【要望書・医療法等改正】 オンライン診療は医療安全管理に危惧

2025年4月4日

内閣総理大臣 石破  茂 殿

厚生労働大臣 福岡 資麿 殿

国会議員 各位

 

「医療法等の一部を改正する法律案」に関する要望

 

全国保険医団体連合会

医科政策部長 橋本 政宏

歯科政策部長   池 潤

 

今国会に提出された「医療法等の一部を改正する法律案」(以下、医療法改正案)は、医療法、健康保険法はじめ主な関連法だけで24本の法案を束ねた法案となっています。

医療法改正案には、オンライン診療の法制化にはじまり、地域医療構想の見直し、医師偏在対策、2次利用を含む「医療DX」推進、支払基金の抜本的改組に至るまで極めて広い範囲に及ぶテーマが盛り込まれています。本来、項目ごとに十分に時間をとって審議すべきであり、今国会で拙速に法案を採決することがないよう求めるものです。

 

オンライン診療は医療安全管理に危惧

医療法改正案では、従前、通知で運用してきたオンライン診療が「法制化」されます。オンライン診療を受ける場所を提供する施設に関して規定が設けられますが、診療所などの「医療提供施設」とは異なり、「医療の質」の維持への不安はもとより、感染防止、防犯、プライバシー保護や機材管理など医療安全管理が曖昧になる事態が危惧されます。

 

命を守る病院の確保が必要

医師偏在是正や病院経営への支援などは急務の課題ですが、医療法改正案は人口減少を理由に、医師養成数の削減や医療機関の整理・統合を推進する色彩が濃く、地域での医療提供保障が危惧されます。

そもそも、現在の地域医療構想は、地域の実情に合った地域医療構想になっていません。その大きな原因は、都市部と中山間地域を一律の基準で行っていることと、医師の絶対数不足です。地域医療構想は、患者・国民の命と健康を守るものでなくてはなりません。そのためには、中山間地域や離島などの医療過疎地域を含む病院配置では、30分圏域に少なくとも1か所、肺炎、急性腹症、骨折、脳梗塞、心不全、発熱疾患、熱中症といった普通の病気や怪我で、入院治療ができる地域の実情に応じた「医師が充足した命を守る病院」が必須です。地域に一つしかない社会的共通資本である「命を守る病院」が無くなると、命の保証が無くなって地域そのものがなくなりかねません。

 

医師偏在対策はインセンティブを軸に

医師偏在対策をめぐり、外来医師が特に多い地域には、事実上、診療報酬を引き下げるなど「新規開業規制」が導入されます。地域で不足する医療の求め(応需)に対してはインセンティブこそを設けるべきです。

今後の医療提供体制の維持に向けて、医療職の計画的な育成・増員を進めつつ、現場の働き方改善を図るとともに、対面診療できる機会が保障されるよう、診療報酬、補助金、税制などを改善・充実することが必要と考えます。

 

医療等ビッグデータの漏洩危惧

医療等ビッグデータの取り扱いに関わっては、マイナンバーカード利用やデータの2次利用が前提とされています。「デジタル化」に対応できない社会的弱者を切り捨てかねないとともに、政策の費用対効果が不明瞭なまま、機微性が高い個人情報が広範囲に流通することで、大規模な情報漏洩や医療給付抑制に向けた利用などが危惧されます。

 

以上を踏まえ、医療法改正案の抜本的な見直し、運用の改善に向けて、下記の事項について要望します。ご理解、ご尽力賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

 

【記】

 

法案審議に際して

1.審議の充実に向けて、医療提供体制と医療DXの部分は分けて審議すること。

2.法改正により影響を大きく受ける開業医、病院関係者や患者、支払基金の現場職員などより参考人質疑などを行い、現場の状況と課題を把握し、審議に生かすこと。

 

オンライン診療の法制化について

1.オンライン診療については、対面診療を補完するものとして制限的に規定すること。初診からのオンライン診療は禁止すること。

2.「オンライン診療受診施設」について、以下の規制を定めること。

①「医療提供施設」(医療法第1条の2第2項)と位置付けた上、コメディカル配置含め、医療安全管理、感染対策、機器保守管理や防犯管理・個人情報漏洩防止対策などについて規定すること。

②医師が不足して対面診療の確保が困難な地域に限った上で、当該施設は郵便局・公民館など地域の公共施設、又は薬局に限定すること。

3.オンライン診療を行う医療機関が、オンライン診療受診施設に対して、「オンライン診療の適切な実施に関する基準」への適合性を確認する旨を法律上で定めること。

4.オンライン診療を行う医療機関、オンライン診療受診施設の双方の責任において、患者の急変時に近隣医療機関が迅速に対応できる体制を確実に保障させること。

5.「オンライン診療受診施設」の設置・運用が地域医療、とりわけかかりつけ医や初期救急体制に対して悪影響が見込まれる/出た場合、行政が責任を持って運用の是正を図ること。

6.「オンライン診療の適切な実施に関する基準」について、少なくとも、現行の「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の規制水準は維持すること。

7.オンライン診療に関する広告・宣伝へのネットパトロール強化、処方に関する規制ルールの周知徹底などを図ること。医療安全確保の観点から、オンライン診療の実施状況について定期的に検証し、必要な是正を図ること。

8.オンライン診療の法制化を理由として、オンライン診療に係る診療報酬引き上げや施設基準緩和などはしないこと。

 

地域医療構想の見直しについて

1.地域医療構想の基本理念について、以下の点について担保すること。

①あくまで、地域医療構想は、地域の医療機関・関係者(新規開業含め)、患者・住民、行政が必要な医療を確保するため自主的に協議して取り組んでいく仕組みに留めること(※医療行政における住民自治の保障)。

②現行の受療率(※受診抑制を内包)や在宅移行等を前提として、病床削減を推し進めるシミュレーション設定や、それに基づく病床推計などはしないこと。

③中山間地域や離島などの医療過疎地域を含む病院配置では、30分圏域に少なくとも1か所、入院治療が必要となる病気や怪我に対応できる、地域の実情に応じた「医師が充足した命を守る病院」を確保すること。

2.医療機関機能報告に関連して、以下の点について担保すること。

①地域の医療提供の実情に配慮して、報告に際して複数の医療機関機能の選択を柔軟に認めること。

②都道府県知事は医療機関に対して、報告された内容が実際の機能・運用と著しく異なる場合は別として、報告内容の修正(届出直し)を迫るような運用はしないこと。また、報告内容の変更を通じて、実際の医療機関機能の変更を迫るようなことは厳に慎むこと。

③新たな地域医療構想において、各医療機関機能に対応して将来確保すべき、病院数(上限)の設定や個別病院名の指定などは行わないこと。

3.病床数に関わる都道府県知事の権限に関わって、以下の点について担保すること。

①病床増床の計画(申請)により、2040年時点で認める「必要病床数」を超える時、地域の現状に応じて当該病床を必要とする場合、増床について柔軟に認めること。

②既存の病床数が、現行の上限値となる「基準病床数」や、必要病床数を超える地域において、医療機関に対して病床の転換・削減を迫るような運用はしないこと。

4.外来医療提供体制の確保に関わって、地域で認める医療機関の数(上限)の設定や個別医療機関名の指定などは行わないこと。

 

医師偏在是正に向けた総合的な対策について

1.医師偏在対策について、以下の基本方針を軸に据えること。

①医師が不足する地域(及び診療科)の選定については、相対的な多寡を示す「医師偏在指標」や今回の「重点医師偏在対策支援区域」に留めず、実際の医療現場の実情(長時間労働時間など)を踏まえること。

②規制的手法ではなく、インセンティブ・支援を基調とした施策を基本とすること。

③医師が多いとされる地域の医療機関の診療報酬を引き下げつつ、捻出した財源を医師が少ないとされる地域に充当するような運用・手法は厳に慎むこと。

④医師偏在是正、医師確保に向けた施策は、診療報酬財源の活用・拡大で進めるのではなく、自治体への補助金(公費補填)を基軸に据えること。

2.「外来医師過多区域」の選定・運用にあたり、以下の点について担保すること。

①人口減少が加速し、医師数が相対的に多いと判定されやすい地域(例えば、離島、山間地、へき地)が選定されないように、選定指標の設定は慎重に行うこと。

②地域で不足する医療提供の求めに関わって、新規開業する医療機関側の事情に配慮した節度ある運用を行うこと。

③医療機関の継承(開設者の変更)は、「やむを得ない場合」として、運用の対象から除外すること。

3.「外来医師過多区域」で想定する経済的対応について、以下の点を担保すること。

①「負の動機付けとなる診療報酬上の対応」(大臣折衝事項、2024年12月25日)に関わって、地域別診療報酬(例えば、1点単価変動)を導入・活用しないこと。

②不足する医療機能の求めに応じる医療機関に対して、経済的支援を行うこと。

4.「重点的に医師を確保すべき区域」の運用について、以下の点について改善すること。

①当該区域の設定に際して、自治体が地域の実情を考慮した結果、厚労省が定める基準以外の地域を指定した場合も正式に認めること。

②当該区域で勤務する医師(医療機関)への特定医師手当について、官民格差が生じないよう指導、配慮すること。

③地域の実情に応じて、特定医師手当への上乗せを認めること。

④特定医師手当に要する財源は、社会保険料での徴収ではなく、別途、国として財政措置を講じること。

※やむなく、社会保険料から徴収する場合、2026年度診療報酬改定財源とは別の取扱いとすること(大臣折衝事項で述べる一体的確保=財政中立とはしない)。

5.医師が不足する地域において、民間医療機関の存続・設置が難しい場合、国保診療所など公的医療機関の設置を積極的に検討すること。

6.病院管理者の確保に支障をきたすため、地域医療支援病院の病院長に係る「管理者要件」については廃止すること。

 

保険医療機関の管理者に係る要件について

1.保険医療機関(保険医)に係る指定・登録の取消事由となる「必要な注意」などの規定を通じて、現行の行政運用を厳格化するようなことは厳に慎むこと。

2.管理者要件の法規定を理由として、「保険医療機関及び保険医療養担当規則」の改正は行わないこと。

3.レセプト事務、患者対応など職員への監督権限に関わって、国は医療機関に対して懇切丁寧な教育・研修を行うこと。

 

医療DXについて(総論)

1.医療のデジタル化の目的は、医療費の適正化(抑制)ではなく、医療現場の働き方の改善、患者・国民への医療の質の改善にある旨を基本理念に据えること。

2.医療機関に「電子処方箋」「標準型電子カルテ」などの実装を義務付けないこと。紙カルテの医療機関に対して、経済的ペナルティはじめ不利益な運用を課さないこと。

3.公費負担等医療において、マイナンバーカード利用を強いるような運用はしないこと。各種医療受給者証を利用する患者に対して、不利益な取り扱いはしないこと。

4.支払基金等が担う電子カルテ等情報管理業務において、審査、指導、監査業務含め給付の統制・管理に係るデータ利用・提供できない旨を明確に定めること。

5.医療機関から支払基金等への電子カルテ情報等の提供について、2次利用(地域医療情報連携以外での利用)の可否も含めて、患者の同意を得る運用とすること(一度同意した場合の撤回も可能とする)。

※がん登録など同意取得を要しない現行法制上の運用についてはそのままとする。

 

 

医療等データの2次利用について

1.医療等データの2次利用に関わる提供について、以下の点について担保すること。

①国は、医療費抑制に向けて、給付の統制・管理に関わるデータの分析・利用はしないこと。

②深刻な社会的差別につながりかねない公的データベース(とりわけ、がん登録、指定難病、小児慢性)について、他のデータベースと連結して提供しないこと。

③データ提供の可否を審査する委員会について、以下の点について担保すること。

(ⅰ)各データベースの特性に配慮して、個々に委員会を設けること。審査人員体制を充実させること(利益相反の回避は前提)。

(ⅱ)NDBに係る利用申請から提供までの期間を最短7日とする方針を機械的に運用したり、データベース全体(連結・提供)の方針として一般化しないこと。

(ⅲ)提供が認められる「相当の公益性」と医療の質の向上の関係性が牽連しているかどうか、定期的に検証・チェックする仕組みを設けること。

④申請目的外の利用に対して、データ利用申請の停止はじめ罰則を強化すること。

2.「仮名化情報」について、以下の規制を設定・明確化すること。

①Visiting解析環境(オンサイトセンター)での利用を原則とする旨を法令上、明確に規定すること。

②医療等ビッグデータ基盤(全国医療情報プラットフォームのデータ連携基盤)は、国内に設置すること。サーバー委託先企業(再委託は基本禁止)に対して、データ越境移転の禁止はじめ、国は監督責任を強力に発揮すること。

③海外在住者からのデータ利用申請について、データの越境移転(海外持出)に係る禁止運用を徹底すること。

④仮名化情報の提供に際して、「利用の目的又は方法の制限その他必要な制限」について、感染症拡大時での利用など運用方針を明確化すること。

⑤一般民間事業者の医療等データの「2次利用」(例えば、教育、雇用、民間保険など)について、明文で明確に禁止すること。

⑥医療等データが社会的・経済的差別に利用されないよう、海外の遺伝子差別禁止法のような立法措置も念頭に実効性を伴う個人情報保護措置を設けること。

3.患者・国民の自己情報コントロール権を保障するため、以下の点について担保すること。

①自己情報コントロール権を具体化する措置を個人情報保護法制に体系的に設けること。

※例えば、プロファイリング制限・禁止、個人識別禁止、データ削除・利用停止を求める権利(忘れられる権利)、アクセスログ通知(自己情報が使われる場合の通知制度)、罰則規定の強化(委託・孫委託先に対する厳重罰の徹底、課徴金制度の創設・強化、罰金の強化)や、データ越境移転制限など。

②行政でのICT政策決定過程の透明性と説明責任を徹底すること。意見応募・公聴会、国会審議(国会への定期報告含め)はじめ、医療現場、立法府と市民社会による実効性を伴う手続き的関与について整備・充実すること。

③医療アクセス、円滑な医療提供を守る観点から、医療DXをチェックする第三者機関を設けること。政府からの独立性を担保し、患者・住民代表を含め、実効性を伴う調査・指導権限を持つ機関とすること。

※過渡的措置として、例えば個人情報保護委員会の抜本的な機能・体制強化。

社会保険診療報酬支払基金の抜本的改組について

1.新たに追加される医療DX関連業務に関わって、以下の点について担保すること。

①執行を担う「医療DXの推進体制」について、「柔軟かつ迅速に執行していく体制」をとることありきではなく、国民の非常にセンシティブな情報を扱い分析する組織的部門として体制確立すること。「医療情報化推進担当理事」と理事長等との体制というあいまいな位置づけではなく、現場の診療を担う側、被保険者(患者)側の代表者を構成員に加えること。

②運営会議による「医療DXの推進体制」へのガバナンス規定を明確化すること。

③医療DX関連部門を担う職員(常勤・非常勤問わず)について、利益相反行為を禁止するとともに、取引行為への厳格なチェックを行うこと。

2.公正性・中立性を確保した審査支払業務に向けて、以下の点について担保すること。

①電子カルテ等情報を取り扱う業務部門と審査支払部門の間に厳格なファイアウォール規制(部門間の交流・情報流通を構造的に遮断する仕組み)を設けること。

②現場で審査業務を担う職員の労働環境の改善を図ること。

③レセプト審査画面が自動で遷移するツール利用に係る問題について、職員の働き方(人員不足など)の観点から検証すること。