石破茂首相は2月21日の衆院予算委員会で、高額療養費の利用者負担引き上げと医療費の削減に関わって、「せっかくだから申し上げておくが、キムリアは1回で3000万円。有名なオプジーボが年間に1000万円」と指摘し、「1月で1000万円以上の医療費がかかるケースが10年間で7倍になっている。何とかしないと(公的医療保険財政の)制度そのものがもたない」と述べた。国政執行の最高責任者たる首相が、特定の医薬品(特定のがん患者)を名指しして、公的医療制度が破綻する要因、今回の高額療養費の見直しの原因(元凶)であるかのように述べたことは、看過し得ない。
とりわけオプジーボやキムリアによる財政影響と問題点について解説する。
医療費割合はオプジーボ0.3%、キムリア0.026%
石破首相の答弁では、保険財政を逼迫している象徴として、抗がん剤オプジーボ、白血病等治療薬キムリアが引き合いに出されているが、オプジーボの国内医薬品売上高(2023年度)は1,455億円、キムリアでは同125億円である(※1)。これは、保険診療に要する医療費・約48兆円(2023年度の国民医療費予想)のうち0.3%、0.026%にすぎない。両剤が保険財政を逼迫しているかのような言い方も不適切である。
さらに、同売上高(2023年度)で第3位のオプジーボを含め、売上高トップテンに入る抗がん剤(4品目)の合計金額(5,382億円)を見ても、医療費に占める割合は約1.1%である。
「がん新薬で保険財政破綻」は大間違い
そもそも、オプジーボやキムリアはじめがん治療新薬では、保険診療で対象となる患者(※疾患、進行度など)は決められており、「最適使用推進ガイドライン」など厳格な使用条件が課されている。また、いわゆる「高額な新薬」は、保険財政への影響に鑑みて、値付けに関わる様々な仕組み(※2)を通じて、薬価(薬剤費)は一定の水準にコントロールされている。
新薬の薬価引き下げに向けた議論は必要だが、がん治療新薬が保険財政を破綻させるかのような言い方は問題である。事実を大幅に誇張して、国民・社会に徒に危機感を煽るような議論はやめるべきである。
(※1)製薬業界の転職支援アンサーズHP、Answers News、「2023年度国内医薬品売上高ランキング」、2024年6月26日)。
(※2)例えば、特例的な対応、市場拡大再算定、用法用量変化再算定、効能変化再算定、外国平均価格調整、費用対効果評価など。