内容の発信を追加することなどを提案する予定です。マイナ保険証は、より良い医療の提供を可能にするほか、医療DXを進める上でのパスポートです。リアルタイムで薬剤情報の共有が可能になる、救急医療の現場で医療情報の共有が可能になる、患者のカルテ情報を医療機関等が電子的に送受信できるようになるなど、そのメリットが増えていくものです。国民の皆様にはこのマイナ保険証を積極的にご利用いただき、こうしたメリットをしっかり実感していただきたいと考えています。