全世代を直撃する高額療養費の大改悪 厚労大臣「患者団体のヒアリング実施しない」

政府は昨年末に高額療養費の自己負担上限額の大幅引上げを閣議決定しました。1月24日開会の国会で審議される2025年予算案に制度改悪が盛り込まれています。全世代を直撃する大改悪です。保団連は1月10日の大臣会見で制度改正にあたり利用者の実態把握や患者団体へのヒアリング実施等を問いました。

福岡厚労大臣は「様々な疾患があり、様々な団体がある。患者一人ひとりにおかれた状況は違う」と述べ、患者団体へのヒアリングは実施しない考えを示しました。一方で、「これまでの過去のデータ、そういったものを用いながら、影響が大きく出ないよう配慮しながら改革を行っていきたい」と言いました。

昨年末に決定した自己負担上限の引き上げは低所得(年収80万円以下)を除くすべての年代・すべての所得区分が対象となります。所得区分を細分化された上で3年間かけて断続的に自己負担上限が引き上げられます。現在制度を利用している方への経過措置や配慮措置はありません。現役世代では、各所得階層とも引上げとなり、平均所得の上位区分にあたる650万円~770万円では、現行80100円が13万8600円と約5万円・70%もの引上げです。

 

現役世代の重篤疾患リスクを支えてきた

現役世代が多く加入する保険組合で高額療養費制度の利用件数が過去10年で増加してます。協会けんぽ(314万件⇒484万件)、健保組合(203万件⇒259万件)、共済組合(63万件⇒73万件)また、協会けんぽや健保組合の一人当たりの金額が約12万円です。重篤な疾患で高額な医療費が必要な際にセーフティーネットとしてかけがえのない制度です。

子育て世代が働きながら重篤な疾患で治療を余儀なくされた場合、高額な治療費に加えて、就労制限を余儀なくされた場合は収入減となります。高額療養費は所得に応じた一定額以上の医療費負担は免除されるため安心して治療に専念できる文字通りの「命綱」の役割を持ちます。政府がすべての年代、所得階層を対象に高額療養費・自己負担上限額を大幅に引き上げ、治療中の患者さんに追加の費用負担を強いることは命綱の役割を大きく後退させると、現在健康な方にも将来不安が広がります。

現役世代もリスク増加

政府は「現役世代の保険料の負担軽減」を論拠に大幅改悪を提案していますが、現役世代を含め重篤な疾患患者の医療費負担を増やすことは本末転倒しています。厚労省は、医療費ベースで年5300億円の給付削減、1人あたり年1100円から5000円の保険料軽減(事業主負担含む)ができる試算しています。令和3年度の厚労省統計では、高額療養費の多数回該当(3カ月以上利用者)の方は、協会けんぽ、健保組合、市町村国保の合計で370万件の上ります。長期に高額な治療を余儀なくされた370万人の「命綱」そのものです。現役世代、高齢世代を問わず、命にかかわる疾患患者を治療中断に追い込むことが強く懸念されます。わずかな保険料軽減を盾にリスクを増加させる制度改悪は現役世代の負担軽減にもなりません。

厚労省は、少なくとも制度を実際に利用されている方がどのような疾患で治療をされているか、どれくらいの高額な医療費を負担されているか等について調査・分析すべきてです。また、がんなど命にかかわる重篤な疾患で高額療養費を支えとしている患者団体に実態をヒアリングすべきです。改悪ではなく改善するのが国民の命健康を守る厚労省の役目です。全世代を直撃する高額療養費の改悪は直ちに撤回すべきです。

 

 

<1月10日厚労大臣記者会見>

保団連

高額療養費についてお伺いします。過去10年の推移を見ると、現役世代が多く加入する協会けんぽ、健保組合、共済組合での利用件数が増加しており、協会けんぽや健保組合では1件あたりの支給金額が約12万円となるなど、重篤な疾患を治療継続する上で非常に重要な役割を果たしています。今回の自己負担上限額引き上げは、多数回該当の基準も引き上げられるため、長期で治療を継続されている患者さんへの影響が大きいと考えられますが、現在、高額療養費を利用されている方の疾患種類や治療費の動向などについて調査・分析した上で引き上げを提案されていますか。また、患者団体などへのヒアリング等は実施されていますでしょうか。

福岡厚労大臣

今回の高額療養費制度の見直しについては、高齢化や高額医薬品の普及等により、総医療費が年々増加している中で、現役世代を中心に、今、保険料が上昇している状況を踏まえ、セーフティネットとしての役割を維持しながら、被保険者の保険料負担の軽減を図る観点から、見直しを行うものです。見直しに当たっては、各界の有識者から構成される審議会、これは医療保険部会ですが、そこにおいて、高齢者に比較的多い疾患例を用いて、その場合の自己負担額や、外来特例に該当している患者の割合、過去同様の見直しを行った際の患者の受診行動や、1人当たり診療費の変化といったデータに基づき、ご議論いただいているところです。その審議会の中には、高齢者の方々の団体組織の代表にもご参加いただいております。さらに、今回の見直しに際して、住民税非課税世帯については、実質ベースで負担が生じない形とするなど、追加的な経済負担に十分に配慮しており、こうした点も含め、丁寧に説明を尽くしてまいりたいと考えています。

保団連

今回の質問は、現役世代の方で多く利用している、がん等で、患者団体の方から声が上がっていると思いますので、高齢者についてというよりは、現役世代のビックリスクに対する利用が多いということで、その辺りは丁寧にヒアリングすべきでないかというご質問です。

福岡厚労大臣

ご承知の通り、様々な疾患があり、それぞれ様々な団体があります。それぞれ患者一人ひとりにおかれた状況は皆様違うわけですので、そうした意味においては、それぞれの団体から説明を聞くというわけではなく、先ほども申しましたように、これまでの過去のデータ、そういったものを用いながら、影響が大きく出ないよう配慮しながら改革を行っていきたいと考えているところです。