4月の新規採用で4割が必要な看護師数を確保できず 入院制限・病棟閉鎖の恐れ  

2025年11月12日

 保団連は10月30日、医療団体連絡会議(医団連:全日本民医連、医療福祉生協連、新医協、日本医労連、保団連)との共催で、「地域医療をまもろう!診療報酬の大幅引き上げを求める大集会」を開催。会場の星陵会館には全国から医師・歯科医師、看護師など医療従事者ら530人(ウェブ参加含む)が集まりました。

社会保障こそ予算の主役に

集会には、自由民主党、立憲民主党、国民民主党、日本共産党の11人の与野党国会議員も駆け付けました。
参加した議員からは、「今一番お金を使うべきは防衛費倍増ではなく医療・社会保障」「社会保障こそが予算の主役になるよう税金の使い方を変えていこう」「総裁選などで政治空白が続く中、全国で毎日、医療機関がつぶれていた。診療報酬引き上げしか解決方法がない」「大学病院も公立病院も赤字で深刻な危機にあり、日本中の医療機関が悲鳴を上げている」「総理大臣が所信表明で診療報酬改定を待たない補正予算での医療・介護の経営支援に触れたのは深刻な実態の反映だ」など、医療危機打開に向けた決意が語られました。日本医師会、日本歯科医師会、岩手県知事ほか、49人の衆参国会議員から賛同メッセージが寄せられました。最後に医療機関の経営危機打開に向けた臨時国会中の財政措置、26年診療報酬改定での診療報酬の大幅引き上げを求めるアピールを採択しました。

物価高騰、収入減で賃上げ厳しい


保団連の竹田智雄会長は、開会あいさつし「厚労省が示す経営指標でも、病院・診療所とも赤字で利益率が大幅に低下している。診療報酬が据え置かれる上、物価高騰、収入減で、職員給与の支払いや賃上げが困難など経営危機の訴えが多数寄せられている。医療現場の人手不足、労働環境の悪化に拍車をかけている。患者負担増や、保険給付の縮小、医療の営利化が進めば、今度は国民皆保険の形骸化をもたらす。診療報酬の期中改定、基本診療料の大幅アップを強く求めていこう」と訴えました。

 

機器の更新や建て替えができない


全日本民医連の寺山公平事務局次長は、「物価高騰で医薬品診療材料、給食材料、水、光熱費などが上がり、消費税支払額が増大しても、それに見合う収入は上乗せされない。医療機器の更新や老朽化した建物の修繕、建て替えができない。公定価格による収入は長年低迷しており、一方で費用は急激に著しく増大する構造が、資金的な余力をそぎ落としている。新興感染症などが起きても対応できるよう平時からの余裕ある体制でもきちんと利益が生み出せる状況が必要だ。賃金が低いために他産業に流れていく医療従事者を生み出さないようにしてほしい」と発言。長年の低診療報酬が、現在の深刻な病院経営の危機の原因と訴えました。

4割が必要な看護師数を確保できず


日本医労連の松田加寿美労連書記次長は「2024年診療報酬、介護報酬改定で、賃上げに特化したベースアップ評価料や新介護加算を盛り込んだが、その効果は極めて限定的で、2・50%のベースアップ目標には程遠い。25年春闘での賃上げ平均率は2・07%、平均額で5772円にとどまり、民間平均(賃上げ率5・52%、平均額1万8629円)の3分の1程度にとどまる。最低でも、全産業平均を上回る賃上げで格差を埋め、すべてのケア労働者の処遇改善につながる施策を取るべきだ。看護現場では、慢性的な人手不足が解消せず、募集をしても応募がない。医労連の調査では、4月の新規採用で、約4割の医療機関が必要な看護師数を確保できなかった、年間の採用者数よりも退職者数の方が上回った医療機関が約6割もある。看護師不足がさらに進むとこれまで以上に病棟閉鎖や病床削減、入院制限など医療提供体制が縮小される。地域医療を守る上で、ケア労働者の賃上げは待ったなしだ」と発言。すべての医療従事者の処遇改善で病院崩壊を防ごうと訴えました。

診療報酬引き上げは医療界の総意

愛知県保険医協会の浅海嘉夫副理事長は、「もう限界です。物価高に見合った診療報酬増額を」「消耗品は3割以上値上げされている」「物価高騰、人件費上昇により、現在の診療報酬では運営維持が困難」「このままでは閉院を検討している」「赤字続きで閉院も考えるが、地域の患者さんの顔を見ると続けたいと思う」「スタッフがとても頑張ってくれているのに、十分給与を上げることができない」「光熱費、医療費、資材代、人件費とすべて上がっているのに、診療報酬だけが取り残されている」などの、会員署名で集まった切実な声を紹介。「診療報酬の大幅な引き上げの要求は医師会、病院団体なども含めた医療界の総意だ。私たちが声を上げれば十分に実現可能だ」と訴えました。

医療機関の赤字は「患者も悲しい」


東京保健生協の野口洋子組合員理事は、患者の立場から、「医療従事者は患者に寄り添い奮闘しているのに、経営が赤字続きなのはとても悲しいし悔しい。賃金も他産業と比べて上がらない状況が続くと、高い志で弱者、患者に寄り添おうと思っても限界があると思う。自分の暮らしが大変になれば、転職しても仕方ない面もある。国が決めた報酬が経費に見合わないことで赤字になるのは絶対におかしい。コロナ禍での医療従事者の奮闘に頭が下がる思いだったが、再び緊急事態が発生したときには、医療機関には余裕がなく、救える命も救えなくなるのではないか」と発言。医療者とともに、地域医療を守る取り組みへの決意を語りました。