【10月10日厚労大臣会見】高額療養費の患者影響調査は否定 受診抑制の実態を顧みずに負担増に固執する厚労省

2025年10月13日

10月1日にリウマチ友の会など3団体が高額療養費の限度額引き上げ中止を求める1万4千筆を厚労省に提出しています。

保団連は、10月10日の厚労大臣記者会見で、患者団体からの要望書に対する大臣の受け止め、高額療養費限度額引上げにより経済的な理由で治療中断をせざるを得ないなど大きな影響を受ける患者への実態調査やヒアリング実施の予定や「秋までに再検討する」とした政府方針は現段階での到達などについて質問しました。厚労省は、患者の受診抑制など実態調査の実施を否定しつつ、高額療養費の見直しについて「高額療養費を負担能力に応じてどのように分かち合うかという観点から、引き続き検討を進める」と限度額引き上げによる患者負担増に固執する構えを示しています。

 

厚労省は、患者の「負担能力」持ち出し負担増を模索

福岡厚労大臣は、リウマチ友の会の署名・要望について「高額療養費の見直しに対して大変不安をお感じになられている声の一つだと受け止めさせていただいています。」と答弁しました。

その上で、高額療養費の見直しについて「現在、当事者の方にもご参画いただいた専門委員会において、患者団体をはじめ、保険者や医療関係者などから複数回ヒアリングを行うなど、丁寧に議論を進めているところであり、患者の方々の経済的な負担が過度なものとならないよう配慮しつつ、一方で増大する高額療養費を負担能力に応じてどのように分かち合うかという観点から、引き続き検討を進めてまいりたい」と答弁しました。

厚労省は、高額療養費の限度額引き上げによる患者負担増に固執しており、専門委員会での検討を続ける構えです。厚労省は、「過度なものとならないよう配慮」しつつ、患者の所得に応じて限度額を引き上げることを模索しています。しか、専門委員会での議論では、がんなど重篤な疾患で就労継続が制限され高額な治療費を払わざるを得ないという患者実態のデータが示されておらず、「過度なもの」になるかどうか実態・影響調査を踏まえた議論とは言えません。さらに、患者影響に関する実態調査実施の有無について、福岡大臣は「国会答弁でも申し上げましたが、それぞれの方が置かれた立場は皆さん違うわけです。そういった意味でいうと、レセプトのデータをベースに今モデル的に分析させていただいている」と答弁しました。レセプト分析は高額療養費利用者の保険給付における治療費を推定することはできますが、当該患者の家計収入の減少などを元に支払い能力の可否を判断することはできません。

国立がん研究センターの調査(25年6月)では、AYA世代(40代まで)など若年層が他の階層に比べて貯蓄が少なく治療費支払いに困難を抱える傾向にあることを可視化しました。また、保団連が昨年2月に実施した子ども持つがん患者では、がんり患に伴う所得減少、保険外の出費も含めた年間治療費なども明らかにし、現役世代の親世代が治療中断に追い込まれること、子供の養育費にも影響することを可視化しました。家計や子育て、治療継続に与える調査や患者の実態調査なしに限度額引き上げを実施することは、凍結となった教訓を踏まえたものとは言えません。

<各種調査>

「高額療養費制度」上限引き上げに伴う家計・子育てへの影響調査(最終報告) – 全国保険医団体連合会

若年がん患者 がん治療のため6割が休職 44.9%が金銭的負担【国立がん研究センター患者体験調査報告書令和5年度】 – 全国保険医団体連合会

経団連や健保連は負担増要求

9月26日の医療保険部会では、経団連や健保連の委員から「現役世代の社会保険料の負担の軽減」、「医療の高額化」などを口実に負担増につながる改定を求めています。

記者会見で保団連は、「限度額の見直しをするかしないかについては、正にその新政権後の判断か。厚生労働省として現時点で何か方向性を示したものではまだない、議論の途中だという認識でよいか」と質問しました。福岡大臣は「そこについては、正に今、専門委員会でご議論いただいているということですから、その議論の推移を私たちとしては見守りたい」と答弁しました。

限度額引き上げは白紙撤回を

新政権で高額療養費引き上げの議論が継続されることになります。保団連の行った当事者アンケートの声や改悪への多くの反対世論を反映して今年3月に「凍結」しました。しかし、再検討の議論では、早くも高額療養費制度の改悪の道へ突き進もうとしています。当事者や国民世論を無視した改悪は決して許されません。保団連は、引き続き当事者の声を発信しながら、限度額引き上げの白紙撤回を求める声を広げていきます。

福岡大臣会見概要 |令和7年10月10日|大臣記者会見|厚生労働省
保団連
高額療養費の限度額引上げについて1点ご質問させていただきます。関節リウマチは、自己免疫の異常により関節に慢性的な炎症を引き起こし、進行すると日常生活に多大な支障を来す慢性疾患です。報道によると、新総裁も関節リウマチでご苦労されたということです。10月1日にリウマチ友の会など3団体が、要望書ということで、全ての所得階層における高額療養費限度額引上げの中止と70歳未満の多数回該当の限度額引下げを求める署名1万4千筆を厚生労働省に提出されています。署名、要望内容について大臣のお受け止めをお伺いします。また、高額療養費限度額引上げにより経済的な理由で治療中断をせざるを得ないなど大きな影響を受ける患者さんに対して、これまでの専門委員会のヒアリングとは別に実態調査やヒアリングを実施する予定はございますでしょうか。秋までに再検討するとした政府方針は今後どのようになるのでしょうか。見通しも含めてお願いします。
厚労大臣
ご指摘の患者団体さんからのご要望については、事務方から報告を受けています。その中で要望書については私も目を通させていただいていますが、署名についてはその場で団体の方が回収して持って帰られたということなので、こちらの手元にはないという状況です。いずれにしても、高額療養費の見直しに対して大変不安をお感じになられている声の一つだと受け止めさせていただいています。高額療養費の見直しについては、現在、当事者の方にもご参画いただいた専門委員会において、患者団体をはじめ、保険者や医療関係者などから複数回ヒアリングを行うなど、丁寧に議論を進めているところであり、患者の方々の経済的な負担が過度なものとならないよう配慮しつつ、一方で増大する高額療養費を負担能力に応じてどのように分かち合うかという観点から、引き続き検討を進めてまいりたいと存じます。実態調査については、国会答弁でも申し上げましたが、それぞれの方が置かれた立場は皆さん違うわけです。そういった意味でいうと、レセプトのデータをベースに今モデル的に分析させていただいているということです。
保団連:
限度額の見直しをするかしないかについては、正にその新政権後の判断という理解でよろしいでしょうか。厚生労働省として現時点で何か方向性を示したものではまだない、議論の途中だという認識でよろしいでしょうか。確認させていただきます。
厚労大臣:
そこについては、正に今、専門委員会でご議論いただいているということですから、その議論の推移を私たちとしては見守りたいと考えています。