調査概要
政府は4月に、「国民の皆様に安心してマイナ保険証を利用いただけるよう、全ての登録データ(1.6億件)について住民基本台帳データとの照合が完了し、必要な確認も終了。今後の新規加入者に関する全てのデータについてのチェックシステムが5月7日から稼働する」と説明。トラブルの解決、不安払拭を強調し、5月から7月にかけてマイナ保険証の利用促進を強引に進めました。
これを受けて当会では、本当に患者さんや医療現場が安心してマイナ保険証が利用できる状況が整ったのか、現場の実態を明らかにするため、2024 年5月以降のマイナ保険証トラブル調査を実施しました。
調査は8月から9月にかけて実施し、39 都道府県(43 保険医協会・医会)から 12,735 医療機関にご回答いただきました。
7割の医療機関で今もトラブルが起きている トラブル「あった」は前回調査より約 10%増加
回答医療機関の 70.1%・8,929 医療機関で 2024 年5月以降もマイナ保険証、オンライン資格確認に関するトラブルが「あった」と回答しました。トラブルが「あった」との回答は、前回の調査(2023 年10 月 1 日以降のマイナ保険証トラブル調査・59.8%・5188 医療機関)より、約 10%増加しました。
河野前デジタル大臣は9月 20 日の記者会見において、当会の調査結果(中間報告)について、マイナ保険証を使う人が増えてきているため、トラブルにあう医療機関が増えるのは「当然」との認識を示しました。まさに利用率が上がるにしたがって、トラブルに見舞われる医療機関が増加している状況です。
政府は「紐付け誤りが生じない仕組みを確保」したとして「不安払拭」を強調していますが、現場のトラブルは「紐づけ誤り」だけが原因ではありません。約 12%と低い利用率の現在でも7割の医療機関でトラブルが発生する現状のもと、このまま 12 月2日で保険証の新規発行が停止され、患者さんが原則マイナ保険証で受診するようになった場合、トラブルがさらに増加し、医療現場の混乱は必至です。
その時に、トラブル対応の確実な手段として保険証が併用されていれば多くの問題は解決します。トラブルが解決せず、利用率の増加に伴ってトラブルも増加すると所管大臣が認めている以上、患者さんの医療へのアクセスを保障するために、保険証を残すことが絶対に必要です。
システムの根幹に関わるトラブルの発生割合減らず
トラブルが「あった」と回答した医療機関(8,929 医療機関)において、トラブルの類型と割合をみると、「資格情報が無効」47.8%・4,266 医療機関(前回 49%・2,554 医療機関)、「該当の被保険者番号がない」18.5%・1,655 医療機関(25%・1,321 医療機関)、「名前や住所の間違い」20.1%・1,795 医療機関(21%・1,071 医療機関)、「負担割合の齟齬」10.9%・977 医療機関(15%・776 医療機関)、「限度額認定の誤り」5.5%・493 医療機関(6%・307 医療機関)、「他人の情報が紐づけられていた」2.1%・189 医療機関(2%・102 医療機関)などとなっています。
オン資サーバー上の情報の不備など、オンライン資格確認システムの根幹に関わるトラブルは、前回調査から大きく減ってはいません。
平デジタル大臣は 10 月2日の記者会見で、ユーザーがマイナ保険証の利用に慣れてくれば不具合は改善していくとの見解を示しましたが、これらのトラブルは患者・医療機関側の慣れでは解消されないトラブルです。厚労省は、それぞれのトラブルについて「解決に向けた対応策」(令和6年7月3日第180 回社会保障審議会医療保険部会)を示していますが、トラブルの解消にはつながっていないのが現状です。
有効期限切れが2割
今回の調査で新たに選択肢を設けた「マイナ保険証の有効期限切れ」は 20.1%・1,799 医療機関でありました。電子証明書の有効期限切れに気付かず、更新手続きをしないまま医療機関を受診して資格確認
ができない事例が起きています。有効期限切れの場合、当然マイナポータルへのログインもできません。
「マイナ保険証の有効期限が切れており市の窓口を案内したが、高齢独居のためなかなか役所へ行けず保険証での確認が続いている」(岐阜・医科診療所)との事例もありました。
総務省が5月末に公表した資料によると 2024 年の更新必要枚数が 1076 万人で 23 年度(236 万人)の4.5 倍に増加します。25 年は 2768 万人が、更新が必要となり、23 年の 11.7 倍になります。今後、更新忘れによる有効期限切れで資格確認できない人が急増することが懸念されます。
機器の不具合は日常茶飯事? 落雷、停電やネットワークの不具合も
「カードリーダーの接続・認証エラー」は 52.9%・4726 医療機関と高い割合になり、前回調査(40%・2063 医療機関)よりも 12.9%増えました。事例では毎日のように機器の不具合がおきる、通信回線の不具合、サーバーダウンなどで数時間マイナ保険証による受付ができないなどの事例が寄せられています。
再起動などの対応で時間がかかり、受付の混雑にもつながっているとの事例も寄せられています。
機器やネットワーク回線の不具合などいわゆるハード面でのトラブルに加えて、機器の操作にサポートが必要な患者さんへの対応などで受付業務の大きな負担となっています。中にはマイナ保険証での受付に時間がかかり、順番が前後したとの事例もありました。高齢者や乳幼児などで顔認証ができず、暗証番号も不明との事例も多数寄せられました。現行の健康保険証が完全に廃止になった際、さらに大きな混乱が懸念されます。
「いったん 10 割」は 9.6%・857 医療機関・1241 件と前回調査より増加
トラブルがあったと回答した 8,929 医療機関のうち、いったん窓口で 10 割を請求した事例が「あった」との回答は 9.6%・857 医療機関(4.6%・403 医療機関・753 件)ありました。件数は少なくとも 1,241件にのぼります。割合、件数ともに前回調査よりも増加しています。
これまで保団連は繰り返しマイナ保険証への一本化は患者さんの医療へのアクセスを阻害しかねないと指摘してきましたが、実際に受診を諦めるケースまで生じており深刻です。患者さんからすれば政府の「マイナ保険証で受診できます」、「メリットがあります」、などの宣伝を信じてマイナ保険証で受診したのに、いったん 10 割負担は納得し難いと思います。医療機関にとってもやむを得ない状況とはいえ 10 割負担をお願いせざるを得ない状況は大きな負担です。
8割は現行の保険証で資格確認し「無保険扱い」を回避
トラブルを経験した 8,929 医療機関のうち、78.0%・6,967 医療機関が「健康保険証で資格確認した」と回答しています。健康保険証で「無保険扱い」(いったん 10 割)を回避しているのが実態です。このまま健康保険証が廃止となれば、「無保険扱い」(いったん 10 割)が増加することも懸念されます。
政府はいったん 10 割を回避する手段として、トラブルの内容によって、目視モード確認、スマホでマイナポータルを表示または PDF 提示、マイナ保険証+資格情報のお知らせ、被保険者資格申立書など何通りもの複雑な対応を示しています。対応する医療現場は患者さんへの説明などを含め大きな負担となります。保険証が併用されていれば、何通りもの対応をしなくても済みます。患者さん、医療現場、保険者の事務負担などを考えれば保険証を残すべきです。
廃止の延期、保険証を残すべき 約9割
保険証が廃止された場合、「今も混乱しており、廃止後は受付業務に忙殺されると思う」との回答は58.8%・7,483 医療機関にのぼりました。「待ち時間が長くなると思う」は 46.8%・5,958 医療機関となりました。「スタッフを増やして対応せざるを得ない」も 15.4%・1,961 医療機関ありました。
また、保険証の廃止を「延期すべき」との回答が 10.9%、「保険証は残すべき」が 73.9%、「延期」と「残す」の両方にチェックした回答 3.3%・421 医療機関とあわせて9割近くになりました。
私たちがトラブルの実態を調査し始めてから1年以上が経過し、政府側はトラブルの「解決に向けた対応」を示していますが、事態は一向に改善していません。トラブルが生じても、現行の健康保険証が併用されていれば「無保険扱い」(いったん 10 割)は回避できます。
政府はアナログの選択肢として「資格確認書」があると強調し、アナログとデジタルの「併用」だと印象付けていますが、「資格確認書」は、マイナ保険証を持たない人を原則交付対象としているため、現在の保険証のように両方もっている状態という意味での「併用」にはなっておらず、マイナ保険証によるトラブル対応の手段にはなりません。
トラブルなどでオンライン資格確認ができない場合はマイナ保険証と合わせて資格情報が記載された「資格情報のお知らせ」を提示するようにとアナウンスしています。しかし、患者さんにも医療現場にも十分な周知がされているとは言い難い状況です。
そもそも国民皆保険制度である以上、国・保険者が責任をもってすべての被保険者に申請なしで「健康保険証」を交付してきた原則を覆すことは許されません。医療現場は切実に現行の健康保険証の存続を求めています。患者さんが安心して受診できることを第一に考え、国民の受療権を守る立場から、私たちは政府に対し一刻も早く保険証を残す決断を求めます。