政府が提案している高額療養費の限度額引き上げに伴う機械的な受診抑制効果として2270億円を見込んでいたことが分りました。1月23日医療保険部会に提出された財政検証資料で示されたものです(上図※4)。
保団連は、2月7日の厚労大臣記者会見で、制度見直しによる給付費や受診抑制などの財政影響を問いました。福岡厚労大臣は、「保険料と公費の合計で約5,330億円の減少が見込まれ、このうち、実効給付率が変化した場合に経験的に得られている医療費の増減効果は、機械的に計算すると、約2,270億円」と答弁しました。制度見直しに伴う給付費削減が5330億円。内訳として患者の受診抑制で2,270億円の給付費削減、患者の負担増で3060億円の給付費削減を見込んでいることになります。
保団連は、「機械的試算とは言え、制度見直しに伴う受診抑制が起こることを前提に見直しを提案したのではないか」と質問しました。福岡大臣は、「あくまでも、機械的な試算だ。前回の改正の際も、この長瀬効果に伴う財政影響を示しているが、実際にその後の後期高齢者の受診率に大きな変動はなかった」「今回の見直しが実際の患者の受診行動に与える影響については、その分析方法含めて検討する必要がある」と釈明しました。
しかし、「機械的試算」を行った厚労省保険局調査課に確認したところ、「経験則的に得られている受診抑制の係数(いわゆる長瀬効果)を機械的に当てはめたもの」としながら、制度見直しで「マクロでは受診抑制が生じる」と回答しています。重篤な疾患で治療を継続している患者さんが利用する高額療養費の受診抑制・受診中断は命にかかわります。制度改悪後に実際の患者の受診行動への影響を検証したら取り返しのつかない悲劇を招くことにしかなりません。2270億円もの受診抑制が生じると財政試算をしておきながら、過去の改正では実際に生じないとの答弁はあまりにも軽率であり、高い医療費負担で困難な闘病生活を強いられている患者さんの不安を煽り、心を深く傷つけるものです。
保団連が実施した「高額療養費制度の上限引き上げに伴う家計・子育てへの影響調査(一次集計:2月6日、回答数:286件)」では、制度見直しにより、46%が「治療を中断する」、61%が「治療回数を減らす」と答えています。現時点でも重い負担に耐えられないと悲鳴が上がっています。高額療養費を利用する約795万人(うち多数回該当は約155万人)にこれ以上の経済的負担を課すことは「命の選択」を迫るに等しいものです。政府は、高額療養費制度の限度額引き上げは白紙撤回すべきです。
福岡大臣会見概要 |令和7年2月7日|大臣記者会見|厚生労働省
保団連
高額療養費制度の見直しによる財政影響として、5,330億円の給付費の削減を、政府は見込んでいます。その内訳として、患者負担増による給付費削減金額と患者受診抑制による給付費削減金額をそれぞれお示しください。また、医療保険部会等の取りまとめで、「今回の見直しにより必要な受診が妨げることのないよう」との方針が掲げられていますが、高額療養費の利用者において治療中断、治療回数減など、受診抑制が生じることは命に関わる問題だと考えています。政府は患者の受診抑制を前提に医療費削減という数字ありきの制度見直しを提案したのではないでしょうか。ご見解をお願いします。
福岡厚労大臣
高額療養費の見直しは、高齢化や高額な薬剤の普及等により、その総額が医療費全体の倍のスピードで伸び、現役世代を中心に保険料負担が大きくなっている中で、セーフティネットである高額療養費制度を将来にわたって堅持するために行うものです。この見直しによる財政影響は、保険料と公費の合計で約5,330億円の減少が見込まれ、このうち、実効給付率が変化した場合に経験的に得られている医療費の増減効果は、先日1月23日の審議会でも公表している通り、機械的に計算すると、約2,270億円となりますが、これはあくまで機械的な試算であり、今回の見直しが実際の患者の受診行動に与える影響については、その分析方法含めて検討する必要があると考えています。見直しに当たっては、所得に応じた制度設計を行うとともに、長期で医療を受けている方の経済的負担を考慮していますが、冒頭申し上げた通り、引き続き、制度を利用されている当事者の不安の声に真摯に向き合うとともに、高額療養費のセーフティネット機能の堅持という課題の両方を満たすことのできる解を見出すべく検討を重ねていきたいと考えています。
保団連
受診抑制を、機械的算定で前提がありますが、2,270億円見込んでいるということですね。限度額の見直しによる患者への実際の、今利用されている方の負担増が3,060億、差し引きで、なると思います。はなから受診抑制が起こるという前提で、この制度の改正を組んだのではないかと厚労省には確認しましたが、そのように、担当課は受診抑制は起こりうると言っています。がん患者は悲鳴を上げていますが、そういったことを予想していなかったのでしょうか、政府案として提案した段階で。
福岡厚労大臣
あくまでも、機械的な試算としてお示ししています。前回の改正の際も、この長瀬効果に伴う財政影響についてはお示ししていますが、実際にその後の後期高齢者の受診率に大きな変動はなかったというようなこともございます。あくまでもそこは機械的に試算の中で用いさせていただいているということです。
保団連
高齢者の受診抑制というものとレベルが違います。重篤な疾患の治療を医師から中断しないようにと言われている中で、その受診抑制とレベルが違うので、そのことはこの長瀬効果という機械的な数値も含め、本当に患者を傷つけていますので、そこは今後ヒアリングされると思いますので、ぜひ反省していただき、撤回していただきたいと思います。
福岡厚労大臣
そこは重ねて申しあげております通り、私どもの案を示させていただいている中で、国会でも様々ご議論いただいているところです。先ほど申し上げましたスケジュールで、私どももしっかりお声を聞かせていただいた上で、どういった制度が1番望ましいのか、検証を重ねてまいりたいと考えています。